権力と暴力に立ち向かうために必要な事「蟲(Locust)」

今年のカンヌで上映され好評を博した映画。最初はノーマークだったが、チケット発売の初日に完売になりそうな勢いだったので慌てて購入。

金馬獎では音楽を担当した半野喜弘とMeuko! Meuko!がノミネートされた。

監督は香港育ちのアメリ台僑。時代設定は2019年で、頻繁に香港でのデモのシーンがインサートされている。

小さい時の病気が原因で話せなくなった鍾翰(ジョン・ハン)は昼間は親代わりのおじさんの食堂を手伝い、夜はチンピラとして借金の取り立てなどをしている。

ある日お店の土地が大企業に買収されてしまい、それから様々な嫌がらせを受けるようになる。同時にコンビニで知り合った苦学生の女の子と仲良くなるが、夜の仕事が彼女にバレてしまい別れることに。怒りが頂点に達した鍾翰が遂に行動を起こす。

緊張感が漂う時代背景のもと、地を這うように生きる自分たちと富裕層との生活の対比が強烈。Locustとはイナゴのことだ。最下層で生きる自分たちも虫なら、不正をして権力とお金を手にした富裕層のなりふり構わないエゴ丸出しの振舞いも所詮イナゴのような虫じゃないかというわけだ。そしてこれは国家権力が小さな立場の相手に対して行う暴力の比喩にもなっている。

上映後は出演者が揃ってQ&Aに出席した。

何処かに私もいる。

鍾翰を演じた劉韋辰(ウィルソン・リウ)は、話せない役だけどつい声が出そうになるので苦労したと言っていた。食堂の女将役の女優さんは客家出身で、客家語で罵倒するシーンのセリフは彼女が教えたそうだ。

2025年に台湾で一般公開予定。