台北電影節で「順雲」を観る

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台湾の基隆を舞台にした老老看護のお話。

60歳も過ぎた順雲は早期退職して80歳を過ぎた母親の看護をしている。兄と姉は既にアメリカに移住しており頼りに出来ない。

母はかつて京劇役者をしていたが、今では自力でベッドから起き上がることもままならない。しかし性格は強気で、身体の衰えに対する憤りを順雲にいつもぶつけている。

母娘だけの生活。距離が近すぎて愛も憎しみも高濃度。順雲は独身だが密かに大学主任に好意を寄せて何かと世話を焼いていた。しかし主任の妻がガンを発病し密かに見舞いに行った時に、実は主任には長年別の愛人がいたことを知る。

家族というのは外にいる他人からは分からない。いつもいがみ合いばかりしているこの母娘だが、まだ母親が元気だった時は笑いながら一緒に晩ご飯を食べていた時期もあったのだ。元役者の母親は老いをまだ受け入れていないし、順雲もまた母の老いを受け入れていないのではないか。昔のように憎まれ口をたたきながら笑って2人で生活したいのに出来ないから苛立っているように思える。

Q&Aでは主演の2人も登場。もちろん役より若々しくて美しい。撮影中は2人とも演じるのがつらくて、特に順雲を演じた陳季霞は撮影後家に帰るたびに泣いていたそうだ。確かに観ているこちらもつらいシーンばかりだ。

ただ最後に母親が死んで拠り所を失くした順雲が屋上に登り呆然とするところに、近所の小さな女の子(この子もワケあり)に気付いて振り返るシーンは、ほんのちょっとだけ希望があるのかなと感じられた。

台北電影節で桂綸鎂(グイ・ルンメイ)主演「徳布西森林」を観る

日本語に直訳すれば「ドビュッシーの森」。

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監督はフランスに20年在住している台湾人。なのでQ&Aに出席したのはプロデューサーと美術さんのみ。監督、なぜ来ない。

先に正直に告白しておく。午後1時半の上映で、お昼をついお腹いっぱい食べてしまったこともあり、途中ちょっと寝落ちした。なので記憶から抜けている部分がある。

過去に何が起きたのか最小限の説明しかなく、監督のこだわりもあって全編山の中。

山の中だけ撮るにしてももう少し工夫が欲しかった。事件が起きて山の奥へ奥へと逃げる母娘。途中からは桂綸鎂だけ。

絶望の淵にいたのがしだいに自然の生命力に癒されるということだと思うが、この表現が曖昧。映像は確かに綺麗だが、もっと原始的で荒々しい森のパワーが必要だったのでは?結局最後はピンボケというのも納得いかない。

大体何故山に逃げたんだろう?母親は多少山でのサバイバル術を心得ているようだったが、それでも何日も持ちはしなかっただろう。

結局都合のいいところだけ「観客の想像におまかせ」にして監督が逃げたとしか思えない。

そんなかんじなので、上映後のQ&Aも盛り上がらずじまい。美術さんはがんばっていたよ。

台北電影節で「再見瓦城(マンダレーへの道)」を観る

台湾では去年公開。大陸では短い予告版しか見られず、ずっとモヤモヤしていたがやっと見ることが出来た。日本でも2016年の東京フィルメックスで公開。

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不法労働者の実態を描いた映画。社会の底辺にいる彼らに世の中は容赦ない。

華僑というと世界中でファミリーネットワークを駆使してお金を儲けているというイメージがあるが、ミャンマーではタイに不法入国するほど貧しいらしい。

同じ不法入国者でも阿國と蓮青は考え方が全然違う。それは多分阿國の家のほうが裕福だからだろう。タイに着いてすぐバイクとケータイをもらえて、工場には役職についた親戚がいる。だから蓮青ほどがっついていはいない。しかし蓮青には養わなくてはいけない家族がいる。高校まで出ていながら不法な出稼ぎに行かないといけないのだから、かなり逼迫しているのだろう。なのでどんどん2人の気持ちがすれ違っていく。

このあたりの不法入国者の気持ちはよく理解できる。大陸でも台湾でもビザを取得するのはたいへんだから。もうね、ビザを手に入れるまでは眠れないから。やっともらっても期限付きだから先がまったく見えない。恐いっす。

そこに加えて、闇ブローカーや詐欺師、賄賂を求める役人たちが不法入国者の上前をハネようとわらわら寄って来る。

こうなったらもう女の子は風俗やお水に走るしかない。もし好きな女がそうなるのがイヤだったら自分が彼女のすべての面倒を見ればいいのだ。そこまでの甲斐性もないのに、単に自分から離れて欲しくないという阿國はとても自分勝手だと思う。まあ男から見るとまた違った感想になると思うが。

薬物使用で一時干された柯震東(クー・チェンドン)が、映画の中でラリる役を演じている。映画の設定では多分覚せい剤だと思うが、かなり凄みがあった。このあたり彼の復帰に対する本気度が見て取れる。

 

アーミルカーン主演インド映画「Dangal(ダンガル きっと、つよくなる)」を台北で観る

日本ではまだ未公開だが、大陸では既に公開され今までのインド映画興行記録を塗り替えたらしい。そんな話題作が台湾でも一般公開されているので観てみた。 

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ポスター比較。左:香港、真ん中:台湾、右:大陸。タイトルが3つとも違うのはよくあることだ。でも大陸版は父親がレスリングをやるようなタイトルになっている。ええ~。一番しっくりくるのは台湾版タイトルかな。香港版は香港で予告編を見たが、広東語字幕だった。

流石アーミルカーン映画。笑いも涙も歌も踊りも感動も全部入っている。実話を元ネタにしているが、国際チームの監督がヒール役なのは大丈夫なのかと心配になった。

一番の話題はアーミルカーンの役作りだろう。

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before→afterみたいな写真になっているw50歳すぎてこの筋肉はすごい。

映画「PK」では見事な筋肉美を披露していたが、役のためにここまで太れるのがすごい。

でもやっぱりインド映画は長い。161分。途中の暗幕は休憩の意味だろう。せめて2時間以内で収めて欲しい。

日本での公開はまだ未定。見たい人はさっさとネットや海外で見ちゃうから、話題作公開はますますスピードが大事だよ。「どうしても日本語字幕付きじゃなきゃイヤ」というお客さんだけ相手にしていたらますます商売は出来ない。

 

追記:日本では2018年4月に一般公開された。日本版はオリジナル版より短い140分で上映。

台北電影節で「明月幾時有」を観る

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日本軍占領下における遊撃隊の活躍を、史実を元に映画化した作品。

抗日ゲリラ戦の話だが緊迫感はあまりない。どちらかというとユーモラス。それは母親役の葉紱嫻(ディニー・イップ)や劉黑仔役の彭于晏(エディ・ポン)の本来のキャラに依るところが大きいかもw

霍建華はクラシックな服装がよく似合うイケメン。周迅(ジョウ・シュン)はベテランというほどの貫禄も無く、フレッシュ感も意外性もなくつらいところ。そしてここにもbabyjohn蔡瀚億が!きっといろんな監督に気に入られているんだろう。

そして永瀬正敏も。予習なしで観たのでこれには驚いた。軍人だが霍建華に「幾と何はどうやって使い分けるんだ?」と漢詩の話をするような日本人役だ。

今回上映したのは中国語版だが、広東語版もある。本来ならみんな広東語で話せばいいのだろうが、そうなると主役級が全部吹き替えになってしまうのでそれも不自然だ。(周迅:大陸、彭于晏&霍建華:台湾)

ロケ地は広東省の開平や香港の博物館など。住宅地がメインで、古い写真などでよく見かけるいかにも香港っぽい場所はあまり出てこない。

許鞍華(アン・ホイ)監督はこの映画でも写実的な描写を行っている。普通の大陸映画ならもっと盛り上げて英雄がウォーとか叫ぶんだろうが、この映画は淡々としている。戦争映画ではなく戦争中の庶民のお話なのだ。

大ヒットはしなくても心に沁みる映画。

主役2人の演技がすごい「愚行録」

台北電影節中はほぼ毎日映画を観ている。で、たまに1本も見ない日があると逆に体が落ち着かない。

そんなわけで「愚行録」を観た。日本では既に公開中止らしいが、台湾では大丈夫らしい。

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特に予習無しで鑑賞。後味の悪さは最近の日本映画の流行なのだろうか?子供の父親が誰なのか最初から何となく予想できるし、理想の夫婦の裏の顔といってもそんなダークでもない。フツーの人がなりふり構わずあがくとああなるよねと思っただけ。「日本は格差社会じゃなくて階級社会」と言っていたけど、いやいやこんなもんじゃないですよ、世界各地の階級社会は。こんな風に不安だけ煽るうたい文句もどうかと。

但し、妻夫木聡満島ひかりの演技は良かった。特に後半の満島ひかりの一人語り。刺した感じがこちらにも伝わってくるよう。あと寝ている妹に複数の手が伸びる演出が秀逸。確かに好きでもない男から言い寄られる時は、まさしくああいう感じだ。

愛情というのは学習が必要で、習っていないと表現することは出来ない。よく本能から湧き上がる「はず」と母性神話について語られるが、飼育された動物だって育児放棄することがあるのだ。でも親に限らず周りの大人が愛情を与えればいいと思うが、難しいのかなあ。

台北電影節で「強尼・凱克(ジョニーは行方不明/台北暮色)」を観る

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つかみどころがない映画。エッセイ映画というか。台北での日々の出来事を撮った映画で特に起承転結もない。

だからと言って駄作というわけではなく、映像の中の台北は美しく、台北という場所に対する愛に溢れている。

香港人のお金持ちの彼氏がいて娘もいるが、実は彼氏は既婚者という女。

自分の家族とは疎遠で、かつての恩師の家に入り浸っているリフォーム業の男。

発達障害っぽい少年と母親とその家族。

女が買っていたインコが逃げてしまい、そこから繋がる関係。問題は解決していないが大丈夫、明日もまたなんとか生きていけるだろうというような風で終わる。

Q&Aでは深読みした観客が鋭く監督に質問するが、「そこまで考えていなかったです」という答えが多かった。そう、これは深読みなんて必要のない映画なのだ。

 

追記:なんと第18回東京フィルメックスで日本でも上映された

「ジョニーは行方不明」監督、ホウ・シャオシェンの「疲れるね」発言で作品を再編集 (映画ナタリー) - Yahoo!ニュース

あらすじを追う映画でもないし、人生がひっくり返るような出来事もない。でも寓話的な、今の台北の日常を上手に汲み取っている映画だと思う。軽めのフットワークで見るといいかも。

そして2018年11月24日から日本でも一般公開予定。