「生而為人(人として生まれる)」を大阪アジアン映画祭で観る

観たときは、デリケートなテーマを乱暴に扱った映画だなあと感じたけれど。

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性分化疾患の人々のインタビューなどを見ると、映画の中にあるような乱暴な扱いを実際にされていているようなのだ。本人の同意なく手術をされてどちらかの性に無理やり当てはめようとしたりとか。映画の場合は外見は男性だが染色体がXXだったので、医者が「女性」だと認定し、本人には包茎手術だと騙して男性器を摘出してしまう。これも現実で実際に起きている事例だ。

そもそも性別が「男」と「女」の二者選択しかないということが、そろそろ時代に合わなくなっているのではないか。ちょっと前まではゲイとビアンちゃんしかいなかったのがLGBTQIA+まで増えてしまってはもう分類する意味がないような。もう個体差でしょと思う。

またそもそも論になってしまうが、戸籍からパスポート、街のアンケートにまで表記されている「男もしくは女」という項目は本当に必要なのだろうか?目の前のゴージャスな美人が、実は戸籍上では男だったとして何だというのだろう。

「子供を妊娠して出産出来るのが女」とすると、体内に子宮も卵巣もあるが妊娠出来ない人は「女」ではないのか?逆に男性器はあっても「無精子」の人は?

そういった性別の定義について考えさせられる映画だった。

とはいってもこの映画の中の「女=ピンク」「アメリカ帰りの野心的な医者=髭と首にスカーフをまく」というキャラ付けは如何にも紋切り型で安直だ。多様性を認める社会になろうと訴える映画というより、単に「珍しい病気に罹ったかわいそうな子」の映画になっているのが残念。

しかし主人公を演じた李玲葦(リー・リンウェイ)は素晴らしい演技を見せている。彼女はドラマ版「返校」でも主演している。映画からのドラマ化なのであまり期待していなかったが、映画のエピソードを踏まえながら更に発展させて物語を膨らませているのが良かった。

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Netflixで配信中。

 

追記:2023年9月22日から日本で「I ~人に生まれて~」のタイトルで一般公開。

i-hitoniumarete.com

なかなか攻めたデザイン。上映期間は短そうなのでお早めに。

「ハネムード」を大阪アジアン映画祭で観る

イスラエルのラブコメ映画ってどんな感じ?と思って鑑賞。

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結婚式後の一夜を描いた楽しい映画。夜のテルアビブの街を主人公たちと一緒に徘徊出来る。

花嫁がラブコメでは定番のちょっとロマンティックでかなり強引な性格。花婿が実は元カノと切れていないんじゃないかと疑心暗鬼になることからこの物語は始まる。実際この元カノもかなりの曲者で確信犯。そんな女たちと過保護な両親に振り回される花婿は、最後キレて偶然出会った美人看護師に惚れるも、この女もなかなかの曲者だった。

そういう振り回しタイプと振り回されタイプのお似合い夫婦ということで、最後はやっぱりハッピーエンド。

主人公以外にも細かい脇役もいい味出している。イケメンSPに囲まれてミュージカル風に踊るシーンが一番好きかも。

大阪アジアン映画祭のサイトにはタリア・ラヴィ監督のインタビューも配信されている。その中で監督が語った「国際的になるためにはローカルであるのが一番です」という言葉に納得。

 

イスラエル映画に興味を持ったら、この映画もおすすめ。 

mingmei2046.hatenablog.com

 

大阪アジアン映画祭で「好好拍電影(映画をつづける)」を観る

今年も無事映画祭が開催されたので、まずは一安心。今年のオープニング作品は許鞍華を追ったドキュメンタリー映画

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映画の中で何度も許鞍華の後ろ姿が映し出されるが、まさに背中が彼女の人生を物語っている。

賞レースの常連であり生けるレジェンドの彼女について、生い立ちから現在の生活まで分かりやすく観客に見せてくれる。

許鞍華は文学作品の映画化が多いが、市井の人々の何気ない日常を撮らせたら天下一品である。「女人、四十(女人四十)1995」「天水圍的日與夜(生きていく日々)2008」「桃姐(桃(タオ)さんのしあわせ)2011 」などは、どれも普通のおばさん(といってもやっぱりきれいだけど)が主人公で特に事件も起きていないのに、ちゃんと映画が成立していることに驚く。この力技には誰もかなわない。

文学作品の映画化では、ちゃんと若い美男美女が登場してメロドラマ的な物語も展開していくのだが、評判や興行成績を見るとやはり前者の方が良かったりする。

今までコンスタントに作品を作り続けている許鞍華だが、さすがに寄る年波には勝てないようだ。この映画の中でも「これからは後継者のサポートに」なんておっしゃているが、骨の髄まで映画人の彼女に引退の文字は似合わない。少数精鋭の小品なら技術も発達しているし、大作より体力は使わないのではないかと思う。

まずは健康第一、今後の活躍も楽しみにしたい。

「同學麥娜絲(同級生マイナス)」をNetflixで観る

台湾では2020年11月20日から一般公開。金馬では最優秀美術賞や最優秀助演男優賞を受賞している。

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舞台は台中市。元同級生の電風、閉結、罐頭、銘添4人のちょっとしょっぱい人生を描いている。最初に監督のナレーションから始まり、最後も画面に乱入してくるところがおもしろい。いわゆるモキュメンタリ―の手法で撮っているのだ。

この映画では名前遊びがいろいろ出てくる。電風(扇風機)は本名の陳典鋒と同じ言い方で、罐頭(缶詰)も本名の林冠陶から取っている。銘添は明天(明日)と同じ言い方なので、選挙のスローガンに使われている。電風の上司の梅益源は「没一元」と同じ言い方なので、一元より安い硬貨の五角というあだ名がつけられた。

タイトルの「麥娜絲」というのは罐頭が学生時代に片思いをしていた同級生の名前だが、前回の作品が「大佛普拉斯(大仏+)」だからこの名前になったのだと思う。

閉結の仕事はお葬式の時に使われるお供え品を紙と竹で作ることだ。これは香港の街角でもよく見かける。台湾映画では巨大サイズのお供え品がよく登場する。この映画の中でも大人4人が座れるぐらいの立派なお供えの家が現れる。

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豪華な噴水と犬付きw内装も立派。

主演の4人はもちろん脇を固める役者も皆実力派。撮影の中島長雄こと鐘孟宏(チョン・モンホン)が撮る何気ない風景の美しさも相変わらずである。

選挙、披露宴、お葬式など台湾ならではの風習も盛りだくさん。台湾には当分まだ行けそうにないので、気分だけでも味わっておこう。

人生はままならないと言い続けた最後に、成功者に変身した主人公たちが登場する。そこではみんな高級車と豪邸と高級ブランドと豪華な食事に囲まれているが、まさしく広告のように嘘っぽい。そこに被さる監督のナレーションがまた身も蓋もない。それでも暗さは無くて、ままならない人独特のユーモアとニヒリズムに救いがあるような気がする。

そして監督が推薦するエンディングテーマだが、そんなに推すのなら字幕を付けてくれてもいいのにと思って、自分でも調べたが「それはちょっと無理w」な内容だった。

「打手槍する暇があるならちゃんと考えろよっ!」って思ってしまう私は、まだまだ監督の諦観の域に達していないのだろう。

イランのサスペンス映画「ウォーデン 消えた死刑囚」

上映期間が1週間しかないので、急いで観に行く。

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1966年の刑務所が舞台。なので全体的にクラシックな雰囲気。古めかしい刑務所内部や、死刑囚の味方になる社会福祉士の服装や赤い車もかなり自分好み。

最初はいかつい制服姿で威厳のある所長が、次第に髪を振り乱して荒野を駆けずり回る姿に変わっていくのがおかしい。昇進の話や美女に浮かれてしまう姿からして好感が持てるいい人なのだ。

刑務所移転のために受刑者を搬送するのだが人数を数えたら1人足りない。もうすぐ解体する無人刑務所の中を駆けずりながら探す職員たち。

この逃亡した死刑囚を探すのがサスペンスなのだが、ヒントが親切すぎてかなり早い段階で成り行きが分かってしまったw

脚本がいいのでそのネタバレ部分を修正すれば、ほかの国でのリメイクも大いに可能だと思う。

最後の逃げた死刑囚からの目線でずっと撮影する長回しは良かった。所長はやっぱりいい人だった。

冒頭のツカミはOK!「ジャスト6.5 闘いの証」を観る

2019年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞したイラン映画。日本でイラン映画ブームが起きたのは私がまだ20代の頃。「規制だらけの中での映画製作も大変だなあ」程度の理解度だったが、そこから時は流れて、娯楽性のある映画が作られるようになったのは感慨深い。

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麻薬犯罪モノだが、ハリウッドや香港映画とは話の流れが違う。執念深い麻薬捜査官と秘密のベールに包まれたマフィアのボスがいれば、やるかやられるかの男くさい戦いが繰り広げられるのが普通。しかしボスは中盤で割とあっさり捕まって、その後は警察側のチームワークの乱れとか、ボスの生い立ちや家族との絆に焦点が当てられていく。

麻薬の一斉捜査で麻薬中毒者達を捕まえに行くのだが、彼らが住んでいるのが「土管」というのがすごい(ポスターの背景部分)。そして彼らをまとめて留置所に放り込むのだが、檻が狭すぎてすし詰め状態。檻から出したときは何故か階段部分に座らされる。

ボスとは関係のない印象的なエピソードとして、12歳の子供が身体障碍者の父親をかばって罪を被るシーンが出てくる。それで釈放になった父親はそれがさも当然のように子供を置いてさっさと帰っていく。取り残されて泣きじゃくるしか出来ない子供。こういったことが日常茶飯事で起きているのだろう。

数人の脇役以外は男だらけなので、美女も出さないといけないと思ったのか紅一点で女優も出演しているが、別に無くてもいいシーンだ。大熱演だけど。

教育も受けられず体力も武力もごく普通の人間が、仕事の無い中でもお金を稼ごうと思ったら麻薬販売に加担するしかないというのは国をも滅ぼす悲劇だと思う。捕まえられたボスが語るスラムでの生活は、私なんて想像すら出来ないレベルなんだろう。貧困というのはお金が無いだけでなく、希望も無い状態のことをいうのだ。

しかし麻薬は世界中で一向に減らない。この映画が男同士の熱い戦いで盛り上げるより、悲惨な現実に近い撮り方をしたのは、何とか麻薬で不幸になる人間を減らしたいからではないかと思った。

第16回大阪アジアン映画祭上映作品発表

緊急事態宣言が継続される中、今年も何とか開催することが出来た。チケットの入手方法がいつもと違っているので、注意しながらチェックしよう。

www.oaff.jp

オープニング作品は文念中(マン・リムチョン)が許鞍華(アン・ホイ)を撮ったドキュメンタリー映画「好好拍電影(映画をつづける)」。

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文念中は大ベテランの香港の美術監督。しかし映画監督は今回が初めて。どんな風に許鞍華を撮っているのか楽しみだ。

 

「遺愛(エリサの日)」香港映画

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首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)の中の作品。主演は鄭中基(ロナルド・チェン)。刑事が麻薬捜査中に、かつての恋人の娘である女の子と出会うお話らしい。中年男と少女の組み合わせは定石中の定石。

 

「ホテル・アイリス(艾莉絲旅館)」日本台湾合作映画

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小川洋子原作の小説を台湾金門島で撮影。永瀬正敏主演。ポスターには李康生(リー・カンション)の文字も。

 

「狂舞派3」香港映画

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去年の金馬ではクロージング作品に選ばれた。ちなみに2は無くて1の次は3。

 

「夜更(夜番)」香港映画

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去年の金馬で最優秀短編賞を受賞した。監督はオムニバス映画「十年」の中で「浮瓜(エキストラ)」を撮った郭臻(クォック・ジョン)。夜勤のタクシー運転手がデモに遭遇した時の話らしい。

 

「手捲煙(手巻き煙草)」香港映画

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こちらも去年の金馬でクロージング作品に選ばれた。元兵士がチンピラとなり、重慶マンションの中でヤクザに追われた男を匿うお話らしい。

 

「奪冠(中国女子バレー)」 中国映画

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今回一番謎。陳可辛(ピーター・チャン)監督、鞏俐(コン・リー)&黃渤(ホアン・ボー)主演。何故陳可辛がこの映画を撮ったのか?予告を見る限り、選手よりコーチ役の2人の方に焦点が当てられているような。

期待していた「親愛的房客」が無くてがっかりしているが、これはもうNetflixにお願いするしかないかな。