香港で「流浪地球(さまよえる地球/流転の地球)」を観る

今週になってがくんと上映回数が減ったので慌てて旺角の映画館へ。

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既にNetflixで190カ国、28言語での配信予定が決定している。

流石にVFXは素晴らしい出来。特に北京、上海が氷河で覆われているシーンは、馴染みがあるだけに圧巻。大画面で見る木星の模様もとても美しい。

反対にVFX以外の部分は何だか泥臭くてダサい。中学生の制服が未だにジャージ。人物のセリフの掛け合いや、トラックに乗り込む時の注意を催す音声もダサい。おそらく郭帆監督本来のセンスがそうなのだろう。

そのため時代設定に戸惑う。太陽が膨張するとすれば早くても何百年後の話になるはずなのに地下シェルターの様子も教室の様子も90年代感いっぱい。

特別出演といいながらほぼ主演の呉京ウー・ジン)は、最後に自己犠牲も厭わず地球を救う。そこで家族の写真が何度も登場するが、そこもやっぱり写真じゃなくて動画なんじゃないかと思う。

他で指摘がある通り、今までのSF映画の名作をつなぎ合わせた感は否めない。SFに疎い監督が一生懸命お勉強して、VFXは専門チームが作り上げて出来た映画だ。

太陽系から地球がまるごと脱出する設定うんぬんについて突っ込むことはやめよう。それをいったらヤマトとか999とかもナシになってしまうよ。

香港国際電影節で「自由行」を観る

2018年東京フィルメックスでも上映。

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中国大陸から実際に出禁になった応亮(イン・リャン)監督の経験を元にした映画。

香港人と結婚した女性映画監督が台湾で故郷(四川省)にいる年老いた母親と会うが、お互いの心の距離はなかなか埋まらない。夫の気遣いで何とか二人だけで話が出来るようになるが、そこで持病の発作で母親が倒れてしまう。

映画の後に監督とのQ&Aの時間が設けられた。監督の隣にいらっしゃるのは香港国際映画祭では毎度お馴染みの司会兼通訳の方。この人の仕切りにはいつも感心する。

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脚本を書く段階で、主人公を男性監督から女性監督に変更した。何故かというと2人の板挟みになるのが妻だったらもっと悲愴な内容になるから。自分の経験以外にも、友人の祖父からもリサーチしていて話を構成している。

というお話を北京語、普通語交えて語ってくれた。

今回の香港国際電影節は台湾映画を締め出したのかと思えるほどで、唯一この映画が台湾を舞台にしているのでないか。

映画祭と言えども政治と距離を置くのは難しいらしい。

香港国際電影節で「撞死了一隻羊(轢き殺された羊)」を観る

2018年東京フィルメックスでも上映。

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チベット映画なのに、プロデューサー王家衛(ウォン・カーワイ)のテイストがあちこちに点在している。それとも監督の元からあるセンスなのか?

最初に現れるチベットの諺が肝。「もしあなたに私の夢を語ってもあなたは忘れるでしょう。もしあなたを私の夢の中に引き入れたならば、それはあなたの夢に変わりましょう」という意味。まさにそのままの映画だった。

夢心地のような感覚で現実と非現実が交じり合う。運転手のジンパはいつしか復讐者のジンパになる。それは轢いてしまった羊を成仏させようとお寺まで持っていくほど素直な男だからこそ諺の術に嵌まったのかもしれない。

現代の御伽噺。

大阪アジアン映画祭で「パパとムスメの7日間」を観る

遂に最終日。

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原作も監督も日本人。ベトナムは最近韓国映画「サニー 永遠の仲間たち」もリメイクしていて、積極的に海外の良い部分を取り入れようとしている。

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主役の女の子が超かわいいのにオヤジの演技もちゃんと出来ている。パパもしっかりJKになりきっている。

コメディ映画なので全体的にPOPでカラフル。そんなベトナム映画の変貌にまず驚かされる。女の子の親友や元カレ、大家さん、パパの同僚のキャラも濃くてみんな好き。

現地のベトナムでは大ヒットしたそうで、これが受け入れられる今のベトナムにも興味が湧く。

大阪アジアン映画祭で「アサンディミッタ」を観る

人生初のスリランカ映画。一筋縄ではいかない摩訶不思議な映画。

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アサンディミッタは2度離婚歴のある2児の母親だ。ある日バスでイケメンヴィッキーと出会い、そのまま同棲する。しかしヴィッキーは時々老人に変わる時がある。もともとダメ男のヴィッキーはアサンディミッタと共謀して別の女を騙そうとその女の家に行くが、揉めて3人とも殺してしまう。そしてヴィッキーはそのまま逃亡し、アサンディミッタは捕まり絞首台に送り出される。

ヴィッキーが老人に変わるのは人間の中の黒い部分の代表なのは分かる。実はヴィッキーは外見こそイケメンだが、その実殺人も厭わない悪徳詐欺師なのだった。

監督はスリランカでは有名な監督。銀行員と掛け持ちしているおそらくエリート。そんな頭のいい人が観念的に撮った映画なので、「?」がいっぱい。

スリランカでも多くの映画を製作しているが、この映画では照明がイマイチ。冒頭の夜の屋内のシーンは何故か家の中より窓の外の方が明るい。なのでところどころ顔に影が出来て表情がよく見えなかったりする。これはスタジオ内の撮影のはずなんだけどな。

撮影自体もそのまま撮っている部分があってもう少し工夫が欲しい。ただそれもスリランカの映画がこれから国際的に発展していけば、解決する問題ではある。

主演女優のニルミニ・シゲラさんは映画祭の期間中いろいろな場所で出会えた。精力的に他の映画をたくさん見ているようだ。銀行の仕事が忙しくて来日出来なかった監督の分を補うように動いていて、薬師真珠賞まで受賞したのも納得だ。

大阪アジアン映画祭で「Sad Beauty」を観る

女優とその親友との友情物語。

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仲の良い2人が誤ってDV男を殺してしまう。死体の処理に困った2人がおじさんの家を訪ねて相談にのってもらう。その解決策としてワニに食べさせるというのもすごい話だ。

その帰り2人は大げんかをして別れるが、1年後ガンが末期まで進行した友人を再び訪ねてようやく仲直りする。

基本となるのは仲の良かった友人を亡くした悲しみなのだが、そこから何故殺人死体遺棄事件にまで発展させたのかが少し謎。監督はタイの有名女優ボンコット・ベンジャロンクン。多分友情だけだと話として弱いと思ったのだろうか。でもワニに食べられるシーンはかなりグロで、そっちに話の重点が持っていかれてしまう。

そういった構成としてアンバランスなところはあるが、クラブで踊るシーンやクスリでラリるシーンはかなり上手に撮ってある。

タイの今を知ることが出来る映画の1つ。

大阪アジアン映画祭で「過春天(THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女)」を観る

香港とシンセンとを運び屋として行き来する高校生の物語。「過春天」はその運び屋の隠語でボーダーを渡ること。

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英語のタイトルは「The crossing」。ボーダーを越え、運び屋という犯罪の世界を越え、少女から大人へ越える物語だ。

シンセンで母親と一緒に暮らしている佩佩(ペイペイ)の父親は香港に住んでいて別の家族がいる。佩佩は香港で生まれた香港市民なので、毎日ボーダーを越えて香港の高校に通っている。親友はお金持ちでクリスマスに一緒に日本へ行こうと誘われる。旅費を稼ぐためにバイトを始めるが、ある日偶然「運び屋」の手助けをする。そこから自分も「運び屋」のバイトをして稼ぐようになるが、次第に犯罪の世界から抜け出せなくなる。

彼女がどんどん犯罪の世界にのめりこんでしまうのには、背景に孤独と、アイデンティティーの揺らぎがある。一応香港人だがクラスメイトのように無邪気に香港人として振舞えない。父親は佩佩にやさしいが、いつもこっそり会っている。しかし運び屋の仕事をしている時は、女ボスやその仲間は自分を家族のように扱ってくれるのだ。そりゃ、抜け出せなくなるよね。しかし仲間の一人が佩佩を心配して足を洗うように忠告する。それが親友の彼氏で、次第に彼と仲良くなることで親友とは絶交することになる。

結局、ぎりぎりのところで佩佩は警察に捕まり、普通の高校生の生活に戻る。しかしそこには少し大人になった佩佩の姿があった。

監督は大陸の西北部から香港に移民をして2003年から映画の勉強をするために北京に移っている。つまり監督自身が中国と香港の歴史のど真ん中にいるような人なのだ。そしてこの映画は田壮壮ティエン・チュアンチュアン)監督の協力も得ている。

なので映画の骨格は中国の文芸調。脚本も起承転結があって、教科書に出てきそうな出来映えだ。なので高校生が主役だが、玄人向けの映画だと言える。

 

追記:2020年11月20日から日本でも「THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女」の邦題で一般公開。