「暴雪将至(迫り来る嵐)」をネットで観る

2017年東京国際映画祭で主演の段奕宏(ドアン・イーホン)が「最優秀男優賞」を獲得したニュースは大陸でも話題になった。

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1997年の湖南省の田舎町。製鉄工場の警備員をしている余国偉は泥棒を捕まえる名探偵として地元では有名だ。この町で連続強姦殺人事件が起き、余も独自に犯人を捕まえようとする。

監督はこれが初長編作品になる董越(ドン・ユエ)。大陸では新人監督を発掘する動きも活発だ。しかしデビューした後も監督として続けらるかはまた別のお話。

ずっと雨が降り続け、全体的にブルーグレーの画面で統一されている。ロケーションがいい。古い国営工場、田舎の町の目抜き通り。その中の美容室や食堂もいい味を醸し出している。芸術顧問(アートコンサルタント)が3人もいるので、その辺は監督もこだわっているんだろう。

主演の段奕宏はかなりの役者バカ(誉め言葉)。基本的にどんな役でも演じる。真面目で熱血な役が多いが、もっといやらしい役をして欲しい。この人には任達華(サイモン・ヤム)や載立忍(レオン・ダイ)とはまた違う、滲み出るいやらしさがあると思う。

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大陸の薄幸女優ベスト3には絶対入る江一燕も好演している。燕子はこの時代を象徴している難しい役だ。

いかりや長介を彷彿とさせる杜源も超ベテラン俳優。

新人監督なので仕方ないと思うが、全体的に説明不足。見る側の想像をかなり足さないと監督が意図する意味合いにならない。なので一般公開直後から、ネット上で「暴雪将至見て理解できなかった人集まれ~」みたいな感じで質問が大量にupされた。例えば天気と主人公の心情がリンクしているのは分かるが、じゃあ実際何を考えているのかは不明問題とか。映画祭でのQ&Aでも同じ質問を何度も受けているに違いない。

多分日本でも今後公開するんじゃないだろうか。少なくとも中国映画特集みたいなイベントでは上映しそう。

 

追記:2019年1月より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開決定。

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日本版ポスター。やはりビジュアルデザインは日本のほうが上手。

こんな映画がもっと増えればいい「心迷宮(2015)」

中華圏の映画やドラマが好きな人なら「一体・・何時になったら華流は来るんだろう・・・(遠い目)」と何度も思ったことだろう。

今はネットがあるので情報収集も便利になったが、まだまだ全体を網羅出来るとは言い難い。そんな中で「アジアンパラダイス」さんは貴重な情報源だ。

アジアンパラダイス

「心迷宮」は「アジアンパラダイス」さんの紹介で観た中国映画。

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実際にあった話を元ネタに、新人監督の忻鈺坤(シン・ユークン)が1年かけて脚本を書き、撮った初の長編映画。「メメント」以降過去に遡って進行する映画が増えたがこの映画もそうだ。河南省の小さな村で、一つの死体をめぐって住民の思惑がそれぞれ交差していく。

監督の経歴がおもしろい。北京電影学院文学科と監督科の試験に落ちた後、自分で商売を始める。その後西安で音声の助手をしたり、撮影現場で雑用係として働く。西安の地元テレビ局に移り多くのテレビ番組を制作、そしてまた北京電影学院撮影科の1年コースに入る。卒業後は北京で広告や宣伝用の映像を撮影。大陸ではこういった紆余曲折は結構ある。現場の雑用係が次に会ったら音声さんになっていたり、記録さんが脚本家になっていたり。

無名の新人監督の作品なので予算はない。予算がないとまず削られるのは照明と美術。カメラは手持ち。衣装は自前。出演者も全員無名だ。

そんな低予算映画だが、香港、台湾、ヴェネツィアで賞も獲得し大好評だった。

とにかく脚本の構成が素晴らしい。すべての伏線が最後にピタッと収まって気持ちいい。村特有の濃い人間関係とかちょっと腹黒い打算とかの描写もうまい。そして最後のシーンで棺桶を挟んで見つめあう親子を持ってきたのに座布団三枚あげたくなった。

その後忻鈺坤はその実力を徐々に認められ、2人の監督と一緒に陳柏霖(チェン・ボーリン)主演の中国映画「再見、在又不見(2016)」を撮り、新作「爆裂無声」が今年上映される予定だ(本来なら2017年10月に公開予定だったが延期され、未だに確定していない)。

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これは予算たっぷり。

 

追記:「中国映画祭電影2018」にて、東京と大阪で上映。

早くもネットに登場。呉宇森(ジョン・ウー)監督映画「追捕(マンハント)」

愛奇藝(アイチーイー)ネットで有料放映が開始された。日本では2月9日から公開予定。

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呉宇森らしい映画。男の友情&白い鳩。日本オールロケで大阪と九州がメイン。あべのハルカスはいい宣伝になったと思う。日本でのロケとは言いながら、画面は香港映画っぽい。特に高層ビルで開かれるパーティ―とか、川岸のレストランとか香港映画でよく見るシーンだ。

冒頭でまったく着物が似合わない2人が登場するが、それもそのはず呉宇森の娘とハ・ジウォンだ。これでは変装になっていないよ~w

男性俳優陣はどなたも素晴らしい。特に國村隼池内博之が良かった。2人とも百面相のように表情がよく変わる。香港映画ではお馴染みの倉田保昭もかなりいい役だ。今では香港で道場を開いているらしい。

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建設現場の制服を着ていても福山雅治はかっこいい。日本刀を振り回すシーンはちょっと時代劇っぽい。張涵予(チャン・ハンユー)は常に渋い。

アクションはバラエティに富んで見どころ満載。水上バイクでのぶつかり合い(これにOKを出した大阪はすごい)。レストランでの銃撃戦、バイクでのカーチェイス等々。

美人は花瓶程度の呉宇森映画だが、真由美役の戚薇(チー・ウェイ)はアクションにも参加して健闘していたと思う。戚薇は最近テレビドラマでようやくメインキャストで登場する機会が増えた下積みのある女優さんだ。若い女優と張り合うようなバチバチのメイクをやめればもっといい女優になると思う。

ストーリーはいたってシンプル。「桜庭ななみも実はグルでした」というオチでも面白かったかなあとも思ったが、ひねらずそのまま終わる。

大陸での興行成績は残念ながらイマイチ。日本はどうだろう?

黄軒(ホァン・シュアン)繋がりで「恋愛中的城市(恋する都市 5つの物語)(2015)」を見る

注意:日本では1月28日から公開することを知ったのはこの感想を書いてから。ちょっとネタバレしているので、気になる人は映画を観てからこれを読みましょう。

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5話のオムニバス映画。この手の映画はロケ地と俳優をとっかえひっかえで多く作られている。新人監督と今が旬の俳優を紹介するカタログ的な意味合いが強い。

第1話:プラハ。主人公の男の子は台湾映画「共犯」で不良を演じた人。スリの相手と一夜を過ごす話。余分な説明無しで最後まで通したセンスはよかった。

第2話:上海。失恋を機に18歳から独学でフランス料理を覚えた20代の女が上海の一軒家でレストランを開くという無茶な設定。これが出来るのは親か不倫相手が金持ちしかない。大体友達が犬をレストランに持ち込んでいるのを注意しない時点でダメだろう。そこに超イケメン韓国人が主人公を助けに来るのだ。100%ありえねー。

第3話:パリ。人生最悪の日にミステリアスな女と恋に落ちる。実は彼女は・・・というファンタジー。リアリティーがあるのは黄軒が演じたからこそ。ピエロの服が良く似合うw「空海」でも共演した張榕容(チャン・ロンロン)との掛け合いは特に良かった。

第4話:北海道の片田舎。ハネムーン中、社長からいきなり干魚を買ってくるように命令される。当然夫婦仲は険悪ムードに。でも最後はハッピーエンド。

第5話:フィレンツェ。元カレの結婚式に呼ばれて何とか見返したいと焦る女。こんな話は耳タコ。

上海と北海道以外はいかにも観光名所みたいな場所で撮影されているのでつまらない。監督の街に対する理解度が深ければまた違っていただろう。

映画自体よりもエンドロールを読む方がおもしろい。プラダ篇と北海道篇のプロデューサーは魏徳聖(ウェイ・ダ―ション)。上海篇とパリ篇のプロデューサーは岩井俊二フィレンツェのプロデューサーは關錦鵬(スタンリー・クワン)。協力者の名前には山田洋次、北川悦史子、陳果(フルーツ・チャン)が名を連ね、そしてエンディングテーマを歌っているのは張曼玉マギー・チャン)。この映画を元に相互に人脈が広がって次に何が出来るのかというのが大事なんだと思う。

岩井俊二は今後中国映画界で仕事をすることを公言しているので、そのうち岩井俊二監督の中国映画が見られるかもしれない。中華圏にも業界内外で彼のファンは多い。

馮小剛(フォン・シャオガン)監督作品「芳華(芳華-Youth-)」で年越し

明けましておめでとうございます。旧正月がメインな大陸も年々1月1日のイベントが増えてきている。

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文革時代のお話ということで超美化されていたら嫌だなあと思っていたが、割とあっさり1976年まで進むので杞憂に終わった。その後は1979年の中越戦争のシーンになり、文工団(芸術を主体とした部隊)も解散してしまう。青春映画は必ず最後はみんなショッぱい大人になって終わるのが決まりだが(そうじゃないと甘酸っぱい青春映画にならない)、この映画でも1991年で終わる。

海南島には馮小剛の映画会社があり、最近の彼の映画はその「馮小剛映画村」で撮影されることが多い。この映画に登場する文工団の建物もそうだ。

主演は「妖猫伝」と同じく黄軒。おっさん時代まで彼が演じるが、ちゃんとしっかりおっさんだったw今年で32歳なのでもう若手とは言えないが、20代俳優が頼りにならない今、ひっぱりだこだ。

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しかし女優はしっかり育ってきている。この映画で主演している女優たちは今後大いに活躍するに違いない。

途中の中越戦争シーンはかなり圧巻。360度ぐるぐる回るカメラアングルで、人がバタバタ死んでいき、戦車や戦闘機が登場して、火炎放射器で焼きまくっている。しかしそのけがの状態がかなりグロ。一緒に見に行った中国人女子は号泣して、家について即嘔吐した。

馮小剛作品は中高年が主にお客さんだ。この作品も文革時代に青春を過ごしたであろう中高年の心を捕えて既に10億人民元の興行成績を突破した。

単なる「あの頃は良かった」的な懐古主義的な映画でもないし、若さだけを美化する映画でもなかった。「若い」って案外苦いしね。ちょっとドキュメンタリーに近いかもしれない。

 

追加:「芳華(ほうか)-Youth-」の邦題で2019年4月から東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国で公開決定。

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ポスターはそれほど変わらず。このプールシーンにしろ何だが女子の撮り方がエロい。それも青春だからかw?

陳凱歌(チェン・カイコー)監督「妖猫伝(空海 KU-KAI 美しき王妃の謎)」を観る

日本では2018年2月24日から公開なので、ネタバレ無しで感想を少し。

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私が見たのは普通の2D。未だに日本で陳凱歌監督を紹介する時、「あの「さらば、わが愛 覇王別姫」の監督」として紹介されることが多いが、一体何年前の話をしてるんだといつも思う。

中国映画と言えば、その土地の大きさを生かしたスケールの大きいセットをまず思い浮かべるが、今回何故かどのシーンも広がりを感じられない。この映画を製作するにあたり新しく大規模な映画村を作ったのだが、一個一個の部屋が大陸の他の撮影所に比べて狭いと思う。

中国人15人と一緒に映画を見に行ったのだが、染谷君の口の動きとセリフが合っていることにみんな感心していた。吹き替え前提をいいことにセリフをまったく覚えず撮影現場ではずっと「1234567」で通した大陸の若手女優の話は特に有名だ。

今年よく目にするようになった秦昊(チン・ハオ)がここでも登場でちょっとうれしい。この人の演技は見ているだけでおもしろい。何だかリアルでのぞき見している気分になる。今回も妙に生々しいベッドシーンを披露している。

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絶世の美女楊貴妃役にはこれまた最近売れている張榕容(チャン・ロンロン)。映画の中でもめちゃくちゃキレイ。

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そして内容。やっぱりとっちらかっているというか。陳凱歌の美意識にはついていけない。おいしいところは全部CGの猫に持っていいかれているし。髪の毛が猫に変わるのはウケ狙い?

そして肝心かなめの人物に中国若手俳優二人を配置しているが、どっちも個性が無さ過ぎて区別がつかない。最後の謎解きにこの2人が関わってくるというのに、何故こんな薄っぺらい演技しかできない彼らを選んだんだろう?それでも中国人女子の間では「ああ、あの人ね」ぐらいの知名度はあるらしい。それとは反対におっさん世代のベテラン俳優は実にいい。李白とか。

この大陸20代男性俳優の演技できない問題はかなり深刻。何故みんなして色白淡泊イケメン路線を目指すのかも謎。こんな時こそ演技が出来るブサイク個性派俳優の出番なのに!

12月15日から公開の映画「奇門遁甲」

「15日から公開!」と言いながら最近の映画は1日前倒しで上映することが多い。しかも初日のチケットが超安い。スマホのアプリで買ったら9.8元(大体170円!)だった。何でこんなに安いんだろう?仕組みがイマイチ分からない。

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脚本&プロデューサー&編集は徐克(ツイ・ハーク)、監督は袁和平(ユエン・ウーピン)。ウルトラマン的怪獣特撮世界と香港アクションが融合した世界観は何となく懐かしい。と思ったら1982年の香港映画のリメイクだった。

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監督は同じ袁和平。こっちも楽しそうだw

「妖怪VS人類」「悪い妖怪VSカンフーの達人」という設定に個人的に飽きているのであんまり乗れなかったが、全体的に楽しい娯楽作品だと思う。登場する妖怪の風貌とかいかにも男子が好きそうな感じ。

そんな私が一番ツボにハマったのが伍佰(ウー・パイ)VS伍佰の戦い。今回伍佰さんは大活躍である。

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この作品にも倪妮(ニーニー)と周冬雨(チョウ・ドンユィ)が登場。この2人を最近よく見かけるが、

現在、結婚と出産でアイドル女優は休業中のアンジェラベイビーの空いた席にいるのが倪妮。

現在、結婚と離婚を経験して流石にそろそろアイドルと言うには無理感が出てきた阿Sa(蔡卓妍/シャーリーン・チョイ )の空いた席にいるのが周冬雨。

という理由からではないかと思う。あと本人たちがグイグイいきたい時期なんだろう。

特別ゲストで黄暁明がちょっとだけ出演している。この時には観客の中で「おお~」とどよめきが出た。

最後は続きを作っても作らなくてもいいような終わり方だった。こういう往年の香港映画っぽい作品は多いが、実際そんなに大陸人民に受けいられているとは思えない。

これから旧正月にかけて大作が目白押しだが、小粋な佳作も増えて欲しい。