香港国際電影節で「八個女人一台戯」を観る

香港では既に1月に一般公開されているからと思って、油断していたら6時の時点でもう長蛇の列。

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こうして並ぶと梁詠琪(ジジ・リョン)の背の高さが分かる。

長いブランクの後に舞台に挑戦するかつての人気女優と、因縁の関係である後輩女優との熱い戦い。でも最後は分かりあって仲良くなる。そんな2人の中に大ベテラン趙雅芝(アンジー・チウ)を持ってくるあたり、關錦鵬(スタンリー・クワン)監督のキャスティングの妙が冴える。

ジェンダーの話題もサラリと入っている。舞台監督は既に性転換手術を受けた元男性。かつての人気女優をそっと支えるのは長年のファンでもあるビアンちゃんだ。そして16歳の息子はどうも男の子が好きらしい。

舞台挨拶の場面では会場中大盛り上がり。ジジに対しては「八婆~!」の掛け声も。

そしてサミーに対してもみんな熱い声援を送っていた。

この映画の中のサミーの演技は、正直「う~ん?」。一番近い例で言うと、かつての中森明菜主演のドラマ「ボーダー 犯罪心理捜査ファイル」を見ていた時の感じか。

逆にジジの演技の幅の広がりに感心する。目じりの皺も隠さない潔さも好感が持てる。

観終わった後で、「女性8人いたっけ?」って思ってしまったが、まあいいだろう。

香港国際電影節で「幻土(A LAND IMAGINED)」を観る

2018年東京フィルメックスでも上映。シンガポール映画。撮影は日本人の浦田秀穂。

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監督はこれが長編2作目。失踪した中国人と刑事の夢が交差するはずなのに、その繋がりがセリフでの説明だけ。共通するのはどちらも不眠症なのだが、何故刑事がいきなり全裸でルームランナーで走り出すのかが分からない。別に見たくないって。

映画の流れがちょっとぎこちなくて「?」がいっぱい。結局不眠症刑事の勇み足だったのか?バングラデシュ人のトモダチは死んでないのだし。ネットカフェの意味有り気女も尻切れトンボ。

最後まで読んだのに犯人が結局誰なのか分からないミステリー小説のようだった。それでも映像がとびっきり美しければ許せるが、それはそれほどでも。

雰囲気だけで映画を引っ張るには、新人監督では無理がある。

映画の後には監督、主演女優を交えてQ&A。

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シンガポールは大陸以外の国で唯一簡体字を標準表記している国で、公の場での言葉も北京語が標準だ。この時も通訳は最初北京語主体で始まったが、観客は気にせず広東語で質問。そりゃそうだ。ここは香港だ。それを英語に変えて監督に伝えていた。そして監督は英語で応答していた。そしてそれを通訳はまた広東語に変換。

北京語の出る幕無し。

 

追記:気がつけばこれもNetflixで配信中。日本語字幕でもう一度見たらもっと理解が深まるだろうか。

香港国際電影節で「夜明け」を観る

日本で見逃したので。香港では4月25日から一般上映。

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やはり目当ては主演2人の演技のぶつかり合い。主演以外でもみんなそれぞれの役割をきちんと演じていた(多少それが説明的ではあったが)。

ただ個人的に言えば、この映画のどのキャラにも入り込むことは出来なかった。

それぞれ人間関係が希薄で相手を否定するばかり。哲郎は息子の音楽がくだらないと思っているし、息子は木工の仕事がくだらないと思っている。

そして主人公の光は世の中全部、自分の存在まで全否定している。そして何が起きても動かないこと山の如しだ。

「傷つけるのも傷つくのも嫌で、他人に期待もしていないので期待もされたくないし、なるべく息を殺しながら何事も無いように」ずっと生き続けるなんて到底不可能だと思うが、そうなりたい人が予想以上にこの世の中には多そうだ。

私も昔は「何とか世の中とは少なく関りながら自分の好きなように生きていけないか」試行錯誤を続けた時もあったが、出てきた結果は「あ、これ無理だな」だった。

人生なんて迷惑かけてかけられて、ケンカして仲直りして、怒って泣くのが普通なのだ。1人の天才の影に何十人もの支える人がいて、初めてその天才は好きなことをやり通せるのだ。もし自分がその天才じゃなかったら?そうしたら支える側にまわればいい。

映画の後は監督&プロデューサーを交えてのQ&A。

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はっきりした終わり方ではないのでそこを突っ込まれるが、監督も断言はしないまま説明していた。そういう明快な結果で終わるような映画ではないだろう。

そうやって観客を悶々させるのが、広瀬監督の手腕なのかもしれない。

人生の逆流に挑戦するおっさんたち!「逆流大叔(Men On The Dragon)」

最近、香港でも昔の名作やちょい前のヒット作を不定期だが映画館で上映するようになった。しかし直前にならないと上映場所と時間が分からない。これも前日に気が付いて大慌てではるばる屯門まで出かけた。でも案の定道に迷って最初の10分間を見過ごしてしまった。

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爽やかなおっさんず。

ネット回線の工事を担当する阿龍とその仲間は、リストラを回避するため会社が設立したドラゴンボードチームに参加することになる。最初はいやいや練習していたが、しだいにハマっていく。しかし会社が投資に失敗し、ドラゴンボードチームは突如解散に。それに納得いかない仲間たちはストを起こして試合に挑む。

4人のおっさんずはそれぞれ問題をかかえており、ドラゴンボードの練習を通じて解決策を見出していく。

特に呉鎮宇(ン・ジャンユー)のパートがメインになっていて、隣に住む母娘にかいがいしく尽している。試合の後にドラゴンボードでそのままみんなで沙田婚姻登記所に向かうシーンに感動する。

役者たちも実際にドラゴンボードを漕がなくてはいけないので、みんな鍛えていい体をしている。しかし呉鎮宇は最後まで脱がない。盛り上がった上腕筋は素敵なのに。

香港ネタとして「英雄本色(男たちの挽歌)」「劉徳華アンディ・ラウ)のコンサートチケット」「香港精神(香港スピリット)」をうまく織り交ぜてローカル感を出している。

分かりやすいスポ根ドラマで、日本でもウケそう。新宿武蔵野館あたりで是非上映して欲しい。

香港国際電影節で「翠絲(トレイシー)」を観る

2018年東京国際映画祭でも上映。

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姜皓文(フィリップ・キョン)にトランスジェンダーの役が出来るのか不安だったが、ずっと抑圧して隠しているという設定で、姜皓文の中にそういった要素が無くても何とかクリアしている。

初恋の相手阿正の夫、邦はとても重要な役柄で、台湾出身の黄河が演じている。ホテルで邦が悲しみに暮れるシーンは、見ているこちらも切なくなる。

主演だけでなくこの映画は脇役のキャスティングも素晴らしい。妻役を恵紅英(カラ・ワイ)、大雄の親友役を葛民輝(エリック・コット)が演じている。広東オペラの女形役の袁富華も良かった。

監督はこれが長編デビューの新人。新人なので俳優の演技に頼っている部分が多いのは仕方がないかなと思う。しかしこうした強力なバックアップがあるのが香港映画の強みだ。

梅艶芳(アニタ・ムイ)との思い出がいっぱい「朝花夕拾、芳華絶代(Dearest Anita)」

何とか滑り込みセーフで銅鑼湾で鑑賞。

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インディーズ映画のような出来で、いろんな人が協力している。しかしやっつけ感はいなめず、せっかくいい話なのに魅力が半減してしまっている。

アニタ姐さんのファンたちが登場し、「自分はこんなにアニタ姐さんにお世話になった」というエピソードをいくつか披露するが、それが箇条書きっぽい。過去の再現シーンも美術の作りこみも不十分だし、アニタ役は終始後ろ姿だけでアテレコの声も超不自然だ。これは予算が無かったからだろうが、日本の再現ドラマのレベルにも達していない。当時のアニタ姐さんの映像を流すシーンもあるが、著作権絡みなのだろうが画質がイマイチだ。

ファンの代表役として登場する郭羨妮は常に女優ライトを浴びて画面から浮いているし、胡杏児の老け役も老け切れていない。

上映後にはこの映画の元ネタとなったファンの方のあいさつがあって、どうやら私的な意味合いのある上映らしかった。

それでもアニタ姐さんに対する愛だけは溢れんばかりな映画だった。

香港国際電影節で「三夫(三人の夫)」を観る

2018年東京国際映画祭でも上映。18禁。インタビューの様子が今でもネットで見られるが、現地のとりすました質問に苦笑。

香港では3月28日から一般上映。

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「エロス」ではなく「エロ」を真正面からがっつり四つに組んで捉えた映画。フェミニズムや倫理的な立場から非難を浴びそうな設定だが、それも陳果(フルーツ・チャン)監督の想定内のはずだ。誰もが(AVでさえ)表現しようとして失敗してきた「エロ」を陳果は見事に映し出していると思う。

主演の女優を見た時、妊婦の土偶を思い出した。そういう原初的な力強さがある。

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こういうやつ。

彼女の身体の奥底から絶えることなく湧いて出る性欲を何とかしようと、3人の夫は香港中を小さな漁船で駆けずり回る。

映画の間中、ずっとさまざまなシチュエーションでセックスしているが、挿入には重きを置いておらず(このことも他の作品と正反対)、彼女の性欲を満足させることが一番重要になっている。そしてそんなセックスシーンより、パパイヤのシーンのほうが見ていていやらしかった。

そして取ってつけたかのような「人魚伝説」は感想に困るであろう頭の良さそうなプレスたちのために、前もって陳果が用意したかのようだ。

植物でさえおしべとめしべでセックスするのだ。結局、人間の男女も同じだ。