陳偉霆(ウィリアム・チャン)の良さが詰まっている香港映画「前度(ex)2010」

お金が集まらない、マーケットが小さいと映画が作られにくい環境が続く香港映画だが、それでも意欲的な佳作はたくさんある。特に才能のある若手監督を発掘して撮らせようとする気概が香港映画界全体に感じられる。

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香港で一番有名なエンターテイメントグループの英皇电影(エンペラー・モーション・ピクチャーズ)が製作した映画。主演も英皇所属の阿嬌(鍾欣潼/ジリアン・チョン)と陳偉霆(ウィリアム・チャン)だ。

監督は脚本家としても有名な麦曦茵(ヘイワード・マック)。なので内容がとてもスマート。単なる下世話な若い男女の恋愛のもつれ話になりがちなところを、もう一段高い場所に押し上げている。但し杜汶澤(チャップマン・トー)がプロデューサーなので、さわやかなままでは終わらない。

阿嬌が恋多き女を演じていて、出会う男から次々アプローチされてそのまま付き合っていく。それを嫌味に感じてしまうとこの映画は見続けられない。でも現実に阿嬌みたいな女の子がいたらそりゃモテるだろうさ。

そこにちょっとイケてない前カレ役として陳偉霆が登場する。この眼鏡を掛けただけで一気に平凡な男になれるところが彼の良いところだ。大陸ドラマでの常にドヤ顔の王子様役とは雲泥の差。大陸ドラマで変な演技癖がつく前に、まっとうな作品に戻って欲しいと願うばかりだ。

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このちょっと間の抜けた感じがいい。

騰訊視頻(テンセントビデオ)では広東語バージョンで視聴可能。

「FOREVER Dr.モーガンのNY事件簿(2014)」を騰訊視頻(テンセントビデオ)で見る

全22話のニューヨークを舞台にしたドラマ。人気が出れば永遠とシリーズ化するアメリカドラマだが、ヒットしなかったのか続編は無し。かといって面白くないわけではない。

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おそらく「主人公が不老不死」という設定がそれほど受け入れられなかったせいだと思うが、そこさえ乗り越えれば楽しめる。

200年間ずっと年も取らず何度も生き返るニューヨーク警察の監察医モーガンが、不審な殺人事件を次々と解決していく。

基本一話完結型で過去と現在を行ったり来たりしながら、自身の不老不死の謎にも迫っていく。しかしシリーズ化を見越して作られたせいなのかその謎は最後まで明らかにされない。その辺りで少しモヤモヤが残る。

流石ニューヨークというかロケ地がどこも様になる。事件のテーマも、ジャズ、SM、亡命した元国王、バレエ、ネット犯罪と様々。そこに過去のシーンとして奴隷を運ぶ船が登場したり、オリエント急行が登場したりする。

ドラマに登場する人物たちもキャラが濃い。

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それぞれ一癖も二癖もある。特に好きなのはモーガンのパートナーであるジョーの上司(写真の一番右側)。

モーガンアビゲイルモーガンとエイブの関係性がものすごく素敵だ。

監察医なので毎回解剖された遺体が登場するが、これがリアルで結構グロい。こんな特殊技術メイクも惜しげもなくじゃんじゃん見せられるのもアメリカドラマならではである。

最近、温い気の抜けたコーラみたいな大陸ドラマを多く見たので、こういった良心的な作品を見るとホッとする。

ドラマ「パトリック・メルローズ」が大陸でも愛奇藝で放送中

日本ではBS10スターチャンネルで12月から放送するが、大陸では今、毎週木曜日20時から1話ずつ更新中。

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全5話。有料会員になれば5話全部一度に見られるが、無料でも毎週1話ずつ見られる。

ベネディクト・カンバーバッチが主演で、製作総指揮も担当している。5話しかないが中身が濃い濃い。彼のイカれたヘロイン中毒者の演技がすごい。下手な役者がやると肩の力が入りまくりの大熱演をしてしまいがちだが、流石ベネディクト・カンバーバッチだ。力むことなくきちんと表現している。

第2話は子供時代に話が戻るのでほとんど子役に変わる。でもこの子役もすごい。この2話を見るとパトリックが何故ヤク中のアル中になったのかが理解できる。

それぞれの年代の美術、衣装も見どころのひとつ。

大陸は海外の映画の上映は制約があって厳しいが、ネットでの公開はまだ緩い。こんなヤク中の話も舞台が国内なら速攻アウトだが、海外だからOKになる。

たまに「もしかして単に審査官の趣味で審査が通ってるんじゃないのか?」なんて思う。

 

その後最後まで鑑賞。すごかった。ずっと圧倒されっぱなし。

第1話で主人公のデタラメな生き方に驚かされるが、その後第2話、第3話と見続けると、「実はデタラメなのはこの世界の方なんだ」と気付かされる。そこからあらためて第1話を見直すとそのもがき苦しむ姿に対してもう嫌悪感は無くなっている。

第3話で何とかヘロインを断つが、その後も断酒は出来ないまま。そんなアル中な姿を自分の息子たちに見せてしまい自己嫌悪に陥ったり。

最後は両親の死によって何とか前向きに進めるようになるが、やはり人生は苦しいままだろう。

基本うまくいっていない大人達ばかり登場する。そしてチョイ役でもそれぞれ何かを象徴している。

あー、原作も読みたくなってきた。

周跨ぎでとうとう最終回「如懿伝(如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~)」

ネット配信が月曜日から金曜日の1日2話ずつで最終回の87話だけ次の週の月曜日放送となり、まんまと2日間焦らされてしまった。

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mingmei2046.hatenablog.com

 

87話は長かったが見応えはたっぷり。今回の周迅(ジョウ・シュン)は実によかった。目線で心情を表現できるのは素晴らしい。特に中年にさしかかった皇帝が、辺境のお姫様に一目ぼれして「こんなに好きになったのは初めてなんだよ~。皇后なんだから何とかしてくれよ~。」と言われたシーンの「何をぬかしてんだ、この色ボケジジイは」という如懿の目がたまらなかった。皇帝相手に口に出しては言えないからね。

女子向けのドラマなので、男はあまりぱっとしない。

如懿は最初から少し風変わりな女の子として表現されていて、権力闘争には関心がない。しかしヤラれたらしっかりヤリ返す心意気は持っている。

周迅以外にも鄔君梅(ヴィヴィアン・ウー)が若手を抑える要としてしっかり機能していた。台湾でトレンディドラマの出演が多い張鈞甯(チャン・チュンニン)も大陸時代劇に馴染んでいたし、新人の辛芷蕾(シン・ジーレイ)も映画「長江圖(長江 愛の詩)」での高い評価通り、いい演技だった。

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しかし如懿の最大のライバルを演じる李純は完全に役不足。よく見たら映画「心理罪」で頭空っぽなかわいこちゃんを演じていた女優ではないか。成り上がり者の悲哀や欲望が全然足りない。色仕掛けで周りの男に取り入ろうとするにも、色気があまりにも足りない。セリフに頼るんじゃなくて、間の取り方とか声の高低さとか表現方法はいろいろあるだろうに。

このドラマで「おっ」と思ったのは梅のシーンで造花じゃない本物の梅が使われていたこと。もしかしたら造花かもしれないけど、かなり本物っぽい。ドラマ「甄嬛伝(宮廷の諍い女)」と比べて見ると、衣装やセットのこの数年の大陸ドラマの進化が良く分かる。

多分日本でも近いうちに放送するでしょう。

 

追記:予想通り、日本でも2019年5月25日からWOWOWで放送開始。

張芸謀(チャン・イーモウ)監督映画「影(SHADOW 影武者)」を映画館で観る

海外でも紹介されていて高評価らしい。多分日本でも近いうちに公開するだろう。

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一瞬、白黒映画かと思うくらいモノクロを基調とした映像。張芸謀の時代劇はいつもどの場所も均一に明るくて照明に奥行きがない。そこに薄~い素材で印刷した屏風や幕が部屋いっぱいに広がっている。登場人物たちも基本モノクロの衣装で、水墨画を布にデジタルプリントして衣装に仕上げたような感じ。もしワダエミさんが担当していたら、また一枚一枚手染めしてくれたかもしれないのにと思う。

撮影場所は北京のスタジオと、ロケは湖北省の各地。

主演は鄧超(ダン・チャオ)。1人2役出ずっぱりなので、鄧超が好きな人は思いっきり楽しめる仕上がりになっている。しかしこの人の演技は鼻につくというか、かっこいい自分を捨てきれないところが難点だった。流石に今回は監督が張芸謀なのでその部分はクリアできたが、相変わらず熱量はすごい。昭和の役者さんはこういう熱い演技をする人が多かったが、最近は素と演技の境目が曖昧なほうが評価されるし、私もその方が好きだったりする。

その鄧超の相手役は実生活でもヨメの孫麗(スン・リー)。こちらはドラマでよくやるオーバーな演技をグッと抑えて、2人の男の間で揺れる女心をうまく表現している。

バカ殿かと思いきやのどんでん返しは予想通りで面白かったし、そこからまたひっくり返るのも良かった。最後孫麗のカットで終わるが、解釈は人それぞれ。

武器を使って坂道を駆け降りるシーンは中国人の観客からも笑いが漏れていたw前作「長城(グレート・ウォール)」の孔明灯(ランタン)レベルの張芸謀なりの娯楽ギャクなんだろう。

 

追記:日本では2019年9月6日から公開。

「カイジ」が豪華にリメイクされて中国映画に「動物世界(カイジ 動物世界)」

監督の韓延が「カイジ」の大ファンで原作者の福本伸行に一度は断られるも、何度も自分の脚本を送ってやっと許可が下りたらしい。日本ではNetflixで見られるので、それで見た人がちらほら。

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原作漫画と日本版映画はまだ見ていない。単純なジャンケンゲームかと思いきや、複雑な計算が絡んだ心理戦で、2度見してやっと流れが理解できた。こういう場合、ネットは便利だ。

美術は豪華。約160メートル×約40メートル×高さ約50メートルの船内のセットは圧巻。ちょっとした校庭の大きさだ。そこで350人が4ヶ月かけてセットを作った。

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人間がなんて小さいwww

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天井は全部CGかと思ったが、中央のガラス部分がちゃんとセットとして作ってある。

詳しくはここに。

《动物世界》特辑揭制景历程 李易峰赞游轮细节考究_娱乐头条_大众网

カイジ役は李易峰(リー・イーフォン)。前作の映画「心理罪」の演技はイマイチだったが、今回はうまくハマっている。黒目の小ささがかえって睨みつける時に凄みが出ていい。

そしてマイケル・ダグラスも存在感たっぷりだ。これも韓延がキャラのプロフィールをこと細かく書いて送って口説き落としたそうだ。

監督のオリジナル部分はピエロのヒーローが活躍する部分だろう。「ピエロがヒーローってw」と最初は違和感だったが、世の中には蝙蝠やら蜘蛛、蟻のヒーローもいるんだからアリなんだろう。でもこのピエロがマクドナルドのドナルドみたいで十分怖い。

そのピエロが空想の中で悪役をバタバタやっつける部分は、韓延の前作「滚蛋吧!腫瘤君(Go Away Mr.Tumor)」と共通したものがある。いかにもゲーム好きの監督らしい。

既に第3部までの版権を買い取っているので、映画も第3部まであり、第2部はもう準備を始めている。この映画の最後も実はカイジの父親もこのギャンブルゲームに関係していることを匂わして終わっていた。

最終的に5億元の興行成績を残している。第1週間で2.4億元、第2週間で4.4億元だ。この数字を見ると最初の2週間で観たい人は全員観に行った感じだ。大陸の映画館数は年々増えていても、作品の公開時間はとても短い。新しい映画館は殆どシネコンなんだから、ずらして公開とかしてもいいと思うが。

この映画はセットに奥行きがあるので、スマホの小さい画面だとちょっともったいない。

 

追記:2019年1月18日から日本でも一般公開。

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日本ではウケるかなあ。

10億元は超えたけど「一出好戯」

2018年8月10日公開で、18日には興行成績10億元を超えた。それだけみんな監督としての黄渤(ホアン・ボウ)に期待していたということだろう。今ではネットでも公開中。

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黄渤が監督脚本主演担当で、気合が入っているのはひしひしと伝わってくる。

会社の慰安旅行の日に隕石が地球に衝突。自分たちはバスごと孤島に打ち上げられる。どうやら世界は終わり、自分たちだけ生き延びたらしい。というのがあらすじ。

それにしても、漂流する人数多すぎ。30人ぐらいいるぞ。そのためそれぞれのキャラが深く掘り下げられず、主演+その他の賑やかしになっている。そしてサバイバル映画なのかと思いきや、水も食べ物も住む場所も困らない設定だ。

その後極限の状況の中で誰がリーダーになるかの争いになるが、それもあまりシリアスな展開にはならず、ごちゃごちゃしたまま話は進む。それで136分は長すぎ。はしょって100分ぐらいが丁度いい。娯楽作品なんだから。

全体的に歯切れが悪いのは迷いながら撮ったからだろう。いろんなものを詰め込んだわりにはどれも突っ込みが甘い。そのせいで一番言いたいことが何なのかさっぱり分からくなってしまった。

以前の大陸映画市場の流れだと10億超えるには、最初に観た人が周りにガンガン勧めて、その口コミでぶわーって広がるのが普通だった。しかしこの映画は最初の9日間で10億元を超えている。つまり口コミが広がる前にみんな観ているのだ。最近の話題作はだいたいこのパターンだ。これも人口の多さのなせる技か。最初の1週間は料金が安く設定されているのも原因だろう。

でもこうなると話題作以外は瀕死の状態。ネットにすら上がってこない。でも個人的に好きなのは大味の大作より、スパイスが効いた佳作だったりするんだけどなあ。