東京国際映画祭で「第一爐香(第一炉香)」を観る

みんな大好き張愛玲(アイリーン・チャン)原作の文芸映画。

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1930年代後半の香港が舞台だが、撮影されたのは厦門鼓浪嶼(アモイのコロンス島)。2017年には世界文化遺産にも登録された。

許鞍華(アン・ホイ)監督は、「傾城之戀(傾城の恋)」「半生縁」に続いて張愛玲作品を映画化している。

この作品では立場の違う3人の女性の生き様が印象的だった。戦争で上海から逃れてきた貧乏だが名家の娘葛薇龍、香港の超お金持ちの妾になり実家とは絶縁状態の梁太太、葛薇龍の恋人ジョージに言い寄られて関係を持つが主人に忠誠を尽くすメイド。メイド役の 張鈞甯(チャン・チュンニン)は出番が短いながらも好演していた。こういう耐える女の役が実にうまい。

案外梁太太のパートが多かったのは、薇龍役の馬思純(マー・スーチュン)が少し弱かったせいだろうか。役柄と同じく梁太太に食われた感じだ。

学業を全うして自立した女になろうと、会ったこともないおばの家に押しかけるくらいの押しの強さはあっても、海千山千の梁太太の前では赤子同然。まんまと梁太太の策に嵌まり、いい様に操られていく。この辺りのやり方が見事。綺麗なドレスときらびやかな社交界の世界でまず舞い上がらせて、後戻り出来ないようにさせていく。そして薇龍の目の前で生意気なメイドに重い処罰を科す。自分を裏切ったらどうなるか見せつけるためだ。怖い怖い。

そして喬琪喬(ジョージ)と結婚することによって、薇龍は梁太太から逃げられなくなる。ジョージと梁太太の関係も怪しいものだが、映画では特に触れられていない。

このジョージが曲者で、父親への反抗心から決して自分では働こうとはせず、常に甘い言葉と肉体で逆玉を狙っている。悪い奴じゃないんだけど、結婚には向いていない。と周りの人たちにも正直に話しているのだから、薇龍も分かっていたはずなのに。この複雑な役をポンちゃん(彭于晏/エディ・ポン)が演じているが、彼には影の要素がまったく無いんだなあと改めて再確認してしまった。脱いでもエロくないし。

「第一爐香」とあるのは張愛玲の小説には「第二爐香」もあるからで、こちらは年代は同じだが、全く別の内容になっている。

日本語訳の本があったので、今度読んでみよう。

www.iwanami.co.jp

沈香屑 第一炉香」「中国が愛を知ったころ」「同級生」の3作品が収められている。

 

追記:読書完了。3編ともなかなかのドロドロ具合。

短編小説だが、情報量は映画より多かったかも。ジョージの家庭の複雑さや梁太太のしたたかさも詳しく説明されていた。薇龍とジョージの結婚は確かに幸せとは言い難いが、お互いを必要としていることに変わりは無い。でも2人がもっと年をとれば、関係性は変わってくると思う。