セックスワークは何を売り買いしているのか「SEBASTIANセバスチャン」

近畿ではアップリンク京都でしか観れなかったので、底冷えのする京都まで行って来た(テアトル梅田ではいつの間にか終了)。

小説家志望の24歳の男が、取材のためにセックスワーカーになるが次第に深みにはまっていくお話。もともとゲイなので男性とセックスすることに抵抗はない。しかしこれが金銭を介した仕事となると話は変わってくる。

主人公はこのポスターの通り、ちょっと内向的なイケメン。対するお客は年齢も職業もバラバラで、こデブのおっさんだったり、マッチョで髭のお兄さんだったりする。

セックスシーンはがっつりあるが、インティマシー・コーディネーターが入っているので、そのものは映っていない。だってそこがポイントではないから。

セックスをテーマにした小説は、下世話な好奇心も刺激されて注目されるのは当然。結局みんな他人のセックスが気になって仕方がないのだ。でもありきたりな小説から一線を画すにはやはり才能が必要だ。

本を読む人は少なくなる一方だと思うが、本を書きたい人は逆に増えているという矛盾。出版社にとっては作者の書きたいものより売れるものを作らなくてはいけない。そんな出版業界の実情もこの映画では垣間見える。

ある日、主人公が心優しいお客の部屋で「野生の夜に」という小説を見つける。これは映画化もされて日本でも1993年に公開され、私も当時観た。

まだまだおぼこい時に観たので、「エイズに感染しているのに、セックスしまくっちゃダメでしょう!」っていうのが最初の感想だ。またこのローラという女も結構ヤンキー気質で、タガが外れたカップルの恋愛をフランスのエスプリでコーティングするとこうなるという見本みたいな映画だなと思った。

わざわざこの小説を大事なシーンにぶち込んだということは、監督は多大な影響を受けたに違いない。今改めて見るとまた感想が違うんだろう。

結果的に主人公はデビュー作も無事出版され、人間的にも一回り成長しておしまいになる。でも人生ってそこからだから。

BLを超えたBL映画「10DANCE」

井上佐藤のBL漫画が原作。Netflixで12月18日から配信。ありがちなBL映画だと思い観ていなかったが、BLとは縁の無さそうな会社の同僚から是非と勧められ、観たらハマって只今エンドレスリピート中。

Netflixがお金を出しているので資金が潤沢。日本国内では東京近辺以外にも、静岡、大阪で撮影されていて、イギリスのブラックプールタワーでもロケをしている。

流石「るろうに剣心」の大友啓史監督。ダンスシーンの見せ方がとてもうまい。主演4人のダンスの本気度も半端ない。ダンス映画としても十分見ごたえがあるのだがそこにBL要素が入ると更にエロさが増す。

映画の中でも説明しているが、もともとソーシャルダンスは求愛の表現であり形を変えたセックスでもある。だから男女ペアで踊るのが通常だが、そこを男同士に変えると独特な魅力がプラスされる(だから歌舞伎も京劇も男性のみだ)。

最近ではBLも市民権を得て目にする機会も増えたが玉石混淆で、単に腐女子をターゲットに低予算で量産しているだけじゃないかと思う時もある。

しかしこの映画はBL好きな人に向けてのツボもちゃんと押さえているし、それほどBLにピンとこない人でも楽しめる二重底構造になっているのがおもしろい。

特に杉木の激しい言葉攻めからの最後「お姫様になれましたか?」と相手を持ち上げるセリフは即死レベル。

そして映像がきれい。クリスマスデコレーションで飾られた電車内での初めてのキスシーンや、2人が心を通わせるホールドのシーンで敢えて床に落ちた影のみを撮影したり。

最後に2人が一緒に踊る10ダンスはとにかくゴージャス!うっとり。

激しいセックスシーンなど無くても素晴らしいBL作品は成立するといういいお手本。

思ったほどノレなかった「ぼくたちん家」

テレビを殆ど見なくなり、ドラマも配信でまとめて観ることが多い。でも「ぼくたちん家」はNetflixで配信されていたので、律儀に毎週毎週観ていた。

及川光博が満を持してゲイ役で主役を務めている。個人的にもゲイ役のミッチーを見てみたいとずーっと思っていた。あ、ちなみに私はかつてファンクラブにも入っていたベイベーの1人でもある。

    

マツキヨのCMで一目ぼれ。そしてファンクラブに入会するともらえるノベルティ。退会した後もずっとキーホルダーにつけていたが、最近遂に壊れてしまった。

心優しい50歳のゲイ役を演じたミッチーも素敵。個性的な俳優が個性的なキャラをそれぞれ演じていてそれはいいんだが、話の流れが唐突過ぎてついていけない。

恋と革命?かすがいにするために家を買う?母親が横領した3000万を使って父親契約?そして母親は全国のご当地キーホルダーを集めるために家出?そして将来の夢はギター職人???

これらを視聴者に納得させるほどの力量が脚本にまったくないのが一番の問題。おのおのの問題は何ひとつ解決していないのに、何となく解決した風な体でふわふわと進んでいくだけ。

やりたいことは分かる。ほっこりする疑似家族のホームドラマが作りたかったのだろう。そこにちょちょこ社会派な提言を挟みはするんだけど、どれも猫パンチ並みの弱さ。職場における正社員と契約社員の給料の格差とか男女の差別とか、同性婚の婚姻制度の不備とか今更ここで言われても。

ホームドラマに鉄板の動物も多く登場するのに、撮り方が普通でもうちょっとみんなを可愛く撮ってほしかった。

そんな中、ずば抜けて力が入っていたのが劇中に登場するBL漫画「ハッピーエンドまで3歩」略して「ハピさん」。

設定としては3巻で完結する漫画で、ドラマ内でサイン会の会場を設営したのだが、この作りこみがすごかった。漫画の装丁はもちろん、ポスターやグッズの種類が半端ない。Xでは実際に漫画も読める。ここでドラマでは足りないキュンキュンさを補充できる形になっている。

恋愛ドラマに必要なのはやっぱりキュンキュンさではないのか?それが男女間の恋愛ドラマではもはや望めないのでBLを見てしまうのではないか。

今度はミッチーを主演にしたキュンキュンするドラマを是非見てみたいものだと思う。

全ての謎が解けた!「如果我不曾見過太陽」第二部

12月11日に第5話まで一気に続けて観た後風邪を引いて寝込んでしまい、その間悶々としながら寝ていた。ようやく良くなってから何とか最後まで観ることが出来た。

年代が交差するのはもちろん、役柄もどんどん変化して、1人3役とか3人1役とか、役者の力量が問われる作りになっている。曾敬驊(ツェン・ジンホア)の繊細な演技も良かったし、李沐(ムーン・リー)はやっぱりバケモノ級の演技力だなと感心したり。その2人に対峙するヒール役を石知田(シー・チーティエン)が演じているが、こちらも見事な悪役っぷりで見ごたえがあった。

K哥は予想通りやっぱりいい人で、その娘役は映画「左撇子女孩(左利きの少女)」でも活躍していた葉子綺だった。

最後まで観てみれば、運命的な出会いを果たした2人の究極の純愛ドラマだった。多くの人に愛され支えられた江曉彤はきっと立ち直るだろう。

これで終わりじゃない「如果我不曾見過太陽(もしも太陽を見なかったなら)」

Netflixで配信中の台湾ドラマ。迂闊にも10話まで観て初めて続きがあることが発覚。

連続殺人犯をインタビューすることになったドキュメンタリー映画の新米助手にある女性の霊が憑りついて、何かを知らせようとしている。

と書くと、台湾お得意のミステリーホラーかなと思ってしまうが、もう少し地に足の着いたお話になっている。

とにかく主人公の1人、連続殺人犯の李壬曜(リーレンヤオ)の不幸のドミノ倒しっぷりがすごい。父親がギャンブル狂いでDVで金のためなら息子を売ることも厭わないダメ人間。母親はそんな父親に全てを依存する気弱な性格。そして学校では何故か同級生のボンボングループから毎回因縁を付けられ、罠にはめられて覚醒剤まで打たれてしまう。そんな八方塞がりで絶望の中にいた彼の人生に、太陽みたいに光を当ててくれた女の子が江曉彤(ジャンシャオトン)。単なる陽気な高校生役だったら李沐(ムーン・リー)でなくてもいいのだが、彼女の人生を一変させる出来事が起きた後の李沐の演技はやはり流石。

脇役も渋く配置されていて、父親の借金を取り立てるK哥には姚淳耀(ジャック・ヤオ)。しがないチンピラだが、実は壬曜をかっている。もしかしらK哥の生い立ちも壬曜と似たり寄ったりなのかもしれない。だから本心では助けてあげたいが力不足という心の葛藤が垣間見える。

壬曜の母親大好きっぷりも幼少期のエピソードを挿入して納得感がある。

その李壬曜を演じるのが、曾敬驊(ツェン・ジンファ)。無口な役どころながら、目で心情を表現する演技がいい。今年の金馬奬では映画「我家的事(我が家の事)」で最優秀助演男優賞を獲得している。

11月からの配信は10話までで、その10話目になって柯佳嬿(アリス・クー)が登場。しかも盲目で、蝶のタトゥーが!伏線張りまくりで待てと言われても持てないっす。

17年経っても変わらぬ美しさ「落下の王国 4Kデジタルリマスター」

大好きな映画の一つ。平日の昼間の回なのに5割以上埋まっていた。

17年前に観た時の感想はこちら。

mingmei2046.hatenablog.com

観方が浅いよ、17年前の自分。最初男は女の子の気を引こうと語り始めるが、次第に2人で創造する壮大な物語になり、遂には女の子がその物語に入り込んで体を張って男を救う。それこそが魂の救済だ。

風景の美しさもさることながら、石岡瑛子の衣装にもため息が出る。

おそろいの衣装もかわいい。

そしてあらためて撮影のたいへんさを思い知らされる。

これとか多分本当に建てたんだと思う。CGではなく。エキストラの数も半端ない。その衣装を世界各地に運びながら撮影しているのがすごい。

この敵役の黒い衣装もかっちょいい。
現実と物語を行き来しながら、現実にいる人と物語の登場人物たちをオーバーラップさせている。入れ歯のおじいちゃんが、物語の中ではお腹に鳥を飼っている人になるとか。

最後に往年のスタントマンのシーンが次々と流れるが、これも当たり前だがどれもCGなしのリアルなアクションだ。逆に当時どうやって撮ったのか知りたいぐらいだ。

大きい画面で観るべき映画だが、テアトル梅田のスクリーンは残念ながらそれほど大きくない。観るんだったら1列目の真ん中がおすすめ。

カンタン・デュピューにおちょくられている?「セカンド・アクト」

映画の予告編が面白かったので、元町映画館まで観に行って来た。


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こんな予告編を作れる監督なら本編も面白いに違いないと思い観た。

正統派の映画監督には作れないスタイル。虚実入り乱れて一体どこに向かっているのかまったく分からない。

最初の長回しからおもしろい。最後に撮影時にカメラを乗せるためのレールが果てしなく続く風景が映し出されるが、こういうことを思いつけるのがすごい。

演出方法として、俳優が急にカメラ目線になったり、観客に語りかけたりというのはよくあるが、映画製作の裏をバラしたと見せかけてそれも実はフィクションですよとここまで何度もしつこく重ねられるのは初めて。しかもネタバレ直前までそれぞれのエピソードがよかったりするから、何度もうっかり騙された。そして最後にはAIの映画監督も登場する。実は近未来の映画だったんかい?!

イデア一発勝負的な監督かと思いきや案外深いんじゃないかと探るんだけど、軽快なテンポで進むのでコメディ映画として楽しむことも出来るし、深読みが好きならどこまでも妄想できてしまうという何とも楽しい入り子状態な映画だった。

映画のついでに周辺のおいしいパン屋巡りと、何とも通な洋服屋巡りも出来てしまう神戸ってやっぱりおしゃれだな。