喜劇って難しい「1人婚禮(ソロウェディング)」

周冠威(キウイ・チョウ)監督初のラブコメ映画。紆余曲折を経て今年の旧正月映画として1月に公開した。

ユーチューバーに全然詳しくない人は、まずそこから勉強しないとこの映画の世界についていけない。

まず主役を演じる吴冰(ン・ビン)は実際の香港の人気ユーキューバ―。小薯茄(POMATO)というグループでチャンネルを持っていて動画の登録者数は50万人以上。詳しくはここ↓

www.pomato.hk

スポンサーも多くついていて、バラエティー以外にコント、ミニ映画、Vlogといろいろ揃っている。地上波TV並みのレベル。

あらすじは、売れないユーチューバーカップルが破局を偽装して、1人で結婚式を挙げる宣言をすると途端にバズり、そのため嘘をつき続けなくてはいけない羽目になるというお話。

撮影は映画「幻愛」の司徒一雷なので、映像は今回もとてもきれい。ドローンも駆使して動きのある映像になっている。衣装もインテリアもおしゃれ。脚本も実に良く出来ている。

実は杜汶澤(チャップマン・トウ)もこの映画に資金を提供している。杜汶澤は今は台湾に移民して自身でもチャンネルを持っている。去年の金馬で偶然見かけたが、体形はすっかり昔に戻っていた。

なのに公開後、興行成績は全く伸びずヒットしなかった。その要因はいろいろあるようだ。公開している映画館が最初から少なかったというのも原因の一つだ。

ユーチューバーの世界もそんなに甘くないというのは、イマドキの小学生でも知っていると思う。そこで「1人の結婚式」がバズるという信憑性がまず弱い。しかも主人公は元々は大道芸人で、それに対するこだわりも強いが、そのこだわりにも共感しづらかった。

次第に「1人の結婚式」というコンテンツは一人歩きしていき、逆に主人公の気持ちはどんどん追い詰められていくが、そこが喜劇というよりは悲劇になっている。私はチャップリンの「街の灯」を見た時悲しすぎて全然笑えなかった人間なので、そう見えたのかもしれないが。「喜劇と悲劇は紙一重」とはいうけれど、この匙加減が実に難しい。

私が今回香港にいた時公開していたのは、堅尼地城(ケネディタウン)の高先電影院(Golden Scene Cinema)で午前中1回のみ。ここは佇まいも上映している作品もミニシアターだ。

連休中ということもあってか、小さいシアターながらも席はほぼ満席。若い人が多かった。公開から2か月過ぎてもお客さんが入るのなら、ロングランヒットもありえるかも。

 

追記:東京外国語大学TUFS Cinemaで2023年7月23日に上映決定。申し込みはネットで。

www.tufs.ac.jp

会場までは行けないっす。