「嘉年華(天使は白をまとう)」をネットで観る

2017年東京フィルメックス、今年の香港国際映画祭でも上映された。

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12歳の少女2人に対する性犯罪を告発する映画。16歳の少女が証拠のカギを握るが、不法労働者なのでそのまま証言出来ない。

映画全編に女性性の象徴が多く登場する。一番目立つマリリンモンローの像は、足は本物で上半身はCG。海辺のリゾート地だが、所詮は地縁血縁で繋がる片田舎でしかない。大人の事情で真実まで捻じ曲げられようとする現実に立ち向かう少女達がけなげだ。

主演の文淇(ヴィッキー・チェン)は、まだ15歳(2003年生まれ)なのに「血観音」「心理罪之城市之光」と次々と映画出演している。特に「血観音」の演技力は脱帽。

深刻な内容だが、フランス合作なのと女性が美術を担当しているので画面はふんわり甘め。少女が着ている洋服や小物もアカ抜けている。

事件は地元の偉いオッサンが結局告発され、偽証をした警官医師もろとも逮捕される。売春婦になりそうになった主人公は直前で逃げ出し、撤去されたマリリンモンローの像と共に疾走する(ミントグリーンのバイクがまたかわいい)。

張艾嘉(シルビア・チャン)監督作品「相愛相親(妻の愛、娘の時)」をネットで観る

2017年11月に公開して評判の良かった映画。日本では2017年東京フィルメックスで上映された。

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イラストバージョンのポスターもいい感じ。

祖母母娘の3世代に渡るラブストーリー映画でありホームドラマでもある。

祖母が死んだ後、田舎にある祖父の墓を移し祖母と一緒に埋葬しようとしてのてんやわんやがベース。実はおじいちゃんには先妻がいて、どうもきちんと離婚の手続きをせずにおばあちゃんと結婚したらしいのだ。先妻は妻の座の正当性を主張して墓の移転に大反対。そこに娘が働いているテレビ局が取材しようとして更に大混乱になる。

うやむやにしたまま再婚したおじいちゃんが一番悪いのだが、こういう人って結構な数いると思う。

キャスティングが素敵。夫役には映画監督の田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)。呼ばれて本人が一番びっくりしたらしいが、これがとても自然で普通ないいお父さんになっている。

娘役は「華麗上班族(香港、華麗なるオフィス・ライフ)」「非凡任務(ミッション:アンダーカバー)」にも出演している朗月婷(ロウ・ユエティン)。複雑な立場の役だが表情が細やか。

その他に都会の弁護士役にベテラン李雪健、役所の窓口には王志文がちょこっと登場。劉若英(ルネ・リウ)もご近所の奥さん役で出演している。

主役の母は監督兼の張艾嘉(シルビア・チャン)。毎回そうだが、更年期のおばちゃんが右往左往する演技がホントうまい。若い男をわざと自分に絡ませたりするのは、同じおばちゃん層を狙っているからに違いない。市原悦子みたいにw

そして先妻役のおばあちゃん、呉彦妹の存在感。結局もう死んでしまった夫の愛情の取り合いなのだ。「私のほうが愛されていたんだ」という証明が欲しかった。そんないじらしい感じがひしひし伝わる。

ロケ地は河南省鄭州。最近は都会と言っても北京で撮影することはほとんどない。交通渋滞と空気汚染のせいだろう。そこに映像の魔術師李屏賓(リー・ピンビン)がカメラを担当しているが、今回は「おお~!」というショットは少なめ。でも光の加減がきれい。

最後のドライブのシーンがかなりいい。他人には入り込めない夫婦の歴史がそこにあって、こういうのを見ると結婚ていいかもなと思う。

追記:日本では2018年9月に一般公開。邦題や日本版ポスターはちゃんと昔から中国映画が好きな人の目が留まりそうな仕上がりになっている。

中国大陸でも大ヒット!インド映画「Secret Superstar(シークレット・スーパースター)」をネットで観る

台湾では2017年11月から、中国大陸では2018年1月から公開された。大陸での上映にあたり、アーミル・カーンが中国大陸入りして自ら宣伝もしている。旧正月前の公開ということで7億元(大体118億円ぐらい)の売り上げも記録。「Dangal(ダンガル きっと、つよくなる)」に続いての大ヒットになった。

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歌が好きな女の子がyoutubeで自分の歌を公開して人気者になるお話。実は彼女の家は超封建主義で父親がDVだった。大好きな母親と父親を離婚させたくて、チャラいプロデューサーに離婚裁判に手を貸してくれるよう直談判までする。

流石、アーミル・カーン映画。今回も涙も笑いも夢も希望もみんな詰まっている。アーミル・カーンのチャラさも必見。特にエンディングロールに流れるダンスはかなりおかしい。

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キャスティングも絶妙。初恋相手の男の子の敢えてかっこ良くない普通の外見が良かった。肝心の母親役も頼りなくて子供っぽい感じがちゃんとあって、でも決める時にはキッチリ決める姿がカッコよかった。おばあちゃんもいい味出してたし。

途中、離婚をするかしないかで母親と大喧嘩するのだが、やっぱり家族は難しいなあと思う。DVの父親も決して極悪人ではないのだ。今までの風習がそうだったからやっていただけで。

中国人とインド人は水と油のようだと思っていたが、案外共感できる部分は多いかもしれない。アーミル・カーンはこの2作品の大ヒットで中国で一番有名なインド人になってしまった。今後も彼の作品は中国大陸で公開されるに違いない。

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追記:日本では2019年8月9日から公開。

大阪アジアン映画祭で香港映画「藍天白雲(どこか霧の向こう)」を観る

香港には「実録犯罪映画」というジャンルがあり、内容が残忍であればあるほど人気も高い。この映画も実際にあったお話を元につくられている。

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同級生と共謀して両親を絞殺した高校生の事件と、その事件を担当する刑事の介護に疲れた生活が交差していく。

この主人公の高校生コニーの家族が、どこから手をつけていいのか分からないくらい絶望的。高校生を買春して家に連れてくるような最低の父親だが、そこそこお金を持っているので離れられない。母も兄も臭いものに蓋するように現実から逃避している。そこに学校でのいじめが加わってどんどん追い詰められていく。

刑事の生活も、父親が認知症になりその先の見えない介護にすっかり疲れ切っている。唯一救いなのは夫がとても協力的だということ。それでも父親に対する殺意をぬぐい切れないでいる。

前半早々にコニーは捕まる。捕まることで安堵したように落ち着いている。少なくとも彼女を追い詰める原因のひとつは消滅したのだ。このあたりの心象がタイトルにつながっているのではないだろうか。

その彼女の供述とともに犯行の様子が再現されるが、その再現が大迫力でリアル。流石グロさに定評のある「実録犯罪映画」を長年撮ってきた香港ならではである。観終わった後かなりぐったりした。

上映後&Aで登場した主演女優はすっかり別人で、実は撮影自体はかなり前だったが大人の事情で完成したのはつい最近らしい。

エンディングロールに許鞍華(アン・ホイ)や爾冬陞(イートンシン)があるように、香港映画としてはかなり力が入っている映画だ。

大阪アジアン映画祭で香港映画「中英街壹號」を観る

今回かなり期待した作品のひとつ。ワールドプレミアで香港での上映は未定。

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設定は1967年と2018年。1967年の反英暴動と2014年の雨傘運動をシンクロさせている。

1967年の暴動についてはあまり詳しくはない。推理小説「13.67」とか、香港映画「玻璃之城(ガラスの城)1998年」でちょこっと出ていたくらい。

監督の趙崇基(デレク・チウ)は以前こんな作品をつくっている。

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革命を起こそうと行動を起こす若者とそれに翻弄される普通の人々を描いている。1967年については、今の状況を知っている人間からすれば少し皮肉に感じる。しかしあの暴動のおかげで、イギリスは香港人に対する待遇を改めたり腐敗を一掃するよう心掛けた。つまり無意味な行動ではなかった。’なので「雨傘運動」も決して無意味では無かったと思いたい。

上映後には監督と出演者を交えてのQ&Aとなった。ここで監督が号泣。2006年からこの映画を製作して、やっと上映できたことに感無量だった。制作途中に当局からの横槍は無かったが、香港人映画関係者が皆及び腰だったため遅々として製作が進まなかったらしい。「香港はいつからこうなってしまったのか、長年映画の仕事をしてきた自分も分からない」と監督も話していた。

主演は不思議女優フィッシュ・リウ(廖子妤)がここでも好演。将来大化けするかも?男子2人もなかなか良かった。

中英街壹號は実際にある地名だが、香港人でも立入制限区域なので、簡単にロケ地巡礼とはいかなそうだ。

もちろん観終わった後で、また「13.67」の第6章を読み直したことは言わずもがなである。

 

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女の子ムービー「ひなげし」を神戸で観る

ネットで公開スケジュールをずっと追って、やっと神戸で追いついた。

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1966年のチェコ映画。姉妹が好きなことだけして生きていこうとするお話。

美術とファッションがドストライク。こういう旧共産党圏のダサ可愛いのがやっぱり好き。

若くてかわいい女の子はいつだって世界最強。でもそれは期限付きだってみんな分かっている。男性監督なので最後は説教臭い結末になってしまったが、案外そこは安心していい。

この映画を上映していた神戸アートビレッジセンターがある新開地がかなりディープな場所で、神戸に対するイメージが覆ってしまった。でもこうでなくっちゃ街はおもしろくない。

大阪アジアン映画祭でタイ映画「ダイ・トゥモロー」を観る

最近タイ映画でもおもしろい作品が増えてきた。

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死ぬ前日の人々の日常をオムニバスで見せていく。監督曰く、死ぬとは特別なことではなく、日常で起きるありふれた出来事である。

なので、この映画の中で登場する人々もごく普通に生活している。死因も事故、病気、自殺とさまざまだ。子供も老人も登場する。最後に登場する102歳のおじいさんの話は含蓄があって考えさせられる。

この生死感は仏教が広く信じられているタイならではのような気がする。輪廻の話もちょっと出てくるし。

おもしろいのが、その死ぬ人たちのエピソード部分が映画本来の横長の画面ではなく、真四角なところだ。ちょっとピントがボケたホームビデオみたいな質感。そのあたりに、ドキュメンタリーっぽいのに非現実感が醸し出ている。

1話目に登場する女の子たちの中には「頭脳ゲーム / Bad Genius」で主演していた女優も出演していた。上映後のQ&Aによれば、一応設定と台本があり、それに合わせて現場で俳優たちが作りこむ形だったので、それなりの演技力が必要だったということだろう。

観た後からずっと余韻が残るいい映画だった。

今年の香港国際映画祭でも上映されている。