記録映画的な「夜香・鴛鴦・深水埗(夜の香り)」

リム・カーワイ監督セレクト「香港映画祭2021」から。「香港映画祭2021」は大阪シネ・ヌーヴォから始まり、今後は出町座(京都)、元町映画館(兵庫)、名古屋シネマスコーレ(愛知)、ユーロライブ(東京)の全国5都市で公開予定。

この日は終わってからリモートのトークショウも開催された。

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4編の短編で構成されている。

第1話:出城記

「夜香」とは昔トイレが各家庭になかった時代に、オマルを夜外に出した時の臭いのこと。大陸から海を渡って香港に移民をしてきた認知症のおばあさんとそのメイドのインドネシア人の日常を切り取ったお話。いわば旧移民と新移民の心の交流である。香港といえば、昔は英語が通じるフィリピン人が多かったが、最近は賃金の安いマレーシア人やインドネシア人が急激に増えた。ロケ地は元朗。

第2話:玩具故事

兄弟が母親が経営していたおもちゃ屋を訪ねるお話。どう見てもレアなお宝がいっぱいありそうなお店。そこでは兄弟の会話だけで、お互いの微妙な距離感とかが分かってしまう。お店が深水埗にあり、街の佇まいも多く登場する。

第3話:鴛鴦

香港名物のB級グルメがどんどん登場する。ここでも会話だけで2人の微妙な駆け引きが展開する。鴛鴦茶とはコーヒーと紅茶中国茶ブレンドした香港発祥の飲み物。香港で一番ロマンティックなKFCも登場するが、理由を知って「ああ、なるほど」と納得。

第4話:It's not gonna be fun

これだけドキュメンタリー。親中派がガチ当選しそうな選挙区に普通の一市民が立候補する顛末を描いている。こちらも深水埗がメイン。街角演説していたのは多分西九龍中心(ドラゴンセンター)の入口かな。二級歴史建築の深水埗警察署も登場する。

監督と脚本は「念念(あなたを、想う。)」「叔、叔」「濁水漂流」のカメラマンの梁銘佳(レオン・ミンカイ)。但し今回は撮影は別の人で、監督に専念している。

第3話にも登場するケイト・ライリーは共同監督としても名を連ねていて、梁銘佳のヨメ。トークショウでは2人仲良くいろんな質問に答えてくれた。

監督としては、今後大きく変わっていく香港を記録するためにこの映画を撮ったらしい。実際にロケ地の中にはもう既にない場所もあると言っていた。

監督の手法は遠回りに見えながらも実に多くの事柄を伝えている。例えば第2話では母親は一度も登場しないが、話の中心が母親なのは間違いない。第3話でも、2人がお互いに好意を持っているのは手に取るように分かるのに、全く進展しないから観ていてやきもちしてしまう。第4話に至ってはもう既に香港の議会は親中派が多く占めていることを示唆している。

演じているのはプロの俳優ではないので、どの話もリアリティがある。なので第4話で映画からドキュメンタリーに変わっても流れはスムーズだ。

香港はこれから確実に変わる。それはもしかしたら今まで知っていた香港の姿ではないかもしれない。

やっぱり香港から目が離せない。