ストレート同志が恋をしたらどうなるか?「マティアス&マキシム」

グザヴィエ・ドランが監督、脚本、編集、衣装、プロデューサーを担当した意欲作。

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ちなみに左がマティアスで、右がマキシム(マックス)。

確かにこれはゲイ映画ではない。ストレートが同性愛に目覚める話でもない。絵にかいたようなイケメン同士が禁断の愛を深めるBLでもない。フツーのにいちゃんが急に「やべ、もしかしてオレあいつのこと好きなの?!」とあたふたするお話である。

特にマティアスの動揺っぷりがすごい。キスした翌日に湖に泳ぎに行ったまま迷子になって溺れかけたりとか。マキシムのことが気になり過ぎて、つい「あざ野郎」なんて口走ってしまったり。

逆にマキシムのほうは表面的には冷静で、でも今までのような友達づきあいは出来なくなるんじゃないかと内心不安に思っている。そういった内向的な性格は家庭の事情によるものだ。終始爪噛みまくりで、やはり深爪がすごいことになっている。

一番の盛り上がりは2度目のキスシーンなのだが、なにせストレート同士なので勝手が分からずでキスのみで終わる。それでもドランの気合がビシビシ伝わるシーンだ。

面白キャラが多く登場するが、やはり一番はマカフィ弁護士だろう。彼は完全にバイセクシャルだ。というか彼こそ性別なんて関係無さそう。

今回も音楽が秀逸。選曲とその使い方は流石。時々思わせぶりな人物が登場するのもドランっぽい。全部は説明してくれないので「察してくれ」ということか?

最後のオチとなるシーンは人によって解釈は様々だが、結局仲のいい幼馴染に戻ったのかなと思う。

「レディバード(2017)」をNetflixで観る

男子のこじらせ青春映画は多々あって、そこに登場する女子は大抵クールで主人公より大人だったりする。でも女子だってやっぱりこじらせているのだ。

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グレタ・ガーウィグが脚本、監督を担当。自身の経験を元にしているが、それを全世界共通のあるある要素にまで高めているのが素晴らしい。グレタ・ガーウィグが脚本と主演を担当している映画「フランシス・ハ(2012)」同様特にショッキングな出来事は起きず、日々の積み重ねを丁寧に描いている。あ、でも地下鉄での放尿シーンにはびっくりしたがw

かなり前から病んだ人の映画や漫画などの作品を見るのがしんどくなってきている。方向違いの演出や役者の熱演に引くこともあるし、まず感情移入出来ない。どんなにうまかろうがスパイス盛り盛りのカレーばっかり毎日は食えない。そんな時にじっくり出汁のきいたおでんなんて食べれば、ほっこりしてしまうのは当然。

但しこの映画はただほっこりするだけではない。ちゃんと辛子も一味唐辛子も用意されている。なので自意識過剰だった昔の自分がしたことを逐一思い出して、何度も赤面してしまう。

特に未経験の主人公が果敢にセックスに挑む姿勢とか。それで何とか初体験をクリアしたもののがっかりな結果に終わってしまうところとか。

母親と衝突したり、学校でちょっとした騒動を起こしたり、仲のいい友達と離れたりまたくっついたり。

そんなエピソードにいちいち反応してしまう自分が恥ずかしくて懐かしい。まあ今でもこじらせている部分は殆ど直っていないが。

逆転の発想!昼間なのに怖い「ミッドサマー ディレクターズカット版」

ホラーと戦争映画はすすんで観ることはないが、どうにも気になるのでアップリンク京都まで行って観てきた。

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結局幽霊も呪いも最後まで出てこないので、ホラーというよりは「人は如何にしてカルト教団の信者になるのか」というドキュメンタリーを観たような気分になった。

多くの人が熱狂するのもうなずける。エロくてグロいシーンだらけだが、ジメジメ感はまったくなくいたって爽やか。フォークロアなモチーフがちりばめられていて、乙女チック。ロケ地はそれこそ女子が好きそうな"インスタ映え”するところばかりだ。

似たような内容の映画なら以前にもかなりあった。しかしそれは未開のジャングルで人食い族に襲われるようなB級ホラーだ。それに引き換えこの映画の舞台は白夜の北欧スウェーデン。白い民族衣装で着飾り花冠を載せた乙女たちが草原で踊るのだ。オシャレ度は格段に上だ。

そしてホラーの主人公と言えばか弱くて可愛い女子が常識だが、フローレンス・ピューの外見はとてもたくましい。彼女なら役作りで痩せようと思えば痩せられると思うのに、たくましいまま撮ってしまうアリ・アスター監督もかなり型破りだと思う。

日本での配給は株式会社ファントム・フィルムさんなのだが、最近ほんとよくこの名前に出くわす。映画の趣味が被りすぎ。宣伝の仕方もうまいよね。

この映画のヒットにより、今後のホラーの形も変わっていきそうだ。

そしてこれからも日本のどこかで上映予定。

https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=midsommar

 

追記:2021年9月からNetflixで、通常版とディレクターズカット版の両方を配信。

地味だけど観てしまうドラマ「マインドハンター」

Netflixでシーズン2まで配信中。デヴィット・フィンチャーが製作総指揮と一部監督を務めている。

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1970年代にFBI行動科学班がプロファイリング捜査を如何に確立していったかを描いている。デヴィット・フィンチャーは以前にも映画「ゾディアック」を撮っているので、70年代の作品はお手の物。

シリアルキラーを追い詰めていく話だが、画的には地味。ショッキングなシーンはあまり登場せず、せいぜい証拠写真の中がエグいぐらい。それでも刑務所の中での既に捕まったシリアルキラーたちとの対話は見ているこちらも緊張してしまう。

もともとコリン・ウィルソンの本や犯罪心理学には昔から興味があって読んでいるので、事件の内容は何となく覚えている。この犯人たちと、演じている俳優たちがかなり似ている。

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サイコパス自体はかなりの割合でいて、社会的な地位についている人も結構いるらしい。要はその性質を日常生活に生かせるかどうかだろう。

ドラマではFBIはプロファイリングで捜査していきたいのに、地元警察からうさんくさい目で見られてなかなかうまく進まない。確かに現場で足を使って捜査をしている地元警察からしてみれば、データだけで犯人の特徴を言い当てるプロファイリングは、怪しい占いレベルにしか感じられないだろう。

特にアトランタの事件は人種差別問題が底辺にあって、結局未解決のままシーズン2も終わる。しかも既に別の連続殺人事件は始まっているのだ。どうなるシーズン3⁉

ところがデヴィット・フィンチャーの多忙のせいで、シーズン3のスケジュールは今のところ白紙だとか。

ドラマ自体も犯人たちと同じく無期懲役中。

勝てない相手に挑む恋「早春(1970)」

町山智浩推し」で一度は観てみたかった映画。シネ・ヌ―ヴォで「‘’恋する男“映画祭」として2回だけ上映。

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15歳のマイクは学校をやめて、プール付きの公衆浴場で働き始める。でもマイクは不良でも何でもないフツーの男の子。両親とは仲がいいし、可愛い元同級生からも言い寄られる。それなのに同僚のスーザンを好きになってしまう。彼女はお金持ちの婚約者がいながら学校の先生とも不倫をしていて、チップ目当てにお客に性的なサービスをするのも平気な女の子だ。そんな彼女に何とか近づこうとするマイクだが、黒帯有段者にド素人が試合を申し込むようなもの。結果は目に見えている。

ずっとマイク目線(15歳童貞男子)で映画は語られるので、スーザンの心情については詳しく語られない。男からすれば、若くて性にユルくて美人でナイスバディで後腐れのない都合のいい女なんだろうが、それぞれの男との関係ではあくまでも彼女が主導権を握っている。ヤるヤらないは彼女が決めるのだ。この年でその域に到達できるのはすごい。

結局マイクは駄々をこねて何とかスーザンとヤれそうになるが不発に終わる。そして青春の甘酸っぱい思い出として幕を閉じるのかと思いきや、酸っぱさを通り越して超苦くなって終わる。これではスーザンが浮かばれない。

映画の中でスーザンと婚約者がデートで映画を観るが、それが「性教育風ポルノ映画」だった。映画「タクシードライバー(1976)」にも似たような映画が登場していたが、どっちも絶対デート向きじゃないだろう。しかし今でも男はこういうことをしがちだ。

2018年にデジタル・リマスターされているので画像は鮮明。東欧風の褪せた色遣いとか内装は大好きだ。

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劇場は客席を半分に制限されているとはいえほぼ満席。女子は数人いただけで男だらけだった。

男だったらみんなマイクに共感出来るのだろうか?

アップリンク京都でグザヴィエ・ドラン祭

9月25日から新作映画「マティアス&マキシム」が上映されるのに合わせて、特集が組まれたりしているグザヴィエ・ドランアップリンク京都では「見逃した映画特集」で、ドランが監督もしくは主演をした映画をまとめて上映していた。

その中で私が観たのは「たかが世界の終わり」「トム・アット・ザ・ファーム」「エレファント・ソング」の3作品。

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演じたい役がなかったので、自分で映画を撮ることにしたドラン。これだけ若くてイケメンで演技力もあればいろんなオファーがあったと思うが、よっぽど女とのラブシーンが死ぬほど嫌だったんじゃないかと邪推してしまう。普通ならアイドル俳優として有名になりそうなものだが、彼の深爪のすごさに闇を感じる。

3作品の中で一番印象深いのは「トム・アット・ザ・ファーム」。言葉での説明はあまりない代わりに他の方法でいろいろ親切に教えてくれる映画だった。「分かってくれなかったらどうしよう」という不安からああいう形になったと思うが、それぞれのヒントが唐突すぎておもしろかった。2つのベッドの位置とか、フランシスが最後のシーンで着ているダサい「U.S.A」のジャケットがその後に流れる音楽と繋がっていたりとか。

「エレファント・ソング」は予告編のほうがおもしろかった。精神科医と頭脳明晰な患者との緊迫したやり取りを描いた映画はたくさんあるし、私も大好きな分野だ。なのに医師の家庭の話が多すぎて、ミステリアスな部分が薄まってしまった。

たかが世界の終わり」は如何ともしがたい家族の話。兄貴が家族に向かっていちいち突っかかる理由がイマイチ分からないが、「私は何でもお見通しよ」的な態度を取っているママがやっぱり原因なんだろうなあ。それにしてもアップ多すぎw

「マティアス&マキシム」は大阪市内では大阪ステーションシティシネマなんばパークスシネマで上映予定。多分その後いろいろ廻りそう。

https://phantom-film.com/m-m/

名作はいつ見ても名作「蜘蛛女のキス(1985)」

最近久々に原作を読み返したばかりで、そこに映画の再上映のニュース。これは観なくてはと京都シネマまで参上した。

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日本での初上映の時、私はまだおぼこい田舎の女の子だったので観ていない。ただ当時吉田秋生がイラストでこの映画を絶賛していたのを今でも覚えている。1980年代はエイズが最初に流行して、エイズ=同性愛者たちの病気だという偏見に満ちていた時代である。そんな同性愛者たちに対して風当たりの強かった時に製作されたこの映画は、世界中で高い評価を得た。

原作は会話だけで進められ、場所もほぼ刑務所の中なので舞台のほうが向いている。そこをこの映画はうまい具合に映像化に成功している。

とにかくモリ―ナの愛情を追い求める姿がせつない。そしてそれはいつも報われない。今でもそうだが、ハッピーエンドで終わる同性愛映画はまず無い。それが決まりだとでもいうように。この映画でもモリ―ナは愛するヴァレンティンのために命を懸けて死んでしまう。

そこで疑問が残る。はたしてヴァレンティンはモリーナを愛していたのだろうか?ヴァレンティンがいつも思い浮かべるのはかつての恋人マルタだ。外にいる仲間と連絡を取るためにモリーナの好意を利用したのか?もしかしたらヴァレンティンもモリーナに対して感謝と好意を持っていたかもしれない。しかしガチストレートな男が素直にそれを受け入れるとは考え難い。そんなこんなで映画のラストはマルタとモリーナが一体化したようなかんじになったのかなと思った。刑務所から出られないヴァレンティンにとって愛というのはすべて夢か幻想でしかない。

京都シネマさんは上映前の注意はスタッフさんが直接説明をする。そこで「上映の時は帽子をお脱ぎください」という一文が加えられた。

「普通映画が始まったら脱ぐでしょ⁈常識として」と思ったが、脱がない客がいるからこうやって説明しているのだろう。

前に「前の席を蹴るのをやめましょう」という注意が出来た時も「そこまで言うか⁈」とのけぞったが、今ではそれがどの映画館に行っても聞かされるようになった。

京都シネマさんに来るようなお客でこうなら、輩が多そうな他の映画館は推して知るべしである。

「2時間じっとして鑑賞するなんてもう無理!」みたいな風潮になっていることは確実だな。