理由のない無差別殺人「該死的阿修羅(ガッデム阿修羅)」

去年の金馬獎にノミネートされ、今年の3月に台湾で一般公開された話題作。台湾文化センターの2022台湾映画上映&トークイベント「台湾映画の"いま"〜革新と継承〜」でオンライン配信された。

映画は3部構成になっている。

第一話:「憤怒的零(怒れるゼロ)」事件が起きるまでの話、第二話:「該死的阿修羅(死ぬべき阿修羅)」事件後の登場人物たちの話、第三話:「奈何橋(三途の川に架かる橋)」もう一つの可能性の話。

この3つの話は事件を起こした少年詹文(ジャン・ウェン)とその友人阿興(アシン)が共同で描いたWEB漫画にもなっている。

そしてこの事件に偶然遭遇した記者の黴菌(メイジュン/バイキン)、高校生の琳琳(リンリン)、広告会社で働いているVita、その婚約者の小盛(シャオション)のその後の生活を描いている。

黴菌以外の5人に共通するのが、オンラインゲームの「王者世界」。特に小盛と琳琳がかなりのめり込んでいて、これがもう一つの事件のきっかけになっている。

全体を通して描かれるのが、それぞれの行き場のない閉塞感。それを象徴するのが檻につながれた犬のオレオだ。例え檻から出してあげてもオレオは逃げられず、また檻の中に戻ってしまう。

第三話は誰にでも加害者にも被害者にもなれる可能性があることを示唆している。詹文が言う臨界点を超えるかどうか。あの世とこの世を繋ぐ奈何橋を渡ってしまうかどうかだ。でもこれは「実は漫画の中のお話でした」というオチかもしれないというちょっと曖昧な終わり方をしている。じゃないとあまりにも救いのない終わり方だ。

現実は100%の幸せも100%の不幸もなくて、その中間でマーブル模様に混ざっているほうがリアルだと思うので、個人的にはこういう終わり方もアリだろう。

監督は映画「一席之地(2009)」「失控謊言(2016)」、ドラマ「台北歌手(2018)」の樓一安(ロウ・イーアン)。監督以外にも脚本も書くし、俳優もしたりする。「台北歌手」は力作で、舞台劇が劇中劇として入るがその中の農民に扮する莫子儀の演技が素晴らしい。

2023年米アカデミー賞国際長編映画賞にも台湾代表として選出されている。

 

追記:2023年6月9日より日本で一般公開。