東京国際映画祭で「第一爐香(第一炉香)」を観る

みんな大好き張愛玲(アイリーン・チャン)原作の文芸映画。

f:id:mingmei2046:20201122101038j:plain

1930年代後半の香港が舞台だが、撮影されたのは厦門鼓浪嶼(アモイのコロンス島)。2017年には世界文化遺産にも登録された。

許鞍華(アン・ホイ)監督は、「傾城之戀(傾城の恋)」「半生縁」に続いて張愛玲作品を映画化している。

この作品では立場の違う3人の女性の生き様が印象的だった。戦争で上海から逃れてきた貧乏だが名家の娘葛薇龍、香港の超お金持ちの妾になり実家とは絶縁状態の梁太太、葛薇龍の恋人ジョージに言い寄られて関係を持つが主人に忠誠を尽くすメイド。メイド役の 張鈞甯(チャン・チュンニン)は出番が短いながらも好演していた。こういう耐える女の役が実にうまい。

案外梁太太のパートが多かったのは、薇龍役の馬思純(マー・スーチュン)が少し弱かったせいだろうか。役柄と同じく梁太太に食われた感じだ。

学業を全うして自立した女になろうと、会ったこともないおばの家に押しかけるくらいの押しの強さはあっても、海千山千の梁太太の前では赤子同然。まんまと梁太太の策に嵌まり、いい様に操られていく。この辺りのやり方が見事。綺麗なドレスときらびやかな社交界の世界でまず舞い上がらせて、後戻り出来ないようにさせていく。そして薇龍の目の前で生意気なメイドに重い処罰を科す。自分を裏切ったらどうなるか見せつけるためだ。怖い怖い。

そして喬琪喬(ジョージ)と結婚することによって、薇龍は梁太太から逃げられなくなる。ジョージと梁太太の関係も怪しいものだが、映画では特に触れられていない。薇龍が梁太太が斡旋する娼婦になることも映画ではあまり触れていない。

このジョージが曲者で、父親への反抗心から決して自分では働こうとはせず、常に甘い言葉と肉体で逆玉を狙っている。悪い奴じゃないんだけど、結婚には向いていない。と周りの人たちにも正直に話しているのだから、薇龍も分かっていたはずなのに。この複雑な役をポンちゃん(彭于晏/エディ・ポン)が演じているが、彼には影の要素がまったく無いんだなあと改めて再確認してしまった。脱いでもエロくないし。

「第一爐香」とあるのは張愛玲の小説には「第二爐香」もあるからで、こちらは年代は同じだが、全く別の内容になっている。

日本語訳の本があったので、今度読んでみよう。

www.iwanami.co.jp

沈香屑 第一炉香」「中国が愛を知ったころ」「同級生」の3作品が収められているらしい。

あの時何が起きたのか?「我們的青春,在台灣(私たちの青春、台湾)2019」

今日は東京映画祭は一休み。久しぶりのポレポレ東中野でこの映画を観た。

f:id:mingmei2046:20201123211705j:plain

当時私も台北にいて、毎日ニュースにかじりついていた。そしていつか誰かが映画やドラマにするだろうから、そうしたら必ず観ようと思っていた。

これは立法院を占拠したひまわり運動の前後を撮影したドキュメンタリー映画である。

反体制の難しさは、体制に対抗するために自分たちも体制化しなくてはいけないことだ。リーダーが出来、複数のサブがそれを補佐し、それぞれのグループが組織化して分業化していく。それはまさに今自分たちが非難している体制のミニ版ではないのか?この映画の中でもリーダーを中心とする学生たちが密閉された部屋で会議ばかりしているので、外にいる学生たちから不満の声が上がり始める。危ういギリギリの状況の中に彼らがいたことが分かる。

そしてまたこの映画は、この運動を撮影しようと決めた監督自身のセルフポートレートでもある。最後には自分の弱さを吐露して終わる。このやり方に意見する人もいると思うが、私は「それが青春なんだよ」と監督の肩をポンポンと叩きたくなった。

辛亥革命は1895年の最初の武装蜂起から1911年までの16年間、10回武装蜂起をしては失敗している。中国共産党1921年に結成してから国民党との内戦に勝つまで28年かかっている。

これで終わりじゃない。でも台湾が戦場になるようなことは望んでいない。

東京フィルメックスで「無聲」を観る

2020年台北電影節のオープニング作品であり、金馬では8部門でノミネートされた。

f:id:mingmei2046:20201118222208p:plain

中高一貫の特殊学校で起きた集団性犯罪事件。子供たちの悲痛な叫びは長い間、外には届かなかった。

f:id:mingmei2046:20201118222542j:plain

メインの3人。教師を劉冠廷(リウ・グアンティン)、被害者の貝貝(ベイベイ)を陳姸霏(バフィー・チェン)、彼女を必死に助けようとする転校生を劉子銓(リウ・ズーチュアン)がそれぞれ演じている。

陳姸霏は今年20歳。15歳で芸能界に入り、今年はこの作品のほかに「孤味(弱くて強い女たち)」にも出演して、一気に人気が急上昇している。

劉子銓は「你的孩子不是你的孩子(子供はあなたの所有物ではない)」での「媽媽的遙控器(母のリモコン)」で主演をつとめている。彼は今年17歳。

演じる役の振り幅がすごい劉冠廷は、ここでは子供たちの側に立ち、学校の責任を究明していく真摯な教師を真面目に演じている。熱くてむさくるしい演技じゃなくてホッとした。

この3人の他に、事件の中心人物小光を演じているのは韓国の金玄彬(キム・ヒョンビン←韓流アイドルじゃないほう)。

f:id:mingmei2046:20201118230610j:plain

彼の役が一番複雑で難しい。友達を自分の支配下に置くサイコパスかと思いきや、彼にも暗い過去があった。日本や韓国のドラマが好きな監督が自分で見つけたらしい。彼は今年16歳。

監督はこれが長編映画デビューとなる柯貞年(コー・チェンニエン)。プロデューサーは瞿友寧(チュウ・ヨウニン)。


上映の後はリモートでのQ&Aがあった。

filmex.jp

なんの説明もないのでうっかり帰るところだったが、スクリーンに映ったQRコードをスキャンしようとモタモタしていたら突然始まった。知らずに帰っちゃった人も結構いただろう。

東京国際映画祭で「孤味(弱くて強い女たち)」を観る

釜山国際映画祭ではワールドプレミアとして上映、金馬では最優秀主演女優賞など6部門でノミネート。台湾では11月6日から一般公開された。

f:id:mingmei2046:20190410183458j:plain

長女は謝盈萱(シェ・インシュエン)、次女は徐若瑄(ビビアン・スー)、謎の三女は張鈞甯(チャン・チュンニン)、四女は孫可芳(スン・クーファン)、次女の娘は陳姸霏(バフィー・チェン)そして母親は台湾のおばあちゃんこと陳淑芳(チェン・シューファン)。舞台は台南。食べ物のおいしい地域である。

この女系家族の前に失踪した父親の訃報が飛び込んできて一波乱が起きる。女性中心で進む映画なのだが、彼女たちの心の中心にはしっかりと父親が存在している。浮気症で事業に失敗したダメ男のために苦労を重ねた母親も、結局はずっと好きだったんだねと最後に分かる仕組み。とにかく愛に溢れた映画である。

3人姉妹(三女は里子に出されたので公にはされていない)のキャラがそれぞれ個性的。その個性にも父親の影響が反映されている。

父親のお葬式で道教と仏教が鉢合わせするシーンは台湾ならではだ。タクシーの中にカラオケがあるのもびっくり。でも最後、そのタクシーの中で母親と父親がカラオケで仲直りするシーンがじーんとくる。

ビビアン・スーがプロデューサー兼主演でエンディングの歌まで歌っていた。華奢な外見とはうらはらにタフに台湾芸能界を生きている。

東京国際映画祭のHPではTIFFトークサロンの動画が視聴可能。インタビューは英語のみ。

2020.tiff-jp.net

監督はかなり明るい性格。脚本も監督が書いている。

東京国際映画祭で「カムアンドゴー」を観る

かなり早めにEXシアター六本木に着いてしまったが、入り口でリムカーワイ監督が立ち話をしているのに出くわした。監督が関西弁で話しているw

f:id:mingmei2046:20201119200518j:plain

158分と長丁場だが、観るとあっという間だった。群像劇なので登場人物が入れ替わり立ち代わりで退屈しない。大阪を知り尽くした監督ならではのロケ地のチョイスに唸らされる。

大阪の良さが滲み出ていて楽しい。やっぱり関西弁ではシリアスにはなれない。妻の浮気現場を目撃した刑事(千原せいじ)と妻とのやりとりも、どうしても吉本新喜劇調になってしまう。

そして何故か李康生(リー・カンション)が、日本のフーゾクオタクみたいな役で出演していた。世界的にも有名な俳優のはずなのに、以前にも「SASHIMI 沙西米(2015)」という女体盛りが出てくる台湾映画に主演していた。

f:id:mingmei2046:20201119203714j:plain

ポスターにドン引きで、中身は見ていない。李康生は良く分からない人である。

今年私が観た映画の中では唯一舞台挨拶とQ&Aを生で観ることが出来た。やっぱりこうでなくては。

その模様は、東京国際映画祭のHPでも視聴可能。

2020.tiff-jp.net

監督の印象としては「遊牧映画人」がぴったりだ。マレーシア出身の華僑だが、どこにいてもその土地に馴染みそう。

そんなリムカーワイ監督だが、12月25日から大阪のシネヌーヴォで特集が組まれることになった。トークショウもあり。

『いつか、どこかで』公開記念 『新世界の夜明け』10周年記念 リム・カーワイ 無国籍5部作一挙上映!

今年のシメはリムカーワイ映画になりそうだ。

東京国際映画祭で「兎子暴力(兎たちの暴走)」を観る

最初は観る予定にはなかったが、朝通りすがりの入口のポスターを見て、その場で観ることに決めた。

f:id:mingmei2046:20201116140721j:plain

私の写真の撮り方が悪かったわけではなく、もともとこういうデザイン。

2011年に南京で実際に起きた誘拐殺人事件が元ネタ。それを四川省攀枝花に場所を替えて撮影。このロケ地が新旧入り混じっていてとてもおもしろい場所だった。

話の中心はダンサーの母親と高校生の娘、そして娘の親友2人だ。監督も女性なので、美術や小道具にも気を使っていて、物語の進行も登場人物の心情に沿って丁寧に進められている。

脚本も監督自身が書いていて、脚本の段階で起承転結の結の部分を冒頭に持ってくることは決まっていたそうだ。まだ自分が赤ん坊だった時に家を出た母親と再会し、親友たちと一緒にトンネルに向かう部分がクライマックスで、その後は坂道を転がるように母親のダメな部分が露呈していく。それでも何とか母親を救おうと犯罪にまで手を染めようとする高校生の決意が胸を打つ。

そういった物語の構成が秀逸で、失われていたものを獲得してまた再び失われそうになった時の人間の行動心理を上手に描いている。途中で母親と娘の役割が逆転して、必死に母親を守ろうとする娘が健気。実際の事件でも母親は早々に自白したのに、娘はかたくなに母親を庇っていたらしい。

母親役の万茜(ワン・チエン)は今回もすごく良かった。黄覚(ホアン・ジュエ)の侠気のあるチンピラ兄貴の役も良かった。映画「南方車站的聚会(鵞鳥湖の夜)」にも2人は出演している。そこでの黄覚はスケベで有無を言わせないコワモテ役で、一瞬だけの出演だったが存在感はピカイチだった。

中国本土ではまだ上映されていないので、情報はネット上でも少ない。この手の映画は大都市でも公開は難しい。2週間上映されればいいほうだろう。

TIFFトークサロンでは申瑜(シェン・ユー)監督をゲストに迎えた動画が視聴可能だが、残念ながら監督の音声が小さすぎてとても聞きずらい。

2020.tiff-jp.net

文字のみのインタビューの方が分かりやすいかも。

2020.tiff-jp.net

画像の通りまだまだ若い監督なので、今後に期待だ。ジャンルや形式にはこだわらないそうなので、ドラマの監督とかもあるかもしれない。

東京国際映画祭で「惡之畫(悪の絵)」を観る

無差別殺人犯よりも、彼に絵を教える画家の気持ちの揺らぎに重点が置かれていた。

f:id:mingmei2046:20201112215226j:plain

今回はずっと坊主頭の黄河

「罪と才能は天秤にかけることは出来るのか?」がこの作品のテーマだと思った。しかし天才的な才能があるからと言って犯した罪が軽くなるわけではない。

この映画の中でも、無差別殺人を犯した死刑囚を中心に、加害者家族と被害者たちがそれぞれの感情をぶつけ合う。それはまさに巨大台風に巻き込まれていくような人生だ。しかし事件の中心にいる犯人の心は静まり返った台風の目のようで、事件そのものがまるで他人事なのだ。そんな人間にとって大事な感情が決定的に欠落している犯人を、黄河は見事に演じきっていた。観ていて一瞬ちょっと怖かった。

犯罪心理やサイコパスになる理由にはやはり興味があっていろいろ見たりするが、真っ暗闇の深淵をのぞき込むように毎回足がすくむ。

始めは髪ボサボサで垢抜けない画家が、最後には小ざっぱりとしてシュッとした業界人っぽく変身したのには笑えた。

 

zoomを使ったオンラインイベントが11月6日にあり一応申し込んだが、仕事中だったので参加できず。まずzoomがよく分からずじまい(笑)。

 

その後東京国際映画祭のHPにTIFFトークサロンがアップされていたのでそちらを鑑賞。

2020.tiff-jp.net

パソコンのスペックの良しあしが影響してしまうのはつらいところだ。それでも今年は無しだと思っていたQ&Aが見られるのはうれしい。