東京フィルメックスで「七人樂隊」を観る

香港を代表する監督7人が撮ったオムニバス映画。短いながらもそれぞれの個性が楽しめる映画だった。

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1:洪金寶(サモ・ハン・キンポー)《天台練功》1950年代

ビルの屋上で子供たちがカンフーの練習をしているお話。師匠役は洪金寶の実の息子。

2:許鞍華(アン・ホイ)《校長》1960年代

生徒や先生たちに慕われていた校長先生のお話。校長先生は呉鎮宇

3:譚家明(パトリック・タム)《別夜》1980年代

移民で明日別れ離れになってしまう高校生の恋人が過ごす最後の一夜。

4:袁和平(ユエン・ウーピン)《回歸》1990年代

カンフーの達人おじいちゃんとその孫娘とのふれあいを描いている。カンフーの達人は元華(ユン・ワー)。

5:杜琪峯(ジョニー・トー)《遍地黃金》2000年代

株で何とか一山当てようとする3人のお話。昔ながらの茶餐廳が登場するのがうれしい。

6:林嶺東(リンゴ・ラム)《迷路》2010年代

移民していたイギリスから久しぶりに香港に戻り迷子になった家族のお話。迷子になった父親役は任達華(サイモン・ヤム)。

7:徐克(ツイ・ハーク)《深刻對話》未来

とある精神病院での対話。どっちが患者なのか、嘘かホントかごっちゃになったコメディ。張達明(チョン・ダッミン)と林雪(ラム・シュー)が登場する。

で、私が一番心を掴まれたのは「別夜」だった。

男子役は映画「父子」の息子役だった呉澋滔。

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映画の中では眼鏡をかけている。「昔風のアイドル顔」の俳優をよく見つけてきたなあと思ったら彼だった。もともとは子役で父親は有名な俳優。「父子」から14年経って、セックス絡みの演技も出来るようになったんだねぇ。

いつまでも引きずりそうで早く忘れたい男と、記念となる思い出を持って新しい生活を始めたい女。別れに対する男女の思いの違いが如実に表れている。

劇中に使われる山口百恵の「秋桜」のカバー曲もとても良かった。

それぞれの年代のロケ地をよく見つけてきたなあと感嘆する。香港を知り尽くした名監督達ならではだ。

のむコレ2020「レディ・マクベス」を観る

2017年の京都ヒストリカ国際映画祭では、「マクベス夫人」のタイトルで上映。

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2016年公開で、フローレンス・ピューが広く注目されるきっかけになった作品である。

彼女が演じる主人公キャサリンを「悪女」と呼んでしまうにはあまりにも悲しい。17歳で子供を産む道具として殆ど人身売買のように嫁いだ相手は、倍以上年上でしかも父親との確執からキャサリンとのあらゆる接触を拒否。そんな舅と夫との板挟みに遭いながら、1人の人間として扱われない日々を送っていた。

そこに能天気に自分に興味を示す下男が登場。実際大した男でもないのだが、藁にもすがる思いで彼との関係にどんどんのめり込んでいく。

これは19世紀のイギリスの片田舎のお話だが、現代でもこういう女はいるだろう。「男によって自分の人生が劇的にいい方向に変わるかもしれない」と思っている女は。

そういう「ヒロイン願望の女」がうまい具合に「ヒーロー願望の男」と出会えれば、それはそれでめだたしめでたしなのだが、大抵はヒーローにはなりたいけど問題解決能力はほぼ0という男が殆どだ。そもそも人が人を救うこと自体難易度が高いのだから、相手にだけそれを強要するのは酷というもの。

結局キャサリンは現状を打破したかっただけだったのではないかと思う。しかし代償はあまりにも大きかった。次第に心が蝕まれていく様をフローレンス・ピューが実にリアルに演じていた。

そして大事な脇役がメイドのアンナ。舅の命令で彼女が膝まずくシーンは、当時のアンナの立場を的確に表していた。彼女も家の主人から見れば1人の人間ではなく、単なる家事をする道具にすぎない。

このポスターのように座るシーンが確か3回あった。毎回意味合いが違っていて、そして最後、彼女は1人になったが完全な孤独にもなった。

2020台湾映画上映&トークイベントで「最乖巧的殺人犯(よい子の殺人犯)」を見る

去年の金馬でも上映されたが、スケジュールが合わず泣く泣くあきらめた作品。今回は台湾文化センターとアジアンパラダイス共催のイベントでオンライン上映した。先着100名しか見ることが出来ないので、必死こいて申し込んだ。

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何といっても見どころは黄河の演技。その演技力を買われてここ最近出演作が続いているが、いろんな役に挑戦している。香港映画「翠丝(トレイシー)2018」では愛する恋人を失ったゲイ、Netflixドラマ「誰是被害者(次の被害者)2020」では 性同一性障害の被害者、今度はアニメオタクだ。

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↑これが冴えないアニメオタクになってしまうのだから大変身だ。個人的にはロン毛の方が好き。

監督は映画「引爆點」の莊景燊(ジャン・ジンシェン)。長編映画はこれが2作目。

去年この映画を調べた時に、線路の上を血まみれになった主人公阿南が歩くスチールを見つけたが、今回見た時にはこのシーンは無くなっていた。その代わり最後は電車の中で平和そうに微笑む姿で終わっている。確かにこっちの方が観客がいろんな解釈が出来そうだ。

全体で80分と短く、親切な説明は敢えて省いてある。不穏な家庭の背景や、阿南が恋する草苺ちゃんのこともほとんど語られない。だからといってよくある監督のご都合主義の説明不足ではなく、最低限のことはきちんと観客に提示されている。例えば草苺にそそのかされて街でいろんないたずらをする時に、阿南の隠れていた凶暴性が爆発するエピソードはその後の展開の伏線になっている。

しかし全体的にこじんまりとまとまっている感があって、逆に破綻が欲しくなってしまう。

美術はがんばっていて、架空のアニメキャラ「ボビッター」グッズがたくさん登場する。阿南が着るTシャツだけでも数種類あった。しかし設定では20年前の日本アニメと言いながら、どう見ても70年代のアニメにしか見えない。そこは実に惜しい。

 

追記:「台湾巨匠傑作選2021」の中で上映予定。

 

追記:Amazon Prime VideoとU-NEXTで配信中。

今年は金馬(ゴールデンホース)も脳内妄想開催

今年は11月5日から22日まで開催される台北金馬影展。注目作品が多い中、気になるものを挙げてみた。

 

手捲煙(手巻き煙草)香港

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ヤクザのブツを盗んだ男と、彼から百万ドルの報酬をもらう約束で庇う元軍人とのお話。そこにタイと台湾のヤクザも絡んでくる。色合いがかなり好み。主演は林家棟(ラム・ガートン)。その他に香港ヤクザ映画らしい渋い面々も揃っている。監督は陳果(フルーツ・チャン)に見いだされた新人陳建朗。

追記:2021年大阪アジアン映画祭で上映予定。

 

同學麥娜絲(台湾)

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かつて高校の同級生だった中年男子たちのその後の悲喜こもごもの人生。麥娜絲(マイナス)は当時のミスキャンパスの名前。俳優は左から納豆、施名帥、鄭人碩、劉冠廷。この4人を見るだけで何かやらかしてくれそうで楽しくなる。

追記:2021年2月20日からNetflixで配信開始。 

mingmei2046.hatenablog.com

 

狂舞派3(香港)

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1が出たのが2013年。ダンス映画は香港では売れないというお約束を見事ひっくり返して大評判になった。今ではNetflixでも鑑賞可能。2をすっとばして3と名付けたのは監督の心意気らしい。1の主演の顏卓靈(チェリー・ガン)と蔡瀚億(babyjohn)も登場するが、ぐんと大人っぽくなっている。

追記:2021年大阪アジアン映画祭で上映予定。

 

堕胎師(香港)

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陳果(フルーツ・チャン)が2004年に撮った「三更2之餃子(オムニバス映画「美しい夜、残酷な朝」のうちの一つ)」で登場する謎の美魔女を主役にして撮った作品。闇で堕胎をしている彼女と、娘との軋轢を描いている。そして「餃子」から15年経っているのにちっとも変わらない主演女優の白靈にも驚き。

 

消失的情人節(台湾)

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陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督の最新作。人より時間がゆっくり進むために1日得する男と、人より1日少なくなった女のお話。主演は劉冠廷と李霈瑜。「陽光普照(ひとつの太陽)」ではめちゃくちゃ怖かった劉冠廷もこの作品の中ではいい人。予告編からしておもしろい。ロケ地もいい感じ。9月18日から既に一般上映されている。

追記:2021年6月25日より「1秒先の彼女」という邦題で一般公開予定。

 

箱子(台湾)

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今ノリにノッている莫子儀(モー・ズーイー)が主演の30分の短編映画。監督はドラマ「追兇500天」の蔡怡芬。既にスペインのシッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭で最優秀短編映画賞を受賞している。予告編を見るだけでも期待値大。

 

我的兒子是死刑犯(台湾)

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ドキュメンタリー。死刑囚の弁護士などにインタビューをしている。どちらかというと親目線。死刑制度の是非を問う内容にもなっている。

 

その他にも「幻愛(香港)」「日子(台湾)」「無聲(台湾)」「腿(足を探して)(台湾)」「孤味(弱くて強い女たち)(台湾)」などももちろん上映する。シンガポールやマレーシアの作品も多い。

 

このうちのどれかは大阪アジアン映画祭で観られることを祈るばかり。

全世界の老人に捧げる希望「ぶあいそうな手紙」

2030年には日本の平均年齢が50歳になるらしい。既にどこの映画館に行っても若者の姿は無く、平均年齢が高い高い。こうなったら老人向けの映画が増えるのは必然だ。

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まず78歳の主人公エルネストが住む家がとても素敵。おそらく結婚してからずっと暮らしている家なのだろう。調度品も家具も年代物で時代の積み重ねを感じる。

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キッチンのタイルがいい味出している。

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集合住宅の外観。このアールがかかったベランダも素敵。

エルネストは隣の仲良しハビエルと毎日軽口をたたき合いながら、一人だが楽しく静かに暮らしていたのだが、ここに闖入者ビアが登場。しかしエルネストの方が一枚上手。ビアの嘘をあっさり見抜き、しかも手紙を読ませるアルバイトまで引き受けさせる。そして酒乱でDVのビアの彼氏が家に押しかけて来ても、おもちゃの拳銃とはったりを使って追い出してしまう。

そう、エルネストはかなりかっちょいいおじいさんなのだ。しかし女心に関して不得意なのがかなり残念。勇気を振り絞って昔の恋人にラブレターを出した女の意気込みが分からんとは!!

監督は1959年生まれの女性監督。老いの悲哀も覚悟もきちんと描いている。そして「何歳になったって愛を追いかけて行けばいいんだ!」と背中を押してくれるのは、イメージが暗くなりがちな老後にも光がさすというもの。

こういった老人を主人公にした映画は、「老い支度」を始めている私にとっても参考になる。老後に大事なのはまず健康とお金と友達。そしてユーモアと思い出。どれも年取ってから何とかしようと思っても手遅れだ。

長生きするつもりはないけれど、死ぬぎりぎりまで楽しく生きたいよね。

大阪では11月14日から開催「台湾巨匠傑作選2020」

もともと4月に予定されていたのが、コロナの影響で9月に延期になった。大阪ではシネ・ヌーヴォさんで上映。名古屋は名古屋シネマスコーレで。京都では京都みなみ会館さんが12月25日から上映予定。その他に横浜、神戸でも上映予定。作品紹介はここでチェック。

https://taiwan-kyosho2020.com/screening-information/

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面白そうな映画がいっぱい。お勧めの作品をいくつか。

「停車(2008)」

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2009年の大阪アジアン映画祭で上映。鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の長編デビュー作。主演は張震チャン・チェン)。実は桂綸鎂 (グイ・ルンメイ)はあまり登場しない。高捷(ガオ・ジエ)や杜汶澤(チャップマン・トー)も出演している。 戴立忍(レオン・ダイ)の下品っぷりは最高。

 

「血観音(2017)」

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2018年の大阪アジアン映画祭で上映。もっと日本でも知名度が高くなって欲しい。

mingmei2046.hatenablog.com

 

「愛情來了(ラブゴーゴー)1997」

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今でも大好き。観た後ほっこりすること間違いなし。

 

「5月一号(若葉のころ)2015」

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80年代の高校生たちが初々しい。制服もレトロでダサ可愛い。

 

「目擊者(目撃者 闇の中の瞳)2017」 

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脚本が素晴らしい。なかなかの腹黒さ。

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「龍飛鳳舞(天龍一座がゆく)2012」は「父後七日(父の初七日)2010」を撮った王育麟(ワン・ユーリン)監督の作品なので是非観たい。逆に「盜命師」は「河豚(2011)」の李启源(リー・チーユエン)監督なので、「どうなの?」って感じ。「河豚」の最後のシーンの画面いっぱいの百合は綺麗だったが。

 

東京よりも開催期間が短いので、上映回数も少ない。観たければ迷わず観るべし。

今年は同時開催!東京国際映画祭&東京フィルメックス

上映作品を見ると、釜山国際映画祭や台北映画祭、金馬影展とかぶっている作品が多かった。今は海外に行けないので日本で見られるのはありがたい。

スケジュールはまだ発表されていないが、是非これは観たいという作品をリストアップしてみた。

 

七人楽隊(七人樂團)香港

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1950年代から2020年までの香港の歴史を振り返る映画。洪金寶(サモ・ハン・キンポー)《天台練功》、許鞍華(アン・ホイ)《校長》、譚家明(パトリック・タム)《別夜》、袁和平(ユエン・ウーピン)《回歸》、杜琪峯(ジョニー・トー)《遍地黃金》、林嶺東(リンゴ・ラム)《迷路》、徐克(ツイ・ハーク)《深刻對話》で構成されている。プロデューサーは杜琪峯。実は吳宇森(ジョン・ウー)もこの中に入っていたのだが、本人の都合により辞退。2018年に亡くなられた林嶺東はこれが遺作となった。

 

第一炉香(第一爐香)香港

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張愛玲(アイリーン・チャン)原作、許鞍華(アン・ホイ)監督の文芸作品。主演は馬思純(マー・スーチュン)、ポンちゃん(彭于晏)。上海から逃れてきた純情女学生が大人になるお話。

 

足をさがして(腿)台湾

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桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、楊祐寧(トニー・ヤン)主演のブラックコメディ。撮影は中島長雄こと鐘孟宏。なので鐘孟宏監督作品ではお馴染みのスタッフ俳優が多く出てきそう。ダンサーと彼女に一目ぼれした男が恋に落ちたが、その後だんだんすれ違いの生活に。男が死んでしまった後に2人の愛情を振り返るお話。

 

弱くて強い女たち(孤味)台湾

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既にいろいろな映画祭に出品されている。徐若瑄(ビビアン・スー)はプロデューサーと主演(次女)を兼任。俳優は実力派揃い。監督の許承傑(シュー・チェンチエ )は長編はこれがデビュー作だが、ずっと映画製作に携わっていて日本との関係も深い。

 

無聲(無聲)台湾

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今年の台北電影節のオープニング作品。2011年に発覚した特殊学校内の集団性犯罪が元になっている。こういった性犯罪の映画は見るのがつらいが、決してなくならないのが実情。

 

悪の絵(惡之畫)台湾

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こちらも今年の台北電影節で上映している。主演は黄河東京国際映画祭のサイトでは「ホァン・フー」となっているが、日本語表記が「ホアン・ハー」だったり「リヴァー・フアン」だったりして統一されていない。どちらにしろカタカナ読みでは現地では通じないだろうw

 

カム・アンド・ゴー 日本

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いつも大阪アジアン映画祭の日程が合わなくて見逃していた林家威(リム・カーワイ)監督作品だが、今回は観られるだろうか?ロケ地が大阪だから楽しみだ。李康生(リー・カンション)も出演している。

 

その他に、李康生がたっぷり堪能できる蔡明亮ツァイ・ミンリャン)監督の「日子」、「遺灰との旅」「老人スパイ」「ムクシン」「ファンガール」もおもしろそう。

 

そしてどちらにも入っていない「親愛的房客」はやはり大阪アジアン映画祭まで待たなくてはいけない。小莫、大阪に来て欲しい。