冒頭のツカミはOK!「ジャスト6.5 闘いの証」を観る

2019年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞したイラン映画。日本でイラン映画ブームが起きたのは私がまだ20代の頃。「規制だらけの中での映画製作も大変だなあ」程度の理解度だったが、そこから時は流れて、娯楽性のある映画が作られるようになったのは感慨深い。

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麻薬犯罪モノだが、ハリウッドや香港映画とは話の流れが違う。執念深い麻薬捜査官と秘密のベールに包まれたマフィアのボスがいれば、やるかやられるかの男くさい戦いが繰り広げられるのが普通。しかしボスは中盤で割とあっさり捕まって、その後は警察側のチームワークの乱れとか、ボスの生い立ちや家族との絆に焦点が当てられていく。

麻薬の一斉捜査で麻薬中毒者達を捕まえに行くのだが、彼らが住んでいるのが「土管」というのがすごい(ポスターの背景部分)。そして彼らをまとめて留置所に放り込むのだが、檻が狭すぎてすし詰め状態。檻から出したときは何故か階段部分に座らされる。

ボスとは関係のない印象的なエピソードとして、12歳の子供が身体障碍者の父親をかばって罪を被るシーンが出てくる。それで釈放になった父親はそれがさも当然のように子供を置いてさっさと帰っていく。取り残されて泣きじゃくるしか出来ない子供。こういったことが日常茶飯事で起きているのだろう。

数人の脇役以外は男だらけなので、美女も出さないといけないと思ったのか紅一点で女優も出演しているが、別に無くてもいいシーンだ。大熱演だけど。

教育も受けられず体力も武力もごく普通の人間が、仕事の無い中でもお金を稼ごうと思ったら麻薬販売に加担するしかないというのは国をも滅ぼす悲劇だと思う。捕まえられたボスが語るスラムでの生活は、私なんて想像すら出来ないレベルなんだろう。貧困というのはお金が無いだけでなく、希望も無い状態のことをいうのだ。

しかし麻薬は世界中で一向に減らない。この映画が男同士の熱い戦いで盛り上げるより、悲惨な現実に近い撮り方をしたのは、何とか麻薬で不幸になる人間を減らしたいからではないかと思った。