「繁花盛放〜香港電影美術1979_2001〜」

香港の油麻地にある「ブロードウェイシネマティック」はよく利用する映画館。カフェと本屋が併設されている。本は映画関連のものが多く、奥に映画雑誌のバックナンバーが置いてあり、ソファに座って閲覧出来るのが素敵。「キネマ旬報」もあり。そこで買ったのがこの本。中は広東語。この中に潭家明や張叔平などのお仕事ぶりが本人のコメントも入りながら解説されている。内容は
1,風格化美学
2,写実主義美学
3,武侠/動作美学
に分かれていて全部で64タイトルの映画が入っている。この本が作られたきっかけというのが日本の美術デザイナー種田陽平。「不夜城」を撮影する前、種田さんが「スワロウテイル」の写真集を香港人スタッフに見せたところ、これはいいということでこの本がつくられたらしい。確かに香港映画は公開時もパンフレットが無く手元に置く資料が少ないのがつらかった。この本はカラーで写真も多いし監督、美術、カメラマンなどのコメントが簡潔に述べられていてとても参考になる。HK$230(約3500円)。
私がなるほどと思ったのが「阿飛正傅(欲望の翼)」のページ。ノスタルジックな雰囲気を出す為に全体のカラートーンをくすんだ緑にして、夜のシーンでも安易に青みがかった照明は使用せず、何種類かの緑の照明を合わせて撮影している。張曼玉の衣装が地味めなのもこのため。
こういう裏話を知ると思わずうっとりとため息がでてしまう。とかく映画では俳優の演技とかカメラマンの撮り方とかが話題に上りがち。でも美術がひとつの言語となって雄弁に語る時がある。せりふがなくても小道具ひとつで感情を表現する時がある。これこそ美術冥利に尽きるというものである。