シネマート心斎橋で「アルファ 殺しの権利」を観る

メンドーサ監督の2018年製作映画。

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とにかく主人公の警官がイケメン過ぎ。でも熱血漢に見えて実は裏がある。

手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチの映像は前作「ローサは密告された」と同じ。臨場感に溢れていて、まるで自分も現場にいるようだ。

麻薬撲滅に血ナマコになる警察が一方では麻薬売買に関わっていたというオチは暗澹たる気持ちになる。しかもフィリピンだから現実にありそう。

麻薬の売人になったからといってお金持ちになるわけではなく、下っ端売人の生活はいつもカツカツだ。この警官にしろ売人にしろ好んで麻薬の売買をしているわけではない。ただただ生活のため。

最初から最後まで緊張感にあふれた場面の連続。そしてアットホームな場面でも何故か緊張する。

シネマート新宿、心斎橋では期間限定で公開中。観たい人は早めに。

邱澤(ロイ・チウ)主演「第九分局」をNetflixで観る

台湾では2019年8月29日に公開。「誰先愛上他的(先に愛した人)」でいい仕事をした邱澤もここでは「薄くした北村一輝」にしか見えない。

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幽霊が見えるヘタレ警官がその才能を買われ警察のとある部署「第九分局」にスカウトされる。そこでは幽霊が起こす事件を解決するのが仕事だった。

台湾の除霊は道教がベースになっている。なのでお札とか線香とか桃の木で作られた傘とかは全部道教アイテムだ。

なのに主人公が最後に対決するのはどう見てもキリスト教の黒魔術だろう。堕天使ルシファーとか。聖水でごまかしたけど、それで勝てるのかが不思議だ。

そういった混乱はありながらも台湾では大ヒット。特に夏は台湾の映画館はこういったホラー映画がぐんと多くなる。幽霊が身近なお国柄ならではだ。

主演の邱澤はそれほどでもなかったが、温貞菱(ウェン・チェンリン)と楊雁雁(ヤン・イェンイェン)は安定の演技力で見せてくれた。霊がのり移る役は、下手くそな俳優がやったらたとえCGで盛っても見ていられないくらいひどくなる場合がある。

何故か隋棠(ソニア・スイ)が本人役で登場し、彼女が主演する映画「青田街一號」の一部分が流れたりする。

あと何故か最後にゲストで呉慷仁(ウー・カンレン)が登場したりする。

何繋がりなんだろう?

 

「犯罪現場」を騰訊視頻(テンセントビデオ)で観る

香港では10月24日から、台湾では11月1日から公開。古天樂(ルイス・クー)が主役かと思いきや、最近主演作品が多い張繼聰(ルイス・チョン)が互角にやりあっている。

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宝石店の強盗事件が発生して1か月後、犯人の1人が殺されているのが発見される。その後更に共犯者が殺され、警察は主犯格の汪新元を必死に探す。ヘタレ警察官の林は街で汪と偶然出会うが、汪は「自分は犯人ではない」と林に言い残して姿を消した。

実は汪も仲間の敵を討つため真犯人を探していたのだ。非情で必要とあらば殺人も平気な汪だが、成り行きで間借りすることになった家で大家たちの暖かい対応に触れ、人間的な心を取り戻していく。

香港映画の主演俳優が徐々に次の世代に移っているのが分かる作品。古天樂の存在はまだまだ大きいが、張繼聰や姜皓文(フィリップ・キョン)も負けてはいない。そして若手として顔卓靈(チェリー・ガン)と吳肇軒(ン・シウヒン)を配置。脇もベテランをピシッと揃えてそつが無い。

監督は脚本家でもある馮志強(フォン・チーチャン)、プロデューサーは爾冬陞 (イー・トンシン)。音楽は金培達 (ピーター・カム)で、こちらも手堅い。

美術は「29+1(29歳問題)」でも担当した陳七。ちょっとファンタジーな美術が得意だ。

林が自分で改造した屋上の部屋がいい感じ。

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場所はどこだろう?すぐ側でMTRが走っている。
強盗事件が起きる宝石店は、大立ち回りがあるので一から作っている。

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場所は佐敦道(ジョーダンロード)と彌敦道 (ネイザンロード)の交差点近く。空店舗を改造して作っている。詳しくはここ。

https://www.hk01.com/%E9%9B%BB%E5%BD%B1/224742/%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E7%8F%BE%E5%A0%B4-%E7%BE%8E%E6%8C%87%E9%99%B3%E4%B8%83%E5%B0%88%E8%A8%AA-%E6%84%9B%E9%A6%99%E6%B8%AF%E6%99%AF%E5%9B%A0-%E8%A4%87%E9%9B%9C-%E7%B7%8A%E5%BC%B5%E6%84%9F-%E7%84%A1%E5%8F%AF%E5%8F%96%E4%BB%A3

予算はそれほどないと言いながら、きっちり作りこんでいる。

良心的な作品。

 

追記:2020年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で出品決定。

劉以豪(リュウ・イーハオ)主演ドラマ「極道千金(恋するマフィア娘)」をNetflixで観る

全8話。Netflixが制作する中国語ドラマの3本の中で、一番目立たない存在の作品。

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ありがち台湾ラブコメの流れのまま話は進み、そして終わってしまった。期待していた劉以豪も、期待以上の演技は見せずじまい。今が彼にとって脱皮する時だと思うのだが。今回も眉間にしわを寄せたアンニュイな演技を前面に押し出しているが、まだまだ掘り下げ方が浅い。更に複雑な感情を表現出来たら役の幅が広がるかもしれない。

メインの役者も、極道の親分役の黄仲崑や所属事務所の社長役の天心のベテラン以外はあまりパッとしない。相手役の女優は以前九把刀が監督した映画「報告老師!怪怪怪物!(2017)」で、怪物役をした人だった。

そんな中、いろんな作品でしょっちゅう見かけるこの人がここでも登場。

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黒道(ヤクザ)映画のチンピラといえば必ずこの人が出てくる。映画「角道2(2018)」では遂に金馬の助演男優賞にもノミネートされた。3枚目役が多いが、脇役には無くてはならない存在だ。この人はたとえセリフ無しのワンシーンだけの出演でも確実に役を観客に印象付けられる才能を持っている。

このドラマではこのアニキと常に行動を共にするロン毛と太っちょのコンビも強烈な個性を放っている。台湾はこういうサブキャラの層が厚くてうらやましい。

「雪暴(雪暴 白頭山の死闘)」をシネマート心斎橋で観る

予告編は良かったのだが。本編は予告編を越えられなかった。大陸では5月の連休に合わせて公開した。

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広大な雪山を背景にした男同士の死闘を期待したのだが、それはちょっと期待外れ。

俳優は好きな人ばかり。主人公の張震チャン・チェン)はもちろん、廖凡(リャオ・ファン)、黄覚(ホアン・ジュエ)、李光潔(リー・グアンジェ)も良かった。

監督はもともとは脚本家。寧浩(ニン・ハオ)監督の作品をいくつか書いている。でもその割には物語が薄い。それぞれの人間関係も太い繋がりが感じられない。

良くないのは一番の肝であるメインの死闘が山小屋の中でのみ展開することだろう。セットの中で決着がつくのなら、猛吹雪の雪山という必要性が無くなってしまった。冒頭の広大な雪山での金塊強盗の手際は良かったのに。

美人女医が案外男らしい。ならば変にウジウジした恋愛とかカッコつけた男の友情を絡めない方が良かった。そういう物語の進め方や、音楽の選択がダサいというか、一昔前の匂いがする。

もっと男臭い監督が演出したら、もっと男臭い映画になっていたと思う。もちろん撮影は更に過酷になるだろう。しかし身体を酷使したシーンというのはちゃんと画に現れるし、今回の俳優たちにはそれに耐えきれる自信があるはずだ。

東京FILMEXで「灼人秘密(NINA WU)」を観る

この映画を観るために、往復共に夜行バスを利用した。今のバスは昔よりシートが倒れないので全然眠れない。

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一人の女優が映画の主演を務める間に心理的にどんどん追い込まれて行き、現実と妄想の境がつかなくなる。基本のストーリーは「ブラック・スワン」との類似点が多い。
劇中劇の「謀戀」が1960年代の映画だからというのもあるが、それ以外のロケ地や美術もレトロ基調。特に中山樓でのロングショットは見応えがあった。

その他にも、土地銀行の前、波麗路西餐廳、台中のホテルの階段など。

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そして配役でずっと気になっていた宋芸樺と夏宇喬の共演。

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どっちがどっちでしょう???

この2人はデビュー当時からそっくりと言われ、ファンでさえ見分けがつかないほど似ている。実際私も「私的少女時代(私の少女時代)2015年公開」を観た時、「總舗師(祝宴!シェフ)2013年公開」の女の子が主演しているものとずっと思い込んでいた。

この映画を観れば、何故敢えてこの2人を共演させたのかが解かる仕組みになっている。

その後、夏宇喬は林書宇(トム・リン)監督と今年めでたく結婚。宋芸樺は大陸進出を狙うも、インタビューで上げ足取られて無理矢理「中国は私の祖国です」なんて言わされたりしてたいへんなことになった。

今年は「#Me Too」運動もあったし、芸能界はいつでもそういったセクシャルな噂は絶えないところである。それでも何者かになりたいんだったら、芸を磨くしかないんじゃないかと思うんだけどねえ。

台北金馬影展で「金都(私のプリンス・エドワード)」を観る

太子(プリンス・エドワード)にある金都商場という婚礼用品が一式揃えられるショッピングモールを舞台にした物語。

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金都商場で同棲もしている恋人とウェディングプランナーの会社を経営している莉芳には秘密があった。10年前にお金欲しさに大陸人と偽装結婚したままだったのだ。恋人と結婚するにはまず離婚しなくてはいけない。何とか相手を見つけ出し福州まで行くが、その過程で自分の結婚を見つめ直す。

まず莉芳の恋人であるエドワードのキャラ設定がおもしろい。Q&Aで監督が言っていたが、香港映画に登場する香港男性がいつも日常とかけ離れているので、自分が撮る時にはリアルにしたいと常々思っていたそうだ。監督が考えるリアル香港男性とは

1:そんなにかっこよくない。

2:子供っぽい。

3:母親の意見に逆らえない。

で、子供っぽいというのは映画「志明與春嬌(恋の紫煙Netflixで視聴可能)」や「分手100次(100回目の別れ:Netflixで視聴可能)」の中でも女性たちから言われているので、実際そうなんだろうw。

そんな特徴を見事に演じた朱柏康は映画主演は初めて。この作品で金馬では最優秀主演男優賞にノミネートされた。

映画のテーマは良かったが、肩透かしを何回か食らって盛り上がりに欠けている。偽装結婚役の大陸人がジャーナリストでちょっとカッコいいので、そのまま恋人と三角関係になって盛り上がるのかと思いきやそうならない。その大陸人にも恋人がいて、福州にいる時に莉芳と緊張感漂う女同士の探り合いがあるのかと思いきやそれも淡白にスルー。何かと口を挟んでくる姑にも不満はあるが強く言えず、結婚した後も同じ生活が繰り返されることが予想される。

つまりその変わらない生活が結婚なんだと主人公は最後に悟るのだが、まあ実際そうなんだろうなあ。

映画で福州のシーンが出てくるが、香港人が大陸で撮影するのはものすごくたいへんなので、全部香港の田舎で撮影したそうだw公安とかも監督が言うには「いかにも嘘っぽい(笑)」作りだそうだが、言われなければ分からないレベル。

監督はこれがデビュー作の新人だが、關錦鵬(スタンリー・クワン)のバックアップもあって、編集は何と大御所張叔平(ウィリアム・チョン)が担当している。彼が携わったおかげで、尺も短縮できて話の流れがスムーズになったとか。

香港は映画界全体が新人育成に積極的だが、これは映画監督を目指す人には本当にありがたい話だ。そのシステムの中で新しい才能がどんどん花開いている。一種のエリート教育だ。

 

追記1:2020年大阪アジアン映画祭で上映決定。もちろん日本初上映。

 

追記2:2023年5月19日から日本でも一般公開決定。

ポスターデザインがいい。