台北電影節で「順雲」を観る

f:id:mingmei2046:20170713102957j:plain

台湾の基隆を舞台にした老老看護のお話。

60歳も過ぎた順雲は早期退職して80歳を過ぎた母親の看護をしている。兄と姉は既にアメリカに移住しており頼りに出来ない。

母はかつて京劇役者をしていたが、今では自力でベッドから起き上がることもままならない。しかし性格は強気で、身体の衰えに対する憤りを順雲にいつもぶつけている。

母娘だけの生活。距離が近すぎて愛も憎しみも高濃度。順雲は独身だが密かに大学主任に好意を寄せて何かと世話を焼いていた。しかし主任の妻がガンを発病し密かに見舞いに行った時に、実は主任には長年別の愛人がいたことを知る。

家族というのは外にいる他人からは分からない。いつもいがみ合いばかりしているこの母娘だが、まだ母親が元気だった時は笑いながら一緒に晩ご飯を食べていた時期もあったのだ。元役者の母親は老いをまだ受け入れていないし、順雲もまた母の老いを受け入れていないのではないか。昔のように憎まれ口をたたきながら笑って2人で生活したいのに出来ないから苛立っているように思える。

Q&Aでは主演の2人も登場。もちろん役より若々しくて美しい。撮影中は2人とも演じるのがつらくて、特に順雲を演じた陳季霞は撮影後家に帰るたびに泣いていたそうだ。確かに観ているこちらもつらいシーンばかりだ。

ただ最後に母親が死んで拠り所を失くした順雲が屋上に登り呆然とするところに、近所の小さな女の子(この子もワケあり)に気付いて振り返るシーンは、ほんのちょっとだけ希望があるのかなと感じられた。