「她和她的她(ふたりの私)」をNetflixで観る

約45分×9話。ミステリー仕立てになっていて最後に理由が明かされる。DVにしろ性犯罪にしろ、当事者になってみないと分からないことは多くある。このドラマではそういった被害者の心の傷を丁寧に描いていて、更に加害者の心理状態も見せてくれる。

性犯罪は犯罪自体もつらいが更につらいのは、その後の周りの無理解だろう。時には被害者を責めるような言動にも遭遇して、もしかしたらこっちの2次被害の方が傷つくかもしれない。これは飲酒運転の車に引かれた被害者に対して、「道路を歩いてる時になんでもっと注意しなかったんだ」って責めるようなもの。このドラマでも主人の晨曦(チェンシ―)は家族や学校からの理解が得られず孤立する。

実は性犯罪の加害者の多くは被害者の知り合いだったという統計がある。「2015年版犯罪白書」では顔見知りの犯行は3割。届けていないほうが多いだろうから実際はもっと多いと思う。通りすがりの変態強姦魔なんてごく少数で、加害者はこのダニーのように一見いい人そうな普通の人なのだ。

このダニーに代表される加害者はハンターみたいなもので、弱そうな獲物を的確に見つけ出し狙いを定めたら決して逃がさない。このダニーを演じるのが吳慷仁なのだが、実に見事に演じていて怖い。

そして性犯罪の誤解としてあるのは「被害者が抵抗しなかったので合意だろう」という思い込みだ。人間は大きなストレスがかかると思考がストップしてしまう。そうなると体が思うように動かなくなり抵抗出来なくなる。この心理的な流れはここに詳しく述べられている。

「性犯罪被害者の心理」講演全文

http://vsco.info/270725kouen.html

この晨曦に寄り添う恋人を演じているのが、李程彬(トビー・リー)。このドラマでは1人2役を演じている。どこかで見たようなと思ったら、中国映画「七月與安生(ソウルメイト/七月と安生)」に出ていた。周冬雨(ジョウ・ドンユィ)と馬思純(マー・スージュン)がバチバチにやりあう映画なので影が薄くなっても致し方ないだろう。

主演以外にも俳優陣の層が厚くて見ごたえがある。温貞菱(ウェン・チェンリン)のビッチな演技もますます磨きがかかっている。李霈瑜(リー・ペイユー)も映画「消失的情人節(1秒先の彼女)」以降、出演作が増えて大人気だ。

一度ついた傷が消えることはないが、それがかさぶたになり傷跡だけになって痛く無くなればいいなと思う。