人はどうして自殺してしまうのか「年少日記」

2日しかない休みの中で是非とも観たかった作品。監督は新人の卓亦謙(ニック・チェク)、プロデューサーは爾冬陞(イー・トンシン)。香港では11月16日から一般公開される。

卓亦謙監督は長編映画はこれがデビュー作だが、これまで多くの脚本を書いている。その他に香港電影金像奨の式典の総合演出を担当していて、香港のスター総出演の宣伝用映像も撮っている。爾冬陞(イー・トンシン)とは以前から一緒に仕事をしている顔なじみだ。

この映画でも脚本を担当しているが、その構成力が見事。観客はみんな一度は騙されてしまうだろう。

とにかく子役が素晴らしい。傑仔(兄)役の黃梓樂はすでにベテラン。「主役の子供時代の役」として多くの作品に出演している。有俊(弟)役の何珀廉もこの若さでwキャリアを積んでいる。

コメディ色が強い鄭中基(ロナルド・チェン)は今回DV親父を見事に演じている。この父親はおそらく自分自身も同じように厳しく育てられて、世間的には成功した人間なのだろう。なので、自分の家族にも同じようにすればうまくいくと思っている。でもそれは自分の成功体験に則った、独りよがりの「良き家族」のイメージでしかすぎない。そんな親の幻想につきあわされる子供は不幸だ。

最終的にこの家族はばらばらに解体される。DV親父もやがて年老いて病気になり、弱者の立場に変わってやっと息子にやさしさを見せるようになる。

そして今度はその息子が父親になるためにウオサオする。そのヨメ役を陳漢娜(ハンナ・チャン)が演じている。この2人のなれそめエピソードが微笑ましい。陳漢娜は、今いろんな作品に引っ張りだこの人気者だが、コレ!という主演作はまだない。今後に期待だ。

上映後には監督と主演の盧鎮業(ロー・ジャンイップ)が登場してQ&Aがあった。

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インタビューでも言われているが、中国語では「自殺」のことを湾曲した言い方で「輕生」と言う。日本語で「命を粗末にする」と言うのと同じだろうか。

「自殺は周りに及ぼす影響が本人が思う以上に大きいので良くない」とは言え、本人はもうギリギリラインの上で踏ん張る気力も無くなって一線を越えてしまうので、周りのことまで気にしていられないのが普通だろう。最近死に向かう人の映画を立て続けに観たので(「アフターサン」とか「ザ・ホエール」とか)、そこまで行ってしまった人に対して他の人は何も出来ないのではないかと思う。逆に「つらかったんだね、お疲れ様」と、最期の言葉をかけてやりたいと思うようになった。実際生きていくのはしんどいことばかりだ。

それでも何とか日々やり過ごしている。この世に生まれてきたのに意味は無くても、生きていくうちにしがらみやら関係性が生まれて、責任とか義務も背負うようになって、もしかして自分にも何か果たさなきゃいけない任務があるんじゃないかとか思い始めて、ジタバタしているうちに寿命が尽きるんだろうなと思う。

生まれがガチな浄土真宗の土地だからそういう考えになったのかも知れないが。浄土真宗では天寿を全うして死ぬことはめでたい事なのだ。何せどんな極悪人でも死んだら誰でも即極楽浄土に行けるのだから。でもちゃんとお勤めを果たさないと地獄に落とされてしまうよ。

そんなことを映画を観終わった後でも、つらつらと考え続けていた。この映画も鬱っぽい人は見ない方がいいかも。