「色・戒」日本語訳を読む

朝陽公園西門近くのマンションの一室が日本語書籍を扱う古本屋になっていて、そこで「色・戒」を買った。
中国語の本に何度も挑戦したが、短編小説とはいえあらすじを追うのが精一杯。今回日本語で読んだことで一層「色・戒」の世界を理解することが出来た。
原作を読んでみると、映画が原作に対して忠実に再現されていることがまず分かる。もちろん原作はとても短いので、話を大きく膨らましているが決して原作の空気を壊すことはない。この当たりに監督李安の張愛玲に対するリスペクト振りが伺える。特に易が「色白の小男で鼠顔」と書かれていてそれが映画の中のトニー梁朝偉の役柄そっくりで(確かにいつもより色白だったw)大きく頷いてしまった。
小説自体がまるで映画を見ているようで視覚的。誰がどんな服を着てそれが照明に当たりどのような効果を生み出しているのかとか、部屋の配置や装飾までとてもきめ細かく描かれている。まるで張愛玲自身が映画監督のようだ。
それで映画を観たときには分からなかった「佳芝は易を愛していたのか」という点も、小説を読んで「やっぱり愛していた」という結論に至った。
宝石店で鴨卵ほどの大きさの宝石を送った時の易の表情は、佳芝に対して疑いの無い愛情に溢れていた。そんな易の自分に対する愛情を見てしまい、易を殺せなくなってしまう。そこまで小説も映画もずっと緊張の連続だったのが、そこで空気がふっと緩むのだ。まるで普通の恋人同士が普通に買い物をするみたいに。しかし2人は普通の恋人ではなく敵味方だ。佳芝はそこで大いに絶望し、易を助け自分は死んでしまう。
張愛玲の小説はあらすじは超ロマンティックでメロドラマだ。だが鋭い観察眼(特に女性心理に対して)や話の運び方がうまいので、大甘というわけではない。乙男なら絶対好きになること請け合い。

ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)

ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)