受験といじめの実態が分かる「少年的你(少年の君)」

中国大陸では2019年10月に公開された。日本では2021年7月16日から公開。2020年の香港電影金像奨では最優秀主演女優賞、最優秀新人賞、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀作品賞等等、賞を獲得している。

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まずはキャスティングが絶妙。主演に1992年生まれの童顔女優周冬雨(ジョウ・ドンユー)と、若いのに芸歴が長いアイドルの易烊千璽 (イー・ヤンチェンシー)の組み合わせが新鮮だ。

原作はネット小説だが、脚本ではかなり変えているらしい。

この映画の中の受験勉強の描写がかなり凄まじい。いじめの加害者は主に3人だが、知らんぷりを決めるその他大勢のクラスメイトや、受験合格しか目が無い先生や親たちも加害者の協力者だ。「これで人生が決まる」と言われ続ける受験のストレスを、自分よりも立場の弱い同級生にぶつけてガス抜きをしているのだ。主人公の陳念も友達のSOSを無視して自殺に追い込んだと言える。

陳念は母子家庭だがこの母親も残念な人で、詐欺まがいの化粧品を売るしか生計を立てる術を知らない(おそらく自分も騙されて大量に買わされたのだろうと推測)。それで受験の苦しさを理解できないまま(自分は受験とは縁のない人生だったから)、とりあえず子供には「がんばれ」って言って追い込んでしまう。

チンピラの小北も親から見放されて育てられた孤児のようなものなので、しだいに2人は共鳴していく。

中国大陸では親の出稼ぎが原因で生じる育児放棄が昔から問題になっている。祖父母が面倒を見られればまだいいが、そうでないとまさに小北のようになる。

ロケ地は重慶。小北が住む自家製バラックと超高層億ションとの対比が格差を象徴している。受験に受かれば人生一発逆転が狙えると思いきや、就職では結局コネがないと条件のいい会社には入れないという現実がその後待っている。一昔前はそれでも裸一貫からのし上がる成功物語がまだあったが、格差が固定化されつつある今もうそれも無理そうだ。

そんな現代中国大陸の問題をいろいろあぶり出している映画なので、このままでは上映出来ない。なので最後に中国共産党へのフォローというかおべっかが入ってくる。結末も陳念がそのまま大学に行くのと2パターン用意していたらしいが、最終的に2人とも捕まるほうを選択した。

その辺りのバランス感覚は、香港出身で父親が有名人の曾國祥(デレク・ツァン)監督だからかなあと思う。

今回はお笑いは少なめ「消失的情人節(1秒先の彼女)」

今年の夏は忙しい。中国語圏の新作が続々日本で公開される。

6月25日~:「消失的情人節(1秒先の彼女)」

6月26日~:シネ・ヌーヴォで「台湾巨匠傑作選2021」開始。

7月9日~:「唐人街探案3(唐人街探案 東京MISSION)」

7月16日~:「少年的你(少年の君)」

7月23日~:「親愛的房客(親愛なる君へ)」

7月24日~:「夕霧花園」

7月30日~:「返校(返校 言葉が消えた日)」、アップリンク京都で「台湾巨匠傑作選2021」開始。

8月20日~:「怪胎(恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター)」などなど。休みがどんどん映画の予定で埋まっていく。

それで今日は「消失的情人節」の日である。公開2週目のレディースデイでもお客さんは数えるほど。「まん延防止」中で夜の上映が出来ないのがつらい。

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人よりどんくさい男が、人よりせっかちな女に恋をする物語。今いろいろな作品にひっぱりだこの人気者劉冠廷(リウ・グァンティン)が男の主役を演じている。毎回まったく違う役を演じていて、まだまだ引き出しは多そうだ。その相手役の李霈瑜(パティー・リー)は女優の経験はあまりなく、大抜擢と言えるだろう。

物語としては弱い部分があるが、見どころは美術とロケ地の風景の美しさ。主な撮影場所である郵便局は淡水の廃ビルを改造してセットを作った。

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ビフォー&アフター。リアルすぎて地元民が間違って入ってくることしきり。

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中もばっちり郵便局。郵便局全面協力のもと、出演者は実際郵便局で研修を受けたそうだ。
2人で市バスで出かける先は、嘉義の東石海岸。ここは陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督が映画「熱帯魚」を撮影したロケ地でもある。

ゲストも豪華。

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まず教師に林書宇(トム・リン)監督。息子のヨメを探す母親に林美秀(リン・メイシュウ)。DJは陳竹昇(チェン・ジューション)。映画では常に顔にモザイクがかかっていて誰だが分からずwそしてチンピラとくればこの人張再興(チャン・ザイシン)。

そして陳玉勲作品と言えば脇のブサイクキャラが光っているのが特徴だが、これも今回はあまり目立った動きはしていない。生きのいいブサイクキャラもそうそういないものなんだな。

ハラハラしない「引爆點(High Flash 引火点)2018」

こちらも「台湾巨匠傑作選2021」から。台湾では2018年8月に上映された。

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主演は呉慷仁(ウー・カンレン)と、「江湖無難事(ギャングとオスカー、そして生ける屍)2019」でヤクザの親分の愛人とトランスジェンダーを演じた姚以緹(ヤオ・イーティ)。

監督は「最乖巧的殺人犯(よい子の殺人犯)2019」の庄景燊(チュアン・シェン・チング)。撮影は「最乖巧的殺人犯」の方が早かったが、上映は「引爆點」の方が早かったので、デビュー作としてはこちらになる。

主演が呉慷仁なので、上映前から話題になっていた映画だ。法医学者役というので、検死で事件の究明をするのかと思ったが、さっさと元ヨメの検察官と一緒に捜査を始めようとするので、そこでまず「?」が浮かんだ。法医学者に捜査の権限は無いと思うんだが。そしてこの元ヨメというのがかなりの頑固者で、過去に夫に内緒で中絶しているのだ。さらに地方の巨大企業と自治体のなあなあの関係に逆らって、独自に企業の不正を調べている社会派検察官なのだが、そういうことが姚以緹の演技からはちっとも感じられない。きれいな女優さんをきれいなまま撮ってどうする。

生きたまま燃やされたりとかショッキングなシーンがあるが、これも撮り方なのか音楽のせいなのか思ったより盛り上がらない。こういったシーンはベタでも多少ケレン味があったほうが見る側はもっとドキドキすると思う。

最後の方のどんでん返しも普通に進んでしまって何とも惜しい。呉慷仁の泣きの演技で締めるのも、あまりにも役者に頼りすぎている。

監督にもっと経験があれば、もっと良くなったのではないかという映画だった。

 

追記:Amazon Prime VideoとU-NEXTで配信中。

台湾の姫物語「阿莉芙(アリフ、ザ・プリン(セ)ス)2017」

「台湾巨匠傑作選2021」を上映中のシネヌーヴォで鑑賞。ほぼ満席。2017年東京国際映画祭、関西クィア映画祭2018でも上映されている。

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「父後七日」の王育麟(ワン・ユーリン)監督の第3作目。3組のカップルをメインにバランスよくお話は進む。アリフはゆくゆくは性転換を望むパイワン族の跡継ぎだ。台北で女子になりきって人生を謳歌しているが、そこに父親が乗り込んでくる。

ゲイバーのママSherry役を陳竹昇(チェン・ジューション)、そのゲイバーの臨時ダンサーで昼間は公務員の既婚者を鄭人碩(チェン・レンショウ)がそれぞれ演じている。

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お二人ともおキレイ~。特に陳竹昇は普段ヒゲも生やしているので、その変身ぶりに驚いた。

Sherryがずっと片思いをしている相手を、去年亡くなった呉朋奉(ウー・ポンフォン)が演じている。このSherryに対するもどかしい思いを見事に表現している演技力には脱帽である。新人の主人公の脇を演技派のベテラン俳優でがっちり固める「朝ドラ方式」はやっぱり強いなと思う。

最終的には父親もアリフのことを受け入れて、無事跡継ぎとなる。パイワン族は女子でも跡を継げるから。

監督自身はストレートなので、脚本の段階から入念にリサーチして進めていったらしい。究極には性差を超えた愛なので、この映画のようなハッピーエンドもアリかなと思う。

魏瓔珞は敵に回したら絶対ダメなヤツ「延禧攻略(瓔珞<エイラク>〜紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃〜)2018」

サンテレビで平日午後3時から1話ずつ放送されていたので、緊急事態宣言中につい見てしまった。その後後追いでネットで70話まで完走。長い!

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同じ乾隆帝時代のお話なので「如懿伝(如懿伝-紫禁城に散る宿命の王妃-)」とよく比べられるが、中国大陸での放送はこっちのほうが先だった。

どちらも大人気で、両方見る人が多かった。「延禧攻略」の方がフィクション多めでエンターテイメント性がある。それでも当時の衣装やメイク、アクセサリーなどは忠実に再現されていて、全体的に上品な仕上がりになっているのが新鮮に映った。

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3連ピアス、つけ襟、内側だけ付ける紅等々。

姉の死の真相を探るミステリーから始まるが、割と早めに真犯人はバレる。その後も魏瓔珞を陥れようとする敵が次々と現れるが、それをバッタバッタとなぎ倒してゆくのが爽快。乾隆帝に対しても策をめぐらしてまんまと寵愛を手に入れたりして、その辺りは女子必見である。

後宮ドロドロものはもう勘弁」と思いつつ、つい見てしまったのは、魏瓔珞の賢さと口のうまさが楽しみだったから。

こういったドラマではヒール役がとても大事なのだが、袁春望がどうしてもイケメンに見えない。「男からも言い寄られるぐらいのイケメン」という説明なのだが、よく見て2枚目半というところだろう。やっぱりヒール役は難しい。

走れないけど走って逃げろ!「RUN」

デビュー作でもある前作「search/サーチ」がアイデア賞ものの傑作だったので、ずっと公開を楽しみにしていた。

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アニーシュ・チャガンティ監督は、多分自分に難易度の高い制約を設けるのが好きな性格に違いない。前作は全編PCの画面内だけで物語が進行していくが、まったくそれがマイナス効果になっていないという離れ業をやってのけた。

今回主人公は車椅子生活を送っているのに逃げなくてはいけないという設定だ。たとえだいたいのあらすじは予習で知っていても、次の展開がまったく読めないので最後まで楽しめる。

どちらも脚本と演出が素晴らしければ、低予算でも、知名度の低い役者が主演でも質の高い映画は出来るんだよという見本のような作品である。

とにかく主人公のクロエが賢い。高い場所にある物を取るやり方とか、ガラスを割る方法とか流石理系女子だ。

 しかし最後のオチはちょっと「ん?」て感じ。果たして復讐なのかやっぱり共依存なのか。

アニーシュ・チャガンティ監督が最初に注目された短編作品「Seeds」はこちら。


www.youtube.com

全編Google Glassで撮影されていて、主人公は手足以外映っておらずセリフもない。それでもお母さんとの関係性などはひしひし伝わってくる。

2021年香港インディペンデント映画祭で「逆向誘拐(2018)」を観る

今日から大阪のシネ・ヌーヴォにて始まった「2021年香港インディペンデント映画祭」。京都出町座では6月25日から、名古屋シネマスコーレでは7月下旬に公開予定。

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自主制作映画とはいえ、高先電影有限公司(ゴールデン・シーン)がプロデュースしており、予算も約700万HKドル(約1億円)あるので、結構大掛かり。大御所もちょこちょこ登場している。

黃浩然(アモス・ウィー)監督が「點對點(2014)」に続いて撮った長編第2作がこの作品である。今回もロケ地のセンスが抜群。自分が通った高校(高主教書院)の付近ということで撮り方が手馴れている。

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登場人物たちがカンヅメになっているベランダから見えるこの気になる建物は、「永和號」という老舗の雑貨店さんだ。今はもう営業していないが、香港歴史博物館内でかつてのお店の様子を復元しているぐらい歴史のあるお店である。

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ここどこだろう?と探すのが楽しい。
他には中環己連拿利(グレニーリー)の歩行者通路や大館も出てくる。

話がちょっと複雑で1回観ただけでは飲み込むのがたいへんだった。最後、黒幕が事件の全容を解説してくれるのだが速すぎてついていけず(汗)。さらに付け足す感じで解説を足してくれたのは監督の親切心だろう。

上映中は毎日最終回後にトークイベントも開催している。映画館を出ようとしたら主催であるリム・カーワイ監督が入口で数人の女性に囲まれていたw

まだ緊急事態宣言中だけど、これほど賑やかなのは本当に久しぶりだなあと思った。