台北で「陽光普照(ひとつの太陽)」を観る

この映画はどうしてもじっくり観たかったので、2日目までとっておいた。今年の釜山、トロント東京国際映画祭でも上映済。金馬では11部門でノミネートされている。

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鐘孟宏(チョン・モンホン)監督は中島長雄名義で撮影も担当していて、何気ない映像がとても美しい。

両親と完璧な兄と出来の悪い弟の4人家族のお話。弟はいつもツルんでいる友人と一緒に傷害事件を起こして少年院へ。その間に15歳のカノジョは妊娠し出産。性格も成績もいい完璧な兄は飛び降り自殺をしてしまう。少年院を出た後、弟は何とか地道に生きようとするが、ツルんでいた友人は更にヤクザな男になって彼に付き纏う。そんな緊張状態が続く中、家族から離れて生きていた父親がある行動に出る。家族を守るために。

過剰な説明は一切ないが、それぞれの心情がとてもよく解かる。

兄役はNetflixドラマ「罪夢者」でも目立って活躍した許光漢。この映画ではいい人過ぎて自殺してしまう兄を演じている。

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見るからに普通の人。

この映画の鍵を握るヒール役菜頭を演じるのは劉冠廷。

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見るからにヤバい人。後ろに見えるのは台北駅。
今年の台湾映画は家族、特に父子関係に焦点を当てた作品が多かった。目の前の介護や家族の問題が逼迫していて、ふわふわした恋愛モノを見る心の余裕がないからかもしれない。

 

追記:気が付いたらNetflixで配信していた。

台北で「返校」を観る

元ネタはゲーム。1960年代の国民党白色テロをテーマにしている。しかし観ながらどうしても今現在の香港デモの状況と重ねてしまう。

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放課後の学校に閉じ込められた2人がなんとか脱出しようとするお話。様々な怪物に襲われながら、閉じ込められた理由を探る。

9月20日に一般公開されてから2か月経つのにまだ上映しているのがまずすごい。金馬でも12部門でノミネートされ、海外の版権も日本を含め多くの国に販売済。

ホラーなのに社会派、そしてちゃんとエンターテイメントとしても成り立っているのが素晴らしい。結末もせつなくて、何故2人だけ学校に閉じ込められたのかもちゃんと理由がある。

主演の2人は新人。王浄(ワン・ジン)は「你的孩子不是你的孩子(子供はあなたの所有物じゃない)(Netflixで視聴可能)」の中の「茉莉的最後一天(モリ―の最後の日)」でも好演している。曽敬驊(ツォン・ジンホア)はこれがデビュー作。

これは日本で公開された時も観に行かなくっちゃ。

 

追記:TVドラマ版「返校」が2020年12月5日からNetflixで配信開始。これは映画版の30年後を描いている。映画版をベースに厚みを持たせていて、予想以上に良かった。俳優も含めて。

 

追記2:日本では2021年7月に「返校 言葉が消えた日」というタイトルで一般公開決定。

台北で「大餓(大いなる餓え)」を観る

人は何故にダイエットをするのか?ダイエットという鉄板ネタを使って、他とは少し違うオチで落とした映画。

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食べることと料理するが大好きな主人公は母親が経営する幼稚園で給食を調理している。いつも子供たちに外見をからかわれるが全然気にしない。ある日母親からの誕生日プレゼントということで無理矢理ダイエットコースに通わされる。そこで洗脳されるがごとくダイエットに傾倒していく。
ある日セクハラから救ってくれた宅配便の配達員といい感じになる。しかし彼も実は元肥満児で、明るい外見とは裏腹に心に闇を抱えていた。

そして女装に興味がある幼稚園児と仲良くなり、何とか彼の「ありのままで生きたい」という希望を叶えたいと学芸会を手伝うが、それが全部裏目に出てしまう。

失意の中酔っぱらった彼女が起こした行動。そしてそれによって彼女は自分にとっての真実を悟るのだ。

まずは主演の女優さんがとてもいい。よくいたなあ。ずっと主に舞台をやっていてこれが初の映画出演。それで台北電影節と金馬で新人俳優賞を獲得した。

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宿敵美女との大乱闘。
今までのダイエット映画というと、最後は頑張ってキレイになって両想いになってめでたしめでたし的な話が多かったが、この映画はもっと深い。肥満に対して罪悪感を持ってしまうのは、実は周りからの刷り込みでしかない。でも自己肯定というのは、他人の評価の上に成り立つので難しいところだ。

私自身も大陸に渡って3ヶ月で5㎏太ってしまい、ダイエットしたが一向に減らず焦ったことがある。とにかくこれ以上増えないことでその場はよしとして、その後日本に帰ってきたら特に何もしなくても3ヶ月で5㎏減って元に戻った。大陸の油は怖い。 

 

追記:2020年大阪アジアン映画祭で上映決定。

台北金馬影展で「菠萝蜜」を見る

現在の台湾と、共産党ゲリラが森で戦っている過去のマレーシアの場面が交錯しながら物語は進む。

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マレーシアから台湾へ留学に来た一凡は、父とうまくいっていない。台湾での生活も馴染めずじまいで、バイト先のレストランで肉を裁断する時に誤って自分の指も切り落としてしまう。そんな中違法すれすれで働くフィリピン人のレイラと出会い恋に落ちる。しかし突然の別れが訪れ、数年後森の中でジャックフルーツの苗を見つけた時に彼女のことを思い出す。

一凡の祖父の両親が実は森の中で戦う共産ゲリラで、追手から逃げる時に生まれたての祖父をジャックフルーツの中に入れてかくまう。そして子供のいない育ての親に拾われ大事に育てられる。このあたりはかぐや姫にそっくり。しかし数年後母親が祖父を引き取りに来て、両親と一緒に森の中へ戻ることに。そして戦闘中に両親は目の前で殺されてしまう。

監督は2人で、そのうちの1人寥克發はマレーシア生まれ。長編ドキュメンタリー映画「不即不離」の中でもこの祖父の話が登場する。

マレーシアの歴史についてはそれほど詳しくはないのだが、マレーシアではこの共産ゲリラについては否定的な意見が多いらしい。というか若い人はゲリラ自体知らなかったりする。

そういうこともあって、寥克發はこだわりを持ってこの映画を撮ったとQ&Aで話していた。

Q&Aの中では、この映画は台本を俳優に前もって渡さない方式で撮影されていて、風俗嬢を演じる女優はメイクの加減を見てやっと「ああ、今日はこういうシーンを撮るんだ」と分かるという話がおもしろかった。

台北で「那個我最親愛的陌生人」を観る

2日間の滞在で台北金馬影展で観る映画は3本。その合間を縫ってなるべく多くの一般公開の映画を観ようとスケジュールを組んだら、1日5本映画を観る羽目に。寝落ちしないようにするので必死だ。

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認知症をかかえた家族の物語。空気が重くならないのは家の中に小さい子供がいるから。たとえ認知症にかかっても夫ラブな母親は毎日かいがいしく介護をしている。そこに刑務所から出てきた娘が帰ってくる。子供は娘を母親だと思えずちっとも懐かない。娘は元カレに会うがヤクザな男とヨリを戻すことは叶わない。ある日父は同じ部隊だったという部下の男の家に旅行に行くことになる。母親は反対するが、娘が同伴して行くことに。しかし部下の母親も認知症にかかっており、壮絶な場面を見せられる。

その後も次々といろんなことが起きるが、家族はそれも淡々と乗り越えそして人生は続く。

あらすじだけ見ると悲惨なことばかりだが、そう感じないほど冷静に客観的に撮っている。一歩離れた視点というか。ターキーの孵化とか、その卵を売るホームレスのおっちゃんなどのサイドストーリーも実にうまい。

ちょい役で馴染みの俳優が登場している。「酔・生夢死」の李鴻其、超有名プロデューサーの李烈など。張作驥(チャン・ツォーチ)監督の人望の厚さが伺える。

金馬では監督賞、主演女優賞、助演男優賞、視覚効果賞にノミネートされている。

台北金馬影展で「樂園」を観る

日本映画「楽園」とは別物。

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薬物依存症の若者のための更生施設で起きた物語。元ネタは実話だが、どこまで本当なのかは不明。というのも依存から抜け出せない若者たちの脱走、ヤクの売買、イジメ、火事まで描いているからだ。

自身もかつてはヤク中だった男が厚生施設の農園を経営しているが、問題は常に山積み。それでも理想の実現のために主人公は奮闘する。

主人公には娘がいるが、姉に預けっぱなしで当然父親の言うことなど聞く耳持たない。

そんな人生八方塞がりな中、ラリッた若者たちが原因でビニールハウスで火事が起きてしまい、農場は閉鎖に追い込まれる。

失意の中、つい魔が差してまた薬物に手を出してしまった主人公を慰めたのは娘であり、農園の再建に残ったのは一番反抗的だった若者の一人だった。

主人公の華哥を演じるのは王識賢(ワン・シーシェン)。f:id:mingmei2046:20181115155819j:plain

映画「艋舺,(モンガに散る)」「角頭2」では怖いヤクザが板についていたが、今回は見るからに気弱でいい人だ。

この華哥とやり合うのが新人でマレーシア国籍の原騰。

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イケメンじゃないけど、演じられる役の幅が広そうだ。この映画の中ではインドネシア人との混血ということで、インドネシア語の歌も披露している。金馬では最優秀新人賞にもノミネートされている。

上映後はプロデューサー(マレーシア人)、監督、娘役の許安植が登場してQ&Aがあった。マレーシアでも撮影したかったけど、お金が無いのでやめたそうだ。あと映画の内容は暗めだけど、実際の農園はもっと明るい感じだと言っていた。

台湾のネットで「白蟻ー欲望謎網(2017)」を見る

台北金馬影展のため2日間だけ台北に行った。台北に着いたのは朝の5時。早めに市内に移動してもすることがないので、それならと思ってネットで映画を見ることにした。

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2年越しでやっと鑑賞出来た。予想以上に重い展開だった。

主演の呉慷仁(ウー・カンレン)は役作りのためギリギリまで減量。その甲斐あってかなりキモい仕上がりになっている。

主人公の白以徳は小学生の時に母親がセックスしているのを目撃してから性格がこじれてしまい、そこから女性用下着を着用するようになる。それだけならまだ問題はないが、実はその下着は盗んだものだった。その窃盗現場にたまたま湯君紅が遭遇してカメラで撮影してしまう。そして失恋の鬱憤から衝動的にDVDにコピーして郵便で盗んだ本人に送り付けてしまうのだ。

その後は意外な展開が起き、それぞれの人生に暗い影を落とす。自分がしたことを後悔したまま湯君紅は白以徳の母親と知り合う。しかし自分が以前息子を脅したことがバレてしまい、罪悪感を拭い去ることも出来ないまま映画は終わる。

物語のはじめに呉慷仁のマスターベーションシーンを持ってきて話題作りをしているが、完全にドン引きした。エグい映像でしか観客の興味を引っぱっていけないのは、完全に監督の才能不足だ。よくあるけど。

今はスマホで簡単に撮影した映像をネットで流せる時代なので、こういった話はよくありそうだ。ただあまりにも簡単すぎて、その後のことまで考えている人はほとんどいない。そういったネット内の不特定多数の欲望の毒気に当たりたくないので、私はなるべく素人の動画とか見ないようにしている。みんなどうして平気なんだろう?