これぞ女子の生きる道「台北女子圖鑑」看破

なかなか見ごたえのある11話だった。20年間という時間の流れはあるが、特に時代を感じさせるようなモノは登場せず、それよりも20代、30代で女性が感じることを前面に押し出したドラマになっている。

桂綸鎂は普段でも年齢不詳だが、それぞれの年齢を見た目だけでなく内面からちゃんと演じ分けられているのがすごい。

そして主演の桂綸鎂(グイ・ルンメイ)以外にも共演者が実力派揃い。

まずは女性陣。

そして男性陣。

彼氏は通算9人+α。女子の夢も混ざっていて、それぞれ個性的。

  1. 22歳 場所:台南市永康街台北市大安區永康街 仕事:化粧品メーカー企画部 彼氏:台南料理店料理人
  2. 場所:新北市中和 仕事:化粧品メーカーカスタマーセンター 彼氏:台南料理店料理人
  3. 場所:西門町 仕事:化粧品メーカーブランド企画部 彼氏:サラリーマン、SE、友人の同級生
  4. 場所:東區 仕事:化粧品メーカーブランド企画部プロジェクトマネージャー→企画部副マネージャー 彼氏:マーケティング部部長 上司
  5. 場所:圓環 仕事:化粧品メーカーブランド課長 彼氏:投資会社社長 既婚者
  6. 30歳 場所:信義區 仕事:化粧品メーカーブランド課長 彼氏:名升グループ社長の息子
  7. 場所:大直 仕事:通販サイト精品館部長→親子館部部長 彼氏:建築設計士
  8. 36歳 場所:赤峰街 仕事:通販サイト精品館部長 彼氏:バリスタ 12歳年下
  9. 場所:シンガポール デリバリーサービスサイト立ち上げ 彼氏:シェフ イギリス人
  10. 場所:シンガポール デリバリーサービスサイト立ち上げ 彼氏:シェフ イギリス人 コロナ渦
  11. 40歳 場所:台北市民生社區 仕事:自分で起業 彼氏:シンママとして子供を出産

永康街はガイドブックには必ず載っているグルメエリア。

新北市中和は川を挟んだ台北市の向こう岸。

西門町は若者の街の代表。映画館も多い。

東區は復興南路×延吉街以西×市民大道×仁愛路の間のオサレエリア。

圓環は寧夏夜市に接したところ。この間2年ぶりに行ったら、圓環の中の建物が無くなってただの空き地になっていた。

信義區は台北101がある大都会。家賃もめちゃ高い。

大直は赤い観覧車が有名。

赤峰街は地下鉄中山駅から雙連駅の間にある。アート作品が多くあるおしゃれな街だが庶民的。

民生社區は松山空港の南側でここも通っぽいおしゃれスポット。

たいして好きでもないのに何となくつきあったり、30歳手前で不倫したり、かと思えば30歳過ぎて恋人に結婚を迫ったり、超年下の男子に惹かれても大人の余裕をかまして見せたり、突然海外に行ったり、計画外の妊娠にうろたえたりと、林怡姍の人生は忙しい。しかも仕事は全然順調ではないし、というか妥協の連続だし、だったら自分がボスになるしかないと思うのも納得できる。自分の意志や自由を優先したりするところとか見るに、林怡姍は多分いて座に違いない。

彼氏役の中で特に気になったのが、石頭(ストーン)。音楽以外にも俳優の仕事をしているが、毎回何故かねちっこいベッドシーンがあるのが不思議。そんなキャラだったの?そして最後シェフとして登場するのが、周厚安(アンドリュー・チョウ)。中国語が堪能なのは当然で、実は周華健(エミール・チョウ)の息子だった。ドラマ「斯卡羅」では脇役ながらずっと出ずっぱりだった。

このドラマ1話分あれば、通常のテレビドラマが10話分出来るぐらいの濃い内容。それぞれの街の個性を生かしながら、ここまでまとめあげた才能はすごい。

これを見て各世代の女子たちがそれぞれの人生を思いめぐらせばいいなと思う。

注目の若手監督の原点「少年たちの時代革命前夜」

香港映画祭2022」から。長編映画「窄路微塵」で高い評価を得た林森(ラム・サム)監督の、初期の映画が観たかったので鑑賞。

任侠(レックス・レン)監督の短編と合わせて上映された。彼ら2人が共同監督した映画「少年(少年たちの時代革命)」は、日本でも12月から順次公開されている。

任侠監督の短編映画は「螻蟻(虫けら)」「9032024」「夢遊」「一Pair囡(クイーンのワンペア)」「Goodbye HK cinema」の5作品。若手映画監督らしいトガったテーマと演出方法。「螻蟻(虫けら)」と「9032024」は、中国に対する世の中のイメージってこうだよなっていうのをそのまま表現している。「一Pair囡」は2人芝居だが、そのうちの1人麥顆森(サミー・マック)は、今回のポスターになるぐらい強い存在感を放っている。

林森監督の短編映画は「綠洲(オアシス)」と「志強的夏(夏のブルース)」の2作品。短編だけどちょっと長め。「綠洲(オアシス)」は、プロの俳優ではない人たちがそのまま登場しているようだ。最近この手法の映画が増えている。アカデミー賞を受賞した「ノマドランド」もそうだ。香港のかつての工業地帯観塘(クントン)に集まるアーティストたちの日常や夢を描いている。家賃の高い香港ではこういった倉庫を借りて住んでいる人がいるが、法律上は住宅ではないので違法になる。なので役所の人が見回りに来ると居留守を使うのだ。

「志強的夏(夏のブルース)」の自転車が盗まれるというモチーフは、今までもいろいろな映画で使われている。多国籍都市としての香港がよく分かる作品だ。

任侠監督はアートハウス系というかインディペンデント映画寄り。林森監督は商業映画としても成り立ちそうなつくりになっていて、観客としては分かりやすい。彼の最新作「窄路微塵」を金馬で観たが、日本でも是非公開して欲しい。来年3月のアジアン映画祭とか。Netflixでもいいんだけど。

mingmei2046.hatenablog.com

「香港映画祭2022」で公開「濁水漂流(香港の流れ者たち)」

2021年2月のロッテルダム国際映画祭でワールドプレミアで上映され、2021年6月に香港で一般公開。2021年の金馬獎、香港電影金像獎などで、多くの賞にノミネートされた。

ずっと観てみたかった映画を大阪で観られることがまずうれしい。リム・カーワイ監督に感謝である。

この映画に対する評価はすこぶる高いが、こういった社会の底辺に住む人のことをどれだけの人が理解できるかどうかはまた別の問題だろう。

まず「かわいそう」という上から目線の同情を拒否するかのように、映画が始まってすぐに主人公輝哥が街角でクスリをキメるシーンがある。刑務所から出所してすぐにヤクに手を出すのだから、更生するとか人生をやり直す意思はまったく感じられない。そのクスリを出所のお祝いとしてあげるのも、同じホームレス仲間の老爺だ。

彼らだけでなくここに登場する人々はいわゆるダメ人間なのだが、夢も希望もないまま長年生きていれば誰でもこうなるという見本みたいなものだ。だけど失語症だがまだ若い木仔にはまだ明るさがあって、ホームレス仲間が彼の世話を焼きたがるのもその明るさに慰められるからだろう。

この映画は2012年に香港で実際にあった話を元に作られている。深水埗の通州街公園で寝泊まりしていたホームレスたちの所有物をゴミとして処理、その後14名のホームレスが裁判を起こしたのだ。裁判の過程はこの映画の通りだが、最後は映画的な終わりになっている。

ホームレスにはホームレスの世界があって、困っている人を手助けするのは当然だとしても、何が何でもホームレスの存在自体を無くそうというのは無理なんじゃないかと思う。

宮崎駿アニメリスペクトな映画「Max, Min and Meowzaki(マックスとミンとミャーザキ)」

釜山でも上映されたインドの猫映画。会場はほぼ満員。

猫アレルギーなのに同棲する彼女ミンが拾ってきた猫のために、毎日鼻に薬をスプレーしているマックス。それは愛する彼女のため。しかし2年で別れることになりミンは出ていくことに。しかし彼女の仕事の関係で、猫はしばらくそのままマックスの家にいることになった。

その猫の名前がミャオザキ。マックスはいつも「ミャオザキさん」と呼ぶ。何故なら敬愛する宮崎駿の名前から取ったからw実はマックスとミンは大のジブリアニメファンなのだ。

ミンが去る前からマックスの人生は冴えない。母親をガンで亡くし、厳格な父親とは不仲だ。そんな父親も不眠症からカウンセラーのもとに通うことになる。通ううちに自分と父親(マックスの祖父)との問題にも直面することになる。

恋愛問題半分、父と息子の葛藤が半分という話の構成になっている。マックスが出会う猫シッターの女の子やカウンセラーの女性も魅力的だ。それぞれが問題を抱えているが、お互いにいたわりあって心温まる映画になっている。

残念なのはマックスとミンがこれほどジブリアニメが大好きなのに、版権の問題なのか実際とは違うアニメの画面と音楽が使われていたことだ。使用許可が下りなかったのだろうか?この映画だったら許可していいと思うけどなあ。

猫映画なので、ミャオザキさんのかわいいショットもたくさん。

 

追記:「マックスとミンとミャーザキ」のタイトルで、2023年大阪アジアン映画祭コンペティション部門で上映決定!

君は元ネタをいくつ見つけられるか「FAST&FEEL LOVE」

ナワポン監督のコメディ映画。パロディがいたるところにちりばめられている。会場はほぼ満席。笑いのシーンは大ウケ。

スポーツスタッキングに人生を賭ける男カオが世界新記録をめざすお話。そのカオをずっと陰で支えていた恋人ジェイは30歳になり子供が欲しくなる。しかし今の生活では子供は望めないのでカオに別れをきりだす。ジェイが去った後、生活の雑事が山積みで練習もろくに出来ないまま世界大会の締め切りがせまる。周りの人々の力を借りながら、カオは優勝することが出来るのか?

スポーツスタッキングというマイナーなスポーツを題材に、タイの日常が垣間見えておもしろかった。

今回の映画は濃いキャラが多く登場するが、特にスーパー家政婦の存在感がすごかった。

スポーツスタッキングしか知らないカオが、ジェイが去ったことで精神面でも大人になり、カオを支えることが人生の生きがいだったジェイも、自分の人生を歩み始める。カオのライバルであるコロンビア人の男の子も勝負以外にも大事な事があることを知り、全体的にはめでたしめでたしだ。

速いテンポで映画が進むのと、中国語の字幕だということ、そして王道の映画(スターウォーズとか)を私があまり見ないということで、パロディの元ネタは私は全部は分からなかった。「パラサイト 半地下の家族」はすぐ分かったけどw

現在カナダやアメリカなどのNetflixで配信中だが、日本では未配信。できれば日本語字幕でもう一度見てみたい。

 

追記:2月1日よりNetflixで「スピード&ラブ」のタイトルで配信開始。

思想犯にだけはなりたくない「流麻溝十五號」

1950年代に思想犯として緑島に隔離された人々の物語。男性だけでなく女性も多く送られ、再教育の名のもとに監獄のような生活を強いられた。

群像劇で様々な女性が登場するが、メインの女優の中で見たがことあるような顔が。

古川琴音かと思ったら、台湾の女優余佩真(ユー・ペイジェン)だった。彼女の演技があまりにも自然すぎて素人にしか見えないのがすごい。

元ダンサー役はドラマ「一把青」で主演に抜擢されて注目された連俞涵(リエン・ユーハン)。一番のきれいどころとして上官の愛人になるが、それも早く島から脱出するための手段。

時代としては国民党が台湾に移ったばかりで、共産党のテロリストやスパイを見つけるために躍起になっていた頃。しかし確かな証拠がないまま思想犯として送り込まれた人々も大勢いる。全ては国政によるもので、蒋介石の匙加減一つで多くの命があっけなく消えていく。

まったくもってくだらないが、世界中で今でも人間を虫以下の存在として扱っている国や特権階級がある。というか自分が特権階級だと思い込んでいる人々がいるということは事実だ。

そんな一部の人間の思惑で振り回される人生とは一体何なのか?それに対抗できると思われていたのが、かつてはメディアで、ちょっと前だとSNSだったりしたが、最近はそれも怪しいものになってきた。

自分を守るための武器は必要だが、それを人に向けてはいけない。後はどこまでも逃げ切るしかない。

駆け込みセーフで観た「初戀慢半拍(ママボーイ)」

今年の台北電影節のオープニング作品。台湾での一般上映は8月で、私が観たのは二輪(ロードショー上映が終わった後に、主に2本立てで安く観られる映画館)の湳山戲院。前は台北市に4つあった二輪映画館も、今では2つになってしまった。

母親と2人暮らしの小洪はもうすぐ29歳になるが、母親が過保護なために今までまともに女の子と口をきいたことがないぐらい奥手。ある日子持ちの風俗店のママ樂樂と出会い、彼女に恋をする。

監督は「一頁台北台北の朝、僕は恋をする)2009」「明天記得愛上我(2012)」の陳駿霖(アーヴィン・チェン)。長編は今回が3作品目の寡作な監督だ。

主演の徐若瑄(ビビアン・スー)はNetflixドラマ「華燈初上」での日式クラブのママ役が短い登場ながらも話題をさらったが、今回は風俗店で女の子達を取り仕切るワケありママを演じている。これがかなり堂に入っていて説得力がある。男運が無くて、もう成人した息子も詐欺に引っかかってお金をせびりに来るだけ。ピュアな気持ちを寄せる小洪についやさしくしてしまうが、小洪の母親にバレて会えなくなってしまう。

小洪のように母親から自立できない男性も、息子をまるで恋人や夫の代わりのように扱う母親もめずらしくないだろう。小洪が樂樂を好きになるのも、どことなく樂樂と母親が似ているからだ。年上で、自分を否定せず受け入れてくれるところ。顔も似ているし。

樂樂と樂樂の息子の関係は真逆で、樂樂は母親らしいことは出来ずほぼほったらかしてきた。人生における基本的なことを教わってこなかったせいで、うまく生きれないこの息子も少しかわいそうだ。

その息子役は范少勳(ファン・シャオシュン)が演じている。今回はそれほど目立っていない。

最終的に小洪はちょっぴり大人になって、新しい恋の始まりの予感させて映画は終わる。

2人でワルツを踊るシーンがファンタジーで微笑ましい。こういうシーンは陳駿霖監督のお得意とするところ。「一頁台北」の一番最後のユルいダンスシーンも大好きだ。

 

追記:2023年7月7日より「ママボーイ」の邦題で、シネマート新宿他にて全国順次公開決定。