台湾の選挙が分かる「人選之人─造浪者(Wave Makers〜選挙の人々〜)」

Netflixで4月28日から配信していたのをやっと一気見した。約50分×8話の選挙のお仕事ドラマ。裏取引とか権力闘争とかのドロドロした展開は少なめで、如何に党として選挙を運営するかということに重点が置かれている。

台湾に行くと、街中に一番多く見かけるのがアイドルのポスターなどではなく、選挙に出る人の広告だったりするのに最初驚いた。選挙中なら選挙カラーごとに分かれた人々にしょっちゅう出くわしたりもする。総じて日本よりも盛り上がっていてちょっとしたお祭り気分だ。毎回の投票率も60%を超えているらしいし、若者の投票率も高い。つまりそれだけ台湾人は選挙を信じているということだ。選挙を通じて世の中は変えられると。

このドラマで一番印象的だったのが、党の内部で働く人々がみんな明るくて自分の職務に邁進していること。もちろん他の職場と同じく、セクハラや軋轢やしがらみもある。でもめげない。そこが一気に見続けられた理由だ。

脚本の細部が実にリアル。共働き夫婦の夫側と妻側の気持ちのすれ違い方とか、不倫に持ち込むときの男の誘い方とか。結局オッサンに社内のセクハラ案件は任せられないんだなとか。

今回も戴立忍(レオン・ダイ)が実に見事にクズ男を演じている。社会経験と恋愛経験が少ない20代の女子は、ああいうオッサンに対して本当に注意が必要だ。

総統選挙に出馬する林月真役の賴佩霞(タミー・ライ)は歌手で作家で大学助教授でと多才。実際に今年9月に2024年の総統選挙における副総統として出馬することを表明した。このドラマが自身の選挙に影響したかどうかは不明。でも次期総統役は本当にハマっていた。

ワイヤーもCGも無し!(多分)「ベイビーわるきゅーれ」がNetflixで配信中

9月18日からNetflixで配信開始。イマドキの高校生が実はプロの殺し屋だった。その性格とアクションのギャップがすごい。

ものすごくシステマティックな殺し屋稼業を請け負っている2人の設定が面白い。映画「レオン」もそうだが、殺し屋なんてそもそも社会不適合者がする職業だろうにw

そんな普段はダルダルな2人が、殺しとなると全くの別人に変身。バディとしても息ぴったり。2人同時に銃を構えるシーンには痺れる。

いろいろなアクションを見せてくれるが、体当たりの実践的な型が多い。そのアクションを盛り上げるカメラワークと音楽もばっちり。

掃除屋の田坂さんも出番は短めなのに印象は強烈。それを受けてBlue-Rayの初回限定版および豪華版には、オリジナルスピンオフドラマ「田坂さんの一日」が収録されている。これもすごく見たい~。

続編「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」も今年の3月に公開されたが、完全ノーマークでまだ見ていない。予告編を見ると前作よりパワーアップしている。


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これも是非Netflixで配信して欲しい。それかどこかの映画館で上映してくれないかな。

Netflixで2度見する「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」

実は日本で公開した時に真っ先に観に行ったが、「並行宇宙を行き来する壮大な母娘ゲンカ」ぐらいしか訳が分からず、観ている間中ずっと「?」が点滅しっぱなしだった。

いろんなパターンがあるが、このポスターが一番好き。

なので今回改めてじっくり観ることにした。
まずは監督のダニエル・クワンダニエル・シャイナートを知るために、長編デビュー作「スイス・アーミー・マン」の話をしなくてはいけない。

ふざけた設定で、よく映画にできたなと思う。

一見下ネタが小学生レベルのこの映画は、深く掘り下げれば掘り下げるほど違う意味合いを持つ多重構造になっている。

この多重構造が今回の並行宇宙に繋がって、いくつもの世界が同時進行していく形になっていく。この辺りが前回観た時に混乱した原因だ。

でも真ん中の部分は至ってシンプルで、強い家族の絆に収束されていく。

そしてこの映画の主役をはれるのはやはり楊紫瓊(ミシェール・ヨー)しかいない。アクションはもちろん文芸作品でもコメディでも何でも出来るスーパー女優である。この映画の中では変顔したり、派手に吐いたり、おもらししたり、大女優なのにNGはまったくなしという懐の大きさを見せている。

マレーシア華僑出身なので、夫とは北京語、お父さんとは広東語、娘とは英語と言葉を使い分けた会話も難なくクリア。

「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」も是非。

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90年代の名作も蘇る「獨立時代(エドワード・ヤンの恋愛時代)4Kレストア版」

90年代前半の台北が舞台。さまざまな人物が入れ代わり立ち代わり登場する群像劇。それを2時間にまとめ上げてハッピーエンドで終わる脚本が素晴らしい。ちょっとしか出番がない役にもキャラを持たせているので、いろいろ想像するのも楽しい。

時代背景としては、80年代からの高度経済成長を経て、交通網が整備され台北市周辺の街も再開発され、次第にサービス業が産業の中心に移っていく頃。厳戒令が解除されたのは1987年。民主化の機運も高まって1994年には初めて国民党以外の政党の台北市長が誕生した。

体裁は90年代のトレンディドラマそのもので、登場するのはバリキャリ女子やヤンエグ男子(古いなあ)に、芸術家に小説家だったりしてきらびやか。歴史からのお堅い引用句や哲学的なセリフを多用しながらもベースはコメディだ。まさに「人生は喜劇そのもの」。それぞれがウオサオしながら自分の思い通りにいかなくて地団駄を踏んでいる。

その中でもっとも気になったのが、琪琪(チチ)とMolly(モーリー)の関係性。学生時代からの親友という設定だが、もっと近しい感じがする。朝会社で仲直りするシーンとかもう老境に入った夫婦のようだ。それを楊德昌(エドワード・ヤン)監督はシルエットだけで見せている。

台湾映画ではお馴染みの顔もちらほら。琪琪役の陳湘琪(チェン・シャンチー)はこの後蔡明亮ツァイ・ミンリャン)監督作品の常連となり、今でもバリバリの現役女優だ。琪琪の彼氏小明の同僚役には陳以文(チェン・イーウェン)、上司役には金士傑(ジン・シージエ)。小明の継母役には香港でも活躍している金燕玲(エレイン・ジン)。

「恐怖分子(1986)」も好き。

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誰が一番の悪人だったのか「DELETE/デリート」

Netflixで6月28日から配信開始。15日は台風のため1日中家にいたので、全8話を一気に見た。

タイでおもしろい映画や作品を作り続けてヒットを飛ばしているgdhNetflix制作のドラマ。

主演は映画「スピード&ラブ」のナット・キッチャリット。今回は2枚目路線。最初はW不倫をして邪魔になった恋人を消すクズ男だったが、最後は心を入れ替える。その恋人役にはチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(オークベーブ)。すぐに消えるので今回出番はそんなに多くない。不倫相手役には映画「ハッピー・オールド・イヤー」で、元カレの彼女を演じたサリカー・サートシンスパー。綺麗なだけの女優かと思いきや、結構ボロボロな姿で体当たりの演技もしている。事件を担当する刑事役には映画「ハンガー:飽くなき食への道」でカリスマシェフを演じたノパチャイ・チャイヤナーム。

それぞれみんな最初登場するときは悪人っぽいのだが、優しい部分や弱い部分も見えてきて両方併せ持っているのがわかる。

人を消せるスマホというかカメラの説明は一切なし。ただ一つ明かされているのは、誰か(A)を消した人(B)が消えた場合、その消えた人(A)はまた戻ってこられるということ。そのお約束のために無間ループでお互いを消そうと必死になる。

おもしろいと思ったところは夜のカーチェイスが本当に真っ暗闇なところ。確かに田舎の設定だけど、普通なら夜とはいいながらもう少し明るい場所で撮影すると思う。

24時間スーパーもタイでは当たり前な存在らしい。でも従業員が数人しかいない大型スーパーって大丈夫かなとも思うw

ラストのオチは結構衝撃的。ちっともめでたしめでたしではない。どうなってしまうのかすごく気になる。

SEASON2を期待して待つのみ。

濱マイクが令和に蘇る「私立探偵 濱マイク 30周年記念4Kリマスター版」

映画が上映された1994年といえば、私は東京に出てきたばっかりで、渋谷で働いていたにも関わらず映画を観に行くことはほぼ皆無だった頃である。

そして当時の永瀬正敏は、サントリーのザ・カクテルバーのCMで「愛だろ、愛っ。」を流行らせたり、J-PHONEで映画みたいなCMに出演したりと男女どちらからも大人気だった。

映画の存在は知ってはいたが今まで見たことがなかった。特に予習もしないまま今回初めて鑑賞する。

場所は横浜黄金町。横浜日劇の2階に探偵事務所を構える私立探偵濱マイクの物語。90年代の街のいかがわしさがまだ残っている。

そしていきなり台湾人が登場して中国語を話し出す。そして濱マイクはそのまま台湾ヤクザと日本のヤクザの抗争に巻き込まれる。

最後は台湾ロケも敢行している。風景を見ると九份とか金瓜石っぽいと思っていたらやっぱりそのあたりだった。出てくるお寺は天公廟。

今後「遥かな時代の階段を」を8月18日から9月7日まで、「罠 THE TRAP」を9月8日から28日まで上映する。

これは観なくては。

神戸の名画座パルシネマしんこうえんで「ベルリン・天使の詩 4Kレストア版」を観る

昔から映画が好きだったが、足繫く映画館に通えるようになったのは自分で稼げるようになってからだ。日本での公開当時はまだ貧乏な学生で、大ブームになったのは覚えているがちゃんとは見ていない。

流石4Kレストア版で映像がきれい。

天使が人間に恋をして人間界に降りるお話だが、核心はもっと骨太。甘いクリームに包まれたケーキの中にザワークラウトやソーセージが入っていたみたいな。

「おっさんが天使」という設定が意表を突く。そして基本何も出来ない。つらい人に寄り添うだけ。そして図書館で集まって、自分たちが集めた物語を交換する。

でもその存在自体がすごく優しい。自分がつらい時にも天使がこうやって寄り添ってくれていたらいいなとつい考えてしまう。

廃墟と化したベルリンの街を天使と一緒に歩き回るおじいさんの姿が痛々しい。このおじいさんはナチスが台頭してぐちゃぐちゃになる前のベルリンの街を知っているのだ。

天使ダミエルは人間になったが、もう一人の天使カシエルはそのまま天使であり続け、今度はダミエルとダミエルが恋したマリオンを見守り続ける。

そして元天使だった俳優としてピーター・フォークが本人役で出演している。ピーター・フォークといえば「うちのカミさんがね」が口癖の刑事コロンボだ。本当に元天使なのか真偽のほどが分からないくらい飄々としていておもしろい。

この3人の天使の三者三様の生き様も考えさせられる。

ライブハウスで流れる音楽もいい。そのライブハウスで遂にダミエルとマリオンが出会う。この時のマリオンの長科白の意味は町山智弘さんの解説を見て欲しい。

この映画が公開されたのは1987年(日本は1988年)。ベルリンの壁崩壊は1989年。その後ソビエト連邦が崩壊したのが1991年だ。時代は大きく動いたが、その後は混迷さが増すばかりだ。

天使は今でも人間に寄り添ってくれているのだろうか?