ひと昔感が漂う「金錢男孩(マネーボーイズ)」

オーストリア、フランス、ベルギー、台湾の合同製作。2021年のカンヌや金馬でも上映され、台湾では2021年11月に一般公開された。

監督のC.B. Yi(陳熠霖)は小さい時に中国大陸からオーストリアに移住した華僑。ウイーン電影学院(Vienna Film Academy)で映画を学び、2003年には北京電影学院にも在学していた。

当初は中国大陸で撮影するつもりで脚本もそれに合わせて書いたが、予算オーバーで最終的に台湾で撮影することになった。監督は撮影準備に8年かけたらしいが、その間に中国大陸の物価は急上昇している。そもそもこの脚本で当局の撮影許可は下りないだろうに。

それでも設定自体は中国大陸のまま変えず、特定はしないが中国大陸のどこかの都市部ということにした。

でもどう見たって場所は台湾なのだ。上のポスターの場所は超有名な基隆(キールン)の中山陸橋だ。2人が住んでいたアパートも台湾ではよく見かけるつくり。お寺も台湾様式だ。警察の手入れが入るシーンは、水色の制服にワッペンだけ架空のものを作ってごまかしている。でも科白では「深圳(シンセン)」や「山東山東省)」という具体的な地名がたびたび登場する。

では何故場所を変更しないのかというと、監督自身が台湾ゲイ事情に詳しくないからだろう。台湾は同性婚もOK、LGBTにもやさしい街だ。そこで金のために身を売る哀れな男娼というストーリーは成立しにくい。

つまり監督が表現したいのは「自分が若い時に見た中国大陸のゲイたちの生きざま」なのだ。でもそれって今でもそうなの?と疑問符が浮かぶ。

そういうちぐはくさが前面に出てしまい、本来の物語の邪魔をしているように見える。もっと場所も年代も特定できないようにすれば良かったのではないかと思う。

セックスワーカーなのだからセックスシーンがあるのは当然だとして、もう少し撮り方に工夫が欲しかった。固定されたアングルの長回しが多かったが、突出した印象はない。

主人公の孤独に寄り添うような映画だが、共感はしづらい。恋人とのセックスでも自分は最後までイカないようにするくらい、常に相手と壁を作っているような男なのだ。柯震東(クー・チェンドン)の演技は良かったけど。

男どもより、女性の登場人物のキャラのほうが好感が持てる。主人公の姉の母性だったり、元恋人のヨメの懐の深さだったり。

最後に流れる音楽はタイのシンガーソングライター、プム・ヴィプリットの歌「Hello, Anxiety」だ。


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わざとちょっとダサくしてあるのが、懐かしくてエモい。