大阪アジアン映画祭でインドネシア映画「牌九(パイゴウ)」を観る

インドネシアに住む華僑の結婚を描いためずらしい映画。

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女好きの遊び人男が超大金持ちのお嬢様と逆玉結婚するが、遊んで捨てた元カノに邪魔されそうになる。しかしそのお嬢様の父親が実はヤクザだった。なので結婚式が進行する裏側で殺し屋が暗躍したりしてけっこうバイオレンスな内容。家族を守ることが一番だという家訓の元に育てられたそのお嬢様の最後の決断が極妻ばりでカッコよかった。

華僑のお話なので、ちらほらと中国語が混じる。インドネシアでは暴動が起きるたび、中華系の商店が襲われたりして地元では軋轢のある存在になっている。そんな肩身の狭い華僑の在り方を打破しようと作られた映画である。

地元と融合しない中華街のやり方に問題があるわけだが、今すぐ変えるのも難しいだろう。

最近いろんな場所でインドネシア人に出会う。ネパールでインドネシア女子に会った時はちょっと驚いた。大阪くらしの今昔館でヒジャブを被りながらレンタル着物を着てはしゃいでいたインドネシア人は微笑ましかった。陽気でちょっとシャイなインドネシア人は好きだ。

対立しないでうまくやって欲しいなあと思う。

大阪アジアン映画祭で台湾映画「川流之島」を観る

去年の台北電影節で見逃してくやしい思いをした映画。

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高速道路の料金所で働くシングルマザーのしょっぱい人生。ある日突然、主人公の息子に娘が強姦されたと訴えられ高額な慰謝料を請求されてしまう。それを工面しようといつも料金所でナンパしてくる男に売春の話を持ち掛ける。でもそのうち愛情が芽生えてというお話。

セックスって甘く見てはいけない。体から始まる恋もあるのだ。ナンパしてきた男は見るからにチャランポランで最初はイラつく。なんで本気で好きな女に対してこんなアホな態度をとるんだろうと思ったが、そうするしか出来ない男なんですな。それで真面目にお金を稼げばいいものを会社のお金に手を出してしまう。結構根はいい奴なのに、社会性は無い。何とも残念な人間である。

主人公のシングルマザーにしても、これまでのシオシオな人生が垣間見える。元夫の借金返済のために地下銀行からお金を借りた過去があったり。

シングルマザーの息子も高校1年生という若さでもう既にしょっぱい人生が始まっている。相思相愛だと思っていた彼女の親からレイプだと訴えられ、精神的に大人な彼女からもフラれてしまう。

そのうちに料金所がETCに取って代わられ無職の危機に面する。そんな八方塞がりな状況の中、最後はちょっと明るく終わる。

もともとはTVドラマとして製作されてその後映画になった。現実では料金所が閉鎖される時デモにまで発展したので、交通局から一旦撮影中止と言われてしまったが、そこを何とか粘って最後まで撮影したらしい。

なかなか歯ごたえのある映画だった。

映画祭ではバトミントンの羽を咥えた主人公のアップのポスターを使用していたが、「それはないよなあ」と思ってしまった。そこすんごく悲しい場面なんだけど。

男性監督の成せる業か。

大阪アジアン映画祭で台湾映画「血観音」を観る

これもずーーーと観たかった映画。

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イラストバージョンと女優バージョン。

主演女優がすごい。母:恵英紅(カラ・ワイ)、長女:呉可熙(ウー・クーシー)(「氷毒」「再見瓦城(マンダレーへの道)」)次女:文淇(ヴィッキー・チェン)(「嘉年華」「心理罪之城市之光」)が体当たりで熱演。主演以外でも温貞菱、陳莎莉などクセのある女優満載。でも一番怖いのは、やはり恵英紅だろう。香港から台湾に来たという設定なので、時折広東語も話す。家の中は和中折衷。不思議な空間だ。

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土地開発をめぐっての官商入り乱れての汚職事件をベースに裏で糸を引く謎の家。そこにめしいの夫婦弁士が「ベベン」と弾き語りをするあたり台湾らしいダサさが伺える。

監督は楊雅喆(ヤン・ヤーチェ)。映画は「女朋友。男朋友」以来。脚本も監督が手掛けているが、とってもドロドロ☆愛と憎しみが入り乱れてたいへんな結末を迎える。

台湾は男性俳優も粒ぞろいだが、女優はもう選り取りみどり。特に若手の温貞菱(ウェン・チェンリン)や文淇の腹黒い演技は、日本でいうと広瀬すずとか二階堂ふみレベルだ。

予定にはなかったが上映後に監督がご挨拶。思ったより若い。大阪アジアン映画祭が日本初上映ということでうれしいとおっしゃってくれた。

ありがとう!大阪アジアン!!

  

追記1:「台湾巨匠傑作選2020」でも上映決定。東京新宿K's cinemaから始まって、大阪シネ・ヌ―ヴォ(11月14日~)、名古屋シネマスコーレ(11月21日~)、アップリンク吉祥寺(11月27日~)、神戸、京都での開催も予定されている。

https://taiwan-kyosho2020.com/schedule/

 

追記2:11月16日にシネ・ヌ―ヴォにて鑑賞。大阪ではこの日のみの上映なので満席だった。2回目なので内容を更に理解できた。日本人妻もかなり腹黒かったんだね。

上映後には監督のインタビュー映像も放映した。次回作のドラマ「天橋上的魔術師」も今から楽しみだ。何とかして見てみたい。

大陸でも4月4日から公開決定「爆裂無声(無言の激昂)」

中国映画祭電影2018にて大阪で上映。この時点で大陸での上映計画はまったく白紙だった。じゃ、日本で観なくっちゃね。

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この映画も「心迷宮」と同様一筋縄ではいかない。失踪した息子を探す男と、違法な鉱山経営をするヤクザな社長、その顧問をする弁護士が三つ巴になって展開する。

いろんなところで肉が象徴的に登場する。火鍋屋の仕込み、高級火鍋レストランのスライサーなど。全体的にバイオレンスなイメージだが、そこに親子愛を絡ませて一般の観客を引き付けている。今回も伏線の張り方や構成が考えつくされている。唯一2人の子供の最後のシーンがブレていたのが惜しい。生かすか殺すか監督自身の迷いがそのまま出たような感じになってしまった。

姜武演じる悪役社長は単純な悪役ではなく、重層的なキャラである。でもヅラは反則だろうwwwと思ってしまった。

口がきけないのにケンカがすこぶる強い父親は、やられてもやられても立ち上がる。

気の弱い弁護士は娘思いだが最後まで卑怯だった。

サブキャラの社長の子分、アイパッチの火鍋屋のキャラも際立っていた。

構想としてはデビュー作の「心迷宮」よりも先だそうで、物語の設定は2006年。予算の関係で先に「心迷宮」を撮ったとQ&Aで監督が語った。

そんなQ&Aの時の監督はかなり辛辣。「単純な映画を観て楽しみたい方は、他にたくさん単純な映画がありますからそちらを観てくださいね。」と、かなり挑発的。今の大陸マーケットに対する監督の憤りだろうと思われる。多分この監督は中国に向いていないかもしれない。規制のまったくない場所なんて世界を見てもほとんどないだろうが、もっと自由に傑作を撮って欲しいと思った。

去年一旦流れた大陸での公開日も再び決定した。少しは波紋が広がることを期待している。

「心迷宮」の感想はこちら。

mingmei2046.hatenablog.com

 

現代の人魚姫映画「ゆれる人魚」

80年代のポーランドのナイトクラブを舞台にしたダークファンタジー。

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ポスターからしてモロ好み。ストーリーは人魚姫そのまんま。人間に恋する姉人魚は声も失い手術して人間の足を手に入れるが、イケメンベーシストは人間の女と結婚してしまい最後は海の泡になってしまう。それを時々人間を襲う妹人魚がせつなく見守っていく。

映像がきれい。人魚なので姉妹は当然裸で、それを主演女優が当然のように演じているのがいい。

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こんなかわいい二人なので、ナイトクラブではすぐに人気者に。

音楽もちょっと懐かしい感じのハードロック。

グロくてエロくてピュアなファンタジー。低予算なのがちょこちょこ垣間見えるが、ミュージカルシーンをもっとゴージャスに撮れれば尚良かった。でもそんなB級感も嫌いじゃない。

日本では今後全国で順次公開していく。是非是非観て欲しい。

王を称えよ!「バーフバリ 伝説誕生」「バーフバリ 王の凱旋」

既にマヒーシュマティー国民になってしまった友人に兎に角観ろ!と勧められて観た。スケジュールの関係で2→1の順番で観たがまったく問題なかった。

何もかもスケールが桁外れだ。観た後は自分の想像力の貧困さ、人間としての小っちゃさを痛感してしまう映画である。

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インド映画とは結構長いつきあいで、「ムトゥ」ブームのちょい前あたりから継続的に見続けている。この映画は今まで観たインド映画の到達点というか、宇宙の果てまで突き抜けちゃった感がすごかった。

そして観た後の幸福感。国母の苦悩、デーヴァセーナ姫の抑圧、王がいなくなった後のマヒーシュマティー国民の苦悩に比べれば自分の悩みなんてもう小っちゃい、小っちゃい!!一般公開なのに上映終了後に拍手喝采が起きる映画はそうそうない。

この映画は王も超人的に強いのだが、登場する女性もみんな強い。国母かっこいい。あこまで目ヂカラのある女優はインドだけ。

いつもはCGだらけの大作映画を小馬鹿にするのだが、ここまできたらしょうがないでしょう。ちゃんとCGの使い方を考えて撮影されているので違和感はなかった。たとえあったとしても気にならないw

中国やハリウッドでもスケール感を謳った映画があるが、今後は「空前の大スケール!」なんて安易な宣伝文句は使えないなと思った。「は?バーフバリにはかなわないっすよ」なんて言われてしまうだろうから。

香港ミステリー小説「13.67」を読む

日本に着いてまず向かったのが神保町だ。今回の日本滞在にはいろんなミッションがあるのだが、まずは「13.67」を読みたかった。但し発売から時間も経っているので、普通の書店を何軒も巡るより内山書店に行った方が速いと思ったのだ。

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これを買ったおかげで日本滞在がかなり充実した。常に持ち歩いて空いた時間が出来ればずっと読み続けていた。

2013年から1967年まで遡っていくのだが、見慣れた香港の街を頭に浮かべながらミステリーを読むってなかなか無い経験だ。主人公のクアン警視の死から始まりどんどん若返っていくのがミソ。そして最後からまた最初の話に繫がるのでまた一から読み直したり。

そしてそれぞれのトリックと推理がすごい。

翻訳に関しては例えば人名でカタカナ表記と漢字表記が同時にあったりして、同じ漢字圏なだけに逆に難しかったのではないかと思った。更に香港の地名には広東語と英語が併記されているので、どっちを採るか難しい場合が多い。

それでも私はすんなりと読み進めることが出来た。内容がとにかくおもしろかったからというのが大きい。

既に王家衛ウォン・カーウァイ)が映画化権を取得しているらしい。ならクアン警視はトニーさんが演じるのかな。トニーさんでは年が取り過ぎだというのなら張震チャン・チェン)でもいいかもとかいろいろ妄想してしまう。しかし王家衛は権利を買ってもそのまま放置というパターンもあるので、あまり期待していないw

 

追記:この本を翻訳された天野健太郎さんが2018年11月12日にお亡くなりになりました。心からご冥福をお祈りいたします。