大阪アジアン映画祭で「堕落花」を観る

監督は「G殺」で颯爽とデビューした李卓斌(リー・チョクバン)、主演は香港の美魔女、溫碧霞(アイリーン・ワン)。香港では4月9日から一般公開。

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溫碧霞は以前「愛在深秋(2016)」という映画で知った。美魔女とはいえその映画の中のムリな若作りと古臭い演技にドン引き。

しかし「堕落花」の中の溫碧霞はガラリとイメージを一新。といっても溫碧霞の演技力が上達したというわけではない。いや溫碧霞自体は何も変わっていない。もしかしたら俳優の良しあしなんて監督次第なんじゃないかと思ってしまう。

新しい香港マフィア映画を作ろうという李卓斌の気概が伝わってくる。冒頭の貨物船の上のコンテナに囲まれた葬儀や、人物に直接映像を投影するセックスシーンなど、新しいアイデアが次々登場する。ダークな色調を基本にしてグロいシーンもあるが美学を感じさせる。

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年季が入ったヤク中のヒロインなんてなかなか無い。その他の登場人物も曲者揃いでみんなイカれている。「英皇電影」て品行方正な映画会社だと思っていたが、今後はこういった路線の映画も増やしていくのかもしれない。

大阪アジアン映画祭で「江湖無難事(ギャングとオスカー、そして生ける屍)」を観る

ヤクザ×ゾンビの単純に楽しい映画。台湾で見逃したので、大阪で観られたことがうれしい。

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「映画を撮る」映画がもともと好きなので楽しみにしていた。日本のヤクザも登場して、お互い騙し合いながら最後は主人公たちの勝ちとなる。

ヤクザの親分はお馴染みの龍劭華(ロン・シャオホア)。

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ヤクザの親分なのに、どんどん映画の役にのめり込んでいく姿がおかしい。体育教師役なのでジャージ姿でゾンビと闘うシーンもある。

撮影場所は主に高雄。最後のシーンは台糖専属碼頭。他の映画やドラマでもよく登場する。そして「ゾンビが追いかけるシーン」を撮るシーンはドラマ「麻薬風爆」で田舎の病院として登場した病院ではないかと推測。入口の階段部分とか。

それにしても何故みんなそんなにゾンビ映画が撮りたいのだろう???

 

追記:2020年11月28日に台湾文化センターとアジアンパラダイス共催のイベントシリーズに、「ギャングだってオスカー狙いますが、何か?」のタイトルでオンライン配信された。高炳權(ガオ・ピンチュアン)監督とのQ&Aもあった。時間内であれば、何度も繰り返し見たいところを見られるので便利。来年も続けて欲しい。

大阪アジアン映画祭で「チャンシルは福も多いね」を観る

ある香港スターの幽霊が出演しているということで鑑賞。彼が登場するたび会場は笑いに包まれた。

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何故敢えてこの姿wせっかくなのだから京劇とか、ロン毛で赤いハイヒールとか、いろいろなコスプレ姿で登場して欲しかった。

40代で失業失恋してしまう映画プロデューサーが主人公。この普通感が絶妙。

特に何かが起きるわけでも、人生の問題も解決していなくても、何となく観た後ほっこりする。

大阪アジアン映画祭で「有鬼(ノーボディ)」を観る

この作品もネットでは一切資料がなく、白紙のまま鑑賞。

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自分で仕立てたスーツを着て毎日同じバスに乗り唾を吐くお婆さんと、父親の浮気現場を撮影しようとする少女との交流を描いた作品。

たびたびインサートされる女性は実はお婆さんの若かりし頃の恋人であり、ある日病気の治療を拒否してバスに轢かれて死んでしまう。そこで実はこれは女性同士の恋愛映画なのだと気付く。

年を取るとあまり性差が感じられなくなるが、このお婆さんも少女の兄からお爺さんだと勘違いされる場面がある。そこから援助交際の疑惑が広まり、近所の人々から責められてしまう。このシーンが見ていてつらい。寡黙なお婆さんはここでも沈黙したままだ。

世間を憎みながら過ごしてきたお婆さんが何故少女には心を開いたのか。ちょっと強引な少女にかつての恋人の面影を重ねたのかもしれない。

ある日少女がお婆さんの部屋にいる時に急に生理になってしまう。そこでお婆さんは少女のために生理用品を買ってあげて、恋人の大事な洋服も貸してあげている。ここでは少女はまさに現在進行形で生きている「生の象徴」なのだ。恋人が死んでから終わってしまったお婆さんの人生がまた動きだしそうになってこの映画は終わる。

LGBT作品はどちらかというと悲劇が多いような気がする。差別や無理解は昔に比べて少しは減っただろうか?

全ての人が心安らかに生きていけるような社会になればいい。

大阪アジアン映画祭で「Happy Old Year(ハッピーオールドイヤー)」を観る

今回、最優秀作品賞を受賞したのも納得の出来栄え。台湾では「就愛断捨離」というタイトルで2月14日から、香港では「無痛断捨離」というタイトルで3月26日から公開。

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それぞれのポスター。恋愛映画のように見えるがもっと奥が深い。

モノを捨てるというのは記憶を捨てるということ。主人公は遂に捨てきれず元の持主たちに返していく過程で、感謝されたり自分勝手さを指摘されたりする。

そういう自分もいろんなものを捨ててここまできてしまった。もしかしたら捨ててはいけないものまで捨てたかもしれない。でもその時は、捨てないと前に進めなかったから捨てたんだと思う。そのことで誰かに責められた時は、この主人公同様甘んじて受け止めよう。

主人公を演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンは今までシリアスな役が多かったが、コメディもイケるとこの作品で証明してみせた。今後は更に役の幅が広がっていくだろう。元カレ役のサニー・スワンメーターノンは「フリーランス(2016)」では坊主頭の3枚目役だったが、今回はぐっとカッコよくなって登場。

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騰訊視頻(テンセントビデオ)では126分ヴァージョンで「恋愛診療中」のタイトルで配信中(簡体字字幕のみ)。日本でもどこかで配信してくれるといいが。

そしてこのナワポン・タムロンラタナリット監督も今後要注意だ。でもタイ人の名前って長いから覚えるのがたいへんだ。愛称があっても馴染みがないとなかなか覚えられない。タイが好きな人はどうやって覚えるのだろう?

 

追記:2020年12月11日より日本でも「ハッピー・オールド・イヤー」の邦題で一般公開。

www.zaziefilms.com

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日本のポスターデザインのほうが手間暇かかっている。こっちの方が映画の内容にも沿っているし。公式サイトもかわいい。劇場情報には東京の映画館しかないがもっと全国に広げて欲しい。観るべし!

 

追記2:Netflixで配信中。

大阪アジアン映画祭で「迷失安狄(ミス・アンディ)」を観る

マレーシアと台湾の合作映画。プロデューサーは林心如(ルビー・リン)でベトナム人として出演もしている。これが世界初上映で、事前に見ることが出来る資料がほとんどない状態だった。

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マレーシアが舞台。妻に先立たれた後に女として生きることに決めたが、子供たちとは疎遠になり、世間の目も冷たい。トランスジェンダーの先輩でもある親友を亡くした後、不法労働のベトナム人親子と知り合い一緒に住むことになる。そこで一瞬の心の触れ合いを得るが、非情な裏切りにあってしまう。何ともやりきれない。
同性愛をテーマにした作品と言えば、BLも含め思春期の登場人物が多い。しかし最近LGBTの老後問題を扱う作品が増えてきている。香港の「翠絲(トレイシー)」「叔.叔」、今回大阪アジアン映画祭で同時公開された台湾の「有鬼(ノーバディ)」もそうだ。

誰しも「老いていく恐怖」というものがあり、残された時間の中で自分の好きな通りに生きたいと思うのは自然なことだ。ただその思いを周りが受け入れてくれるかどうかはまた別問題だ。

人生の最後を楽しく生きるためには、自分の思いを徐々に周りに理解させるやり方を学ぶべきだし、それにはやはりLGBTに限らずマイノリティーがどんどん声を出していくしかないのではないかと思う。

タイでサスペンスは難しい?「スリープレス・ソサエティ: 不眠症の女」

Netflixで公開中のタイのサスペンスドラマ。全13話。主演がチュティモン・ジョンジャルーンスックジン(タイ人の名前は長い)なので見てみることにした。

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母親が起こしたとされる殺人事件が起きて以来7年間、不眠症に悩まされる人気モデルのアイヤ。真相を探るため故郷の島に帰るが、様々な妨害に遭う。それでも幼馴染たちの協力もあり、次第に真犯人を追い詰めていく。

脚本はかなり練られているが、あらすじ通りに撮影するのに必死で細かいディティールにまで気が回らなかった感がある。

まずアイヤがモデルに見えないw衣装があまりに普通。どの家もセキュリティーが甘すぎて誰でもいつでも忍び込めてしまう。秘密の話を何故か屋外で相談している。案の定他の人間に聞かれてしまう。プロのカメラマンである母親が犯罪現場に遭遇して証拠写真を撮るのにフラッシュを使ってしまうという痛恨のミスはありえないだろう。

それでも普通のタイの暮らしを見るのは新鮮。そしてチュティモンちゃんの演技はやっぱり素晴らしい。不眠症の役なので常に目の下にクマがあってちょっとかわいそうwそして撮る角度によって表情がすごく変わる。不思議な女優さんだ。