アイドル映画も撮れることを証明した「阿媽有咗第二個(ママの出来事)」

平均年齢が高い映画祭の会場で、今日だけ若い女性が多いなあと思ったらどうもMIRRORのファンだったらしい。

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英皇電影(エンペラーモーションピクチャーズ)が製作。前作「29+1(29歳問題)」で女性の気持ちを代弁した彭秀慧(キーレン・パン)監督が、今度は男の子2人をメインに持ってきた。でもママ役の毛舜筠(テレサ・モー)の存在が大きく、結果的には主人公は3人という仕上がりになっている。

それでも姜濤(ギョン・トウ)と柳應廷(ジャー・ラウ)は、そこだけキラキラしている。流石アイドルグループMIRRORのメンバー。演技は固いがそれもまた初々しくていい。

でもそれ以外の男性キャラがとてもネガティブ。美芳の夫は浮気相手を妊娠させてそのまま離婚。方晴の父親は飲酒運転で母親を死亡させて刑務所入りになっている。息子と方晴にしても結局ママの取り合いで嫉妬しているだけなのか?と疑問にも感じる。女性の微妙な気持ちを表現するのが得意な監督だが、男性側に立つのはどうも苦手らしい。

しかしMIRRORの宣伝としては大成功で、この映画を観たら誰でも姜濤と柳應廷が好きになるのではないだろうか。

日本でもファンが布教活動をしているらしく、日本語でメンバー紹介をしているページを探すことが出来る。

香港での映画上映日は未定。4月にはシカゴの映画祭でも上映する予定だ。でも英皇が絡んでいるから、近いうちに一般公開されると思う。

 

追記1:映画の予告がようやく公開された。でもやっぱり香港での公開日は未定。


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追記2:2022年台北電影節での上映が決定。


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監督と出演者へのインタビュー。姜濤のみ國語で話している。チケットは1分間で売り切れ。

家族って容赦ない「美國女孩(アメリカン・ガール)」

2021年東京国際映画祭で鑑賞済み。今回はNetflixで配信開始されたので、中国語字幕で再び観ることにした。

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莊凱勛(ジュアン・カイシュン)が普通のお父さん役で出ていることに驚き。最後まで何か裏があるのではないかと疑ってしまった。母親役の林嘉欣(カリーナ・ラム)は貫禄の演技。この写真の中での座り方からして、今までの役とは違う。

時代は2003年。インターネットを繋ぐときの「ピーピロピロ~」という音が懐かしい。この映画はまんま監督自身が体験した実話なので、主人公の娘の心情に重きを置いているように見える。でも個人的には、年齢が近いこともあって母親の無念さに深く同情してしまう。

この映画のいいところは、母親がガンになっても家族がバラバラなところ。ありがちな「不治の病」映画のように、やさしい母親や頼れる父親、物わかりのいい健気な娘なんて登場しない。みんな心にストレスを抱えていて、毎日薄い氷の上を歩くような生活なのだ。本気でケンカしあうのがリアルだろう。

それでもやっぱりお互い深いところで、ちゃんと愛情で繋がっている。そういった部分もちゃんと描いているからほっと出来る。

2021年の金馬では最優秀新人監督賞などいくつか受賞している。

準備はいいかい?大阪アジアン映画祭上映作品発表

今年もやってきました、大阪アジアン映画祭。香港映画の「濁水漂流」が無いのが残念。しかし台湾、香港の映画が多数上映されるのはうれしい。

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作品ごとの解説はまだだが、今は本国で上映済ならネット上で簡単に情報が手に入るいい時代。何なら自分で調べてしまおう。

まずは台湾映画から。

「徘徊年代」

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90年代、ベトナムから台湾に嫁いできた女性のお話。姑役は「台湾のおばあちゃんと言えばこの人」の陳淑芳(チェン・シュウファン)が演じている。

 

「修行」

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専業主婦の妻がかつての夫の浮気相手が入院したと聞いて、日常に変化が起きるお話らしい。中年期の人生が修行だとするならそこに悟りはあるのか?

 

「不想一個人(一人にしないで)」

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若者の孤独とセックスを織り交ぜた映画っぽい。助演女優温貞菱(ウェン・チェンリン)のビッチな演技が楽しみ。

 

次は香港映画。

「梅艷芳(アニタ)」

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香港映画「寒戰(コールド・ウォー)」の梁樂民(リョン・ロクマン)が脚本と監督を担当している。映画版以外に47分×5話のドラマ版があり、既に香港、台湾、シンガポールのディズニープラスにて2月2日から配信されている。

梅艷芳(アニタ・ムイ)を演じている王丹妮(ルイーズ・ウォン)はモデルをしていた新人。外見がかなり似ていて、まるでアニタ姐さんが乗り移ったかのよう。80年代、90年代の香港の再現度も高い。上映している時にむせび泣く人がいるかもしれないが、そっとしておいてあげて。

 

「殺出個黃昏(黄昏をぶっ殺せ)」

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主演は謝賢(パトリック・ツェー)、馮寶寶(フォン・ボーボー)、 林雪(ラム・シュー)。元は名うての殺し屋だが、今は引退して普通の人に。そこに若い女の子が絡んできて3人の運命や如何にというお話。

香港映画も老人が主役の映画が多くなってきた。謝賢は私の年代ではニコラスパパとして有名だが、昔は超イケメンでニコラスそっくりで驚きだ。

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今でもイケてるけどね。

 

「緣路山旮旯(僻地へと向かう)」

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草食系理系香港男子の5つのラブストーリー。知り合った5人の女の子がみんな香港の郊外に住んでいるので大変。「山旮旯」とは広東語でいうところの僻地。具体的には沙頭角、下白泥、大澳、船灣荔枝窩、長洲あたり。監督は「点対点」「逆向誘拐」の黃浩然(アモス・ウィー)。香港という場所にこだわりを持った監督なので、今回も香港の素敵なところをいろいろ紹介してくれる。主役の岑珈其(サム・ガーケイ)は実はベテラン中堅俳優。名の知れた作品に多数出演していて、今回の大阪アジアン映画祭の「我的印度男友(私のインド男友)」、「阿媽有咗第二個(ママの出来事)」にも出演している。

 

「阿媽有咗第二個(ママの出来事)」

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「29+1(29歳問題)」の彭秀慧(キーレン・パン)監督の新作。クランクインが2021年9月で出来立てのほやほや。今回がワールドプレミアなので、ネットの情報も少ない。登場する男の子は香港のアイドルグループ「MIRROR」の12人いるメンバーのうちの2人。

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でも主役は毛舜筠(テレサ・モー)だよ。

 

そして気になるのが中国の「宇宙探索編輯部(宇宙探索編集部)」

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百度で検索してもおかしな予告とポスターしか出てこない。B級臭がプンプンする。でも嫌いじゃない。出版社に勤めるオッサンの妄想の暴走?のお話っぽいが謎過ぎる。作品の良しあしは監督のお笑いセンス次第かな。

 

もうすでに有給の申請済み。オープニングとクロージングはサポーターになったので席の確保も万端。海外に行けない分、映画で思い切り楽しみたい。

「前科者」映画版を観る

ドラマ版が思いのほか良かったので、劇場でも観ることにした。しかし公開1週目の水曜日の夜の回で観客は10人前後だった。朝の情報番組などでも宣伝してはいるが、重いテーマなので有村架純主演とはいえ厳しいのかもしれない。

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ドラマ版では触れられなかった主人公が保護司になった理由も映画の中で明かされている。なるほどなと思ったが、初恋の相手との濃いカラミは本当に必要だったのか?

話の内容が内容なだけに、人生いろいろな人々が登場する。殺人罪を犯した男を演じた森田剛はすっかり大人の実力派俳優だ。事件の元凶にもなったDVの義理の父親を演じたリリーフランキーもハマってる。この父親に最後まで何も釈明させないところが、逆にいろいろ考えさせられる。コンビニの店長がどんどんいい人になっているのもうれしい。そしてドラマでも存在感がピカイチなみどりちゃんは、遂には地下アイドルの扮装で登場。この子だけで映画が1本撮れるぐらい濃い人生を送っている。

無差別殺人などの暗いニュースを見ると気分が塞ぐが、個人的には世の中はいい方に向かっていると思っている。明らかな虐待や不法な施設はすぐにニュースになる。しかし陰湿なケースは更に地下に潜りこんで見えづらくなっているのかもしれない。

犯罪ものの本やドキュメンタリーを見ても、犯罪の核心に触れられることは少ない。理由付けはいろいろ出来るが、完全防止は出来ない。それでもこの保護司のように再犯を減らそうとする人たちがいる。理解を深めるためにも見る価値はあり。

ドラマ版はAmazonプライムビデオで配信中。

保護司以外にも底辺でもがく人々を掬いあげようと努力する人たちがいる。 

www.shogakukan.co.jp

連載継続中。2018年にはドラマ化もされている。

絵本のような世界観「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

東京国際映画祭では抽選に漏れた。

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今回も思う存分に美術を楽しめた。でもどれも映っている時間が短すぎる。もっとじっくり観てみたい。

架空の街の架空の雑誌と架空の記事。ページをめくるように次々と物語が展開する。

出演陣が豪華。レア・セドゥは堂々とした脱ぎっぷり。看守の制服姿もかっこいい。シアーシャ・ローナンがほんとにチョイ役出演で驚く。かわいかったけど。メイン以外の一瞬しか登場しないキャラたちにも愛に溢れている。細かい部分にも手を抜いていない。

POPでパステルでカラフルなまるで綿菓子のような見た目とは裏腹に、中身は結構骨太というか辛辣なのもいつも通りだ。

そんなウェス・アンダーソンの世界観を愛してやまないファンが、インスタグラムに投降した写真を集めた本が2020年に出版されている。

表紙からしていい感じ。これでロケハンも出来そう。

演じることは生きること「ドライブ・マイ・カー」

3時間という上映時間に気後れしてなかなか行けなかった。しかし一旦上映回数が少なくなったのにまた最近増えたので、ようやく観てみることにした。

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村上春樹の小説の中には業を背負った人物がたびたび登場する。この映画の主人公の妻もそうだ。夫以外の複数の男性とセックスしないと日常生活を生きていけない。夫はそれを知っているが、敢えて追及したりしない。お互い深く愛し合っていることを知っているからだ。彼女の過去に一体何があったのか気になるところなのだが、それは微塵も明かしてくれない。

愛する人を失い舞台にも立てなくなる主人公はそれでも妻が死ぬ前と変わらない日々を生きていく。毎日妻が残したテープを車の中で聞きながら。ここでちょっと主人公が表面的には普通に見えたとしても、かなり心が麻痺したやばい状態なんじゃないかと感じる。

それは多分主人公の職業が演出家で、生きることと演じることが深く密接しているからじゃないかと思う。演じるにはまずテキストを体に沁み込むまで暗記して冷静に状況を見極めないといけない。それが自分の生き方にまで反映されているので、主人公は自分の感情通りに生きていけない。

それが自分より冷静に生きるドライバーに出会い、彼女の物語に触発されてやっと大声で泣くことが出来たのではないか。

3時間は普通に考えたら映画としては長い。しかし長い上映時間が必要な映画もある。「大象席地而座(象は静かに座っている)」もそうだ。

mingmei2046.hatenablog.com

長い時間を経た後にくるカタルシスがたまらない。もちろん単なる駄作なら途中でも帰ってやる。

この映画の大事な小道具として車がある。13年前から乗っているサーブ900。サンルーフもついて、カセットで再生しないといけなくて、ツードア。どれも演出には欠かせない要素だ。

車種については詳しくないが、車が絡む撮影の大変さは経験したことがある。車内を撮影する場合、助手席や後部座席でカメラマンや助手がぎゅうぎゅう詰めに乗って、時にはトランクにまで人が乗り込む場合もあったりする。車の前からの撮影なら車の前に小さい足場を組んでそこにカメラマンがかじりついたままえんえんと走ったり。望遠での撮影ではカメラマンやスタッフが山の上の道なき道をカメラを担いで登り、トランシーバーでタイミングを計りながら撮影したり。繋がりがあるのでシーンごとに洗車したりわざと汚したり。この映画は運転中のシーンも多いしカット割りも多かったから、たいへんだったんじゃないだろうか。

この作品は映画館向き。まだ当分上映は続きそう。

dmc.bitters.co.jp

小説「クレイジー・リッチ・アジアンズ」を読む

偶然図書館で見かけたので読んでみる。映画では正直登場人物が多すぎて整理しきれなかったが、これを読んでやっとすっきりした。小説の方がお下劣なので、お好きな方は小説もどうぞ。

映画の感想はこちら。

mingmei2046.hatenablog.com

上下合わせて約700ページある小説を、120分にうまくまとめられている。映画ではエレノアを楊紫瓊(ミシェール・ヨー)が演じているので、小説より格調高い母親になっている。一番̪シビれるのは映画の冒頭で楊紫瓊がタンカを切るシーン。日本のヤクザ映画でも通用すると思う。

原作の中にも書いてあるが、彼らは結局シンガポール経済圏の「お金持ち」村に住んでいる住人なのだ。みんな知り合いで、その狭い村の中で優劣を決めたり張り合ったりしているだけ。

中国のことわざで「肥水不落外人田」というのがあるが、つまりは「甘い汁はアカの他人に吸わすな」ということ。それは移民した先の経済を家族経営の財閥で牛耳って独占することにも通じる。奴隷として南洋に連れてこられて苦労した華僑はまた違うのだろうが。華僑に限らず一部の人間に富が集中する状態というのはやはり不健全だろう。

原作者のケビン・クワンもそういったお金持ち村の住人で、だからこそ内情にとても詳しい。小説に頻繁に登場するさまざまなブランド名はもうチョコプラの自慢合戦ネタレベルで、知らなくても笑える。

そんな直訳すれば「イカれた超富裕層のアジア人」も、結局フィクションでしょ?と思ったらそうでもないらしい。

Netflixで配信している「きらめく帝国 〜超リッチなアジア系セレブたち〜」は「ロサンゼルスのお金持ち」村に住んでいるアジア人を撮ったリアリティショーだ。

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ある意味凄まじい世界。

これを見て羨ましいと思う人もいるから番組として成り立っているわけで。

でも、もし「あなたが欲しいのはこんな金の斧ですか?銀の斧ですか?」と聞かれても、「いやいや、私が欲しいのはこんなんじゃないんです!!」と速攻答えると思う。