台北電影節で「明月幾時有」を観る

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日本軍占領下における遊撃隊の活躍を、史実を元に映画化した作品。

抗日ゲリラ戦の話だが緊迫感はあまりない。どちらかというとユーモラス。それは母親役の葉紱嫻(ディニー・イップ)や劉黑仔役の彭于晏(エディ・ポン)の本来のキャラに依るところが大きいかもw

霍建華はクラシックな服装がよく似合うイケメン。周迅(ジョウ・シュン)はベテランというほどの貫禄も無く、フレッシュ感も意外性もなくつらいところ。そしてここにもbabyjohn蔡瀚億が!きっといろんな監督に気に入られているんだろう。

そして永瀬正敏も。予習なしで観たのでこれには驚いた。軍人だが霍建華に「幾と何はどうやって使い分けるんだ?」と漢詩の話をするような日本人役だ。

今回上映したのは中国語版だが、広東語版もある。本来ならみんな広東語で話せばいいのだろうが、そうなると主役級が全部吹き替えになってしまうのでそれも不自然だ。(周迅:大陸、彭于晏&霍建華:台湾)

ロケ地は広東省の開平や香港の博物館など。住宅地がメインで、古い写真などでよく見かけるいかにも香港っぽい場所はあまり出てこない。

許鞍華(アン・ホイ)監督はこの映画でも写実的な描写を行っている。普通の大陸映画ならもっと盛り上げて英雄がウォーとか叫ぶんだろうが、この映画は淡々としている。戦争映画ではなく戦争中の庶民のお話なのだ。

大ヒットはしなくても心に沁みる映画。

主役2人の演技がすごい「愚行録」

台北電影節中はほぼ毎日映画を観ている。で、たまに1本も見ない日があると逆に体が落ち着かない。

そんなわけで「愚行録」を観た。日本では既に公開中止らしいが、台湾では大丈夫らしい。

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特に予習無しで鑑賞。後味の悪さは最近の日本映画の流行なのだろうか?子供の父親が誰なのか最初から何となく予想できるし、理想の夫婦の裏の顔といってもそんなダークでもない。フツーの人がなりふり構わずあがくとああなるよねと思っただけ。「日本は格差社会じゃなくて階級社会」と言っていたけど、いやいやこんなもんじゃないですよ、世界各地の階級社会は。こんな風に不安だけ煽るうたい文句もどうかと。

但し、妻夫木聡満島ひかりの演技は良かった。特に後半の満島ひかりの一人語り。刺した感じがこちらにも伝わってくるよう。あと寝ている妹に複数の手が伸びる演出が秀逸。確かに好きでもない男から言い寄られる時は、まさしくああいう感じだ。

愛情というのは学習が必要で、習っていないと表現することは出来ない。よく本能から湧き上がる「はず」と母性神話について語られるが、飼育された動物だって育児放棄することがあるのだ。でも親に限らず周りの大人が愛情を与えればいいと思うが、難しいのかなあ。

台北電影節で「強尼・凱克(ジョニーは行方不明/台北暮色)」を観る

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つかみどころがない映画。エッセイ映画というか。台北での日々の出来事を撮った映画で特に起承転結もない。

だからと言って駄作というわけではなく、映像の中の台北は美しく、台北という場所に対する愛に溢れている。

香港人のお金持ちの彼氏がいて娘もいるが、実は彼氏は既婚者という女。

自分の家族とは疎遠で、かつての恩師の家に入り浸っているリフォーム業の男。

発達障害っぽい少年と母親とその家族。

女が買っていたインコが逃げてしまい、そこから繋がる関係。問題は解決していないが大丈夫、明日もまたなんとか生きていけるだろうというような風で終わる。

Q&Aでは深読みした観客が鋭く監督に質問するが、「そこまで考えていなかったです」という答えが多かった。そう、これは深読みなんて必要のない映画なのだ。

 

追記:なんと第18回東京フィルメックスで日本でも上映された

「ジョニーは行方不明」監督、ホウ・シャオシェンの「疲れるね」発言で作品を再編集 (映画ナタリー) - Yahoo!ニュース

あらすじを追う映画でもないし、人生がひっくり返るような出来事もない。でも寓話的な、今の台北の日常を上手に汲み取っている映画だと思う。軽めのフットワークで見るといいかも。

そして2018年11月24日から日本でも一般公開予定。

台北電影節で「骨妹」を観る

今年の大阪アジアン映画祭では「姉妹関係」というタイトルで上映。

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女性の同性愛をテーマにした映画だが、はっきりした描写はない。

マカオのマッサージ店で働く女の子がお互い助け合いながら生きていくお話。

若い時の主役を演じる廖子妤(フィッシュ・リウ)は、香港映画「レイジー・ヘイジー・クレイジー」で援助交際をしている女子高生を演じたマレーシア籍の女優。インタビューを聴く限りちょっと天然系。

大人になってからの主役を演じるのは梁詠琪(ジジ・リョン)。貫禄は出てきたけどいい感じに年を重ねている。

数年前からマカオ人によるマカオ人のための映画を撮ろうという動きがあって、この映画もそのひとつ。監督はマカオ出身で台湾で映画を学んだ。そんな新人監督を支えるシステムが香港や台湾にはある。

映画の冒頭は台湾の宜蘭から始まる。アル中の詩詩が怪我をするたび駆け込むのはしょっちゅうロケで使われる利生醫院だ。

その他の主なロケ地はここ。

film-pilgrimage.com

この映画を観ていると友情と愛情の違いはどこにあるのだろうと疑問に思う。途中詩詩に求婚する台湾人が現れて(何でこんなにダサい恰好なんだw)靈靈は身を引くわけだが、2人で幸せになる方法は当時は無かったんだろうなと思う。靈靈と違って詩詩の場合は20年後にやっと自分の気持ちに気付くくらいの好き度だったので、世間の偏見に対抗することは出来なかっただろう。

その他にマカオのマッサージ業界の裏側がおもしろかった。番号でお互いを呼び合うのだが、「38」は「ビッチ」の意味として有名だが、「19」もかなりヤバいらしい。広東語の粗口なのだが、中国語に訳せないらしく監督も聞かれて困っていた。

台湾での一般公開は7日から。

台湾一周の旅ー台中そして台北

嘉義駅からまた各駅列車に乗り、新烏日駅に降りる。新烏日駅は高鐵台中駅と隣接しているので結構大きい。ここからバスに乗って目指すのは「彩虹眷村」だ。

彩虹眷村は一人のおじいさんがたった一人で村中の壁や地面に色彩豊かな絵を描き続けて有名になった場所だ。今でいう「アウトサイダーアート」になるんだろう。昔北京にまだいた頃に彼の作品集を買ったことがあって、ずっと来たかったのだ。

ここは台中駅からバスで行くより新烏日駅のほうが近い。有名になったので「彩虹眷村」というバス停まであるので迷わないはずだ。

そんなに大きな村でもなく人だかりもあるのですぐに分かった。

でも何か作風が変ってきている?

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おじいさんは庭みたいなところでスタッフと一緒にノベルティを売っていて、外で若い人たちが何人かいておじいさん風な絵を描いていた。

それは違うだろう?

確かに長年風雨に晒されて保存や修復も必要だと思うが、もう若い人がわざとヘタウマに描いたような別の絵になっちゃってるよ。昔私が買って見た画集の中の絵じゃないよ。

きっといろんな事情があるんだろうと思いつつ、すぐにまたバスに乗って駅に戻った。

そこからまた各駅列車で台北に向かう。

約2週間ぶりの台北は何だか都会に見えた。せかせか歩く人を見るのはなんて久しぶりだろう。

前に台湾の人が言っていた「台北は台湾の中でもちょっと特別」という意味が少しだけ分かったような気がした。

台湾一周の旅ー嘉義3

台北電影節があるので、30日の夜までには台北に戻りたいと思っていた。

しかし嘉義でもう一つ行きたい場所が出来てしまった。

それは「台糖蒜頭糖廠」。この工場の中だけ走る列車があるのだ。しかもここは伍佰(ウー・パイ)のお父さんが働いていた場所で少年時代の伍佰も住んでいたとか。

まずどうやって行くかネットで調べた。高鐵嘉義駅と台鐵嘉義駅を繋ぐ連絡バスが20分に1本出ているのでまずこれに乗り、その後高鐵嘉義駅から台糖蒜頭糖廠行きのバスが1時間に1本あるのでこれに乗ることにした。工場内の列車は1日10時と15時しか運行しない。何が何でも10時の列車に乗って午後には台中に着きたいところ。

台鐵嘉義駅でスーツケースをコインロッカーにぶち込んで連絡バスを待つ。品のいいおばあさんとたまたま一緒になったので、バスの中でいろいろ話す。おばあさんは日本語がとても上手だった。旅行が好きで日本へも毎年お友達と出かけるのだそうだ。高速を走り、嘉義市内を離れると延々と平野が広がる。伍佰は少年時代に山を見たことがなかったそうだ。確かにどこを見渡しても丘すらない。

おばあさんとは高鐵嘉義駅で別れる。新幹線に乗って台北の歯医者に行くそうだ。外見通りのハイソなおばあさんだ。

時間通りに台糖蒜頭糖廠行きのバスに乗る。最近出来た国立故宮博物館南院を過ぎる。「何だってまたこんな場所に・・・」というところにある。

台糖蒜頭糖廠は台南の十鼓仁糖文創園區と正反対でまったく商売っ気がない。列車に乗る時に100元払うだけで後は無料。だって中には見るものが何にもない。というか修理していないのでどこもボロボロ。

列車には私と家族連れが2組だった。おじいさんが案内役だが、國語が話せないので台語のみ。難易度が高いなあ。

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スピードはかなり遅い。ママチャリぐらい?

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敷地を抜けて一般道路の脇も走る。

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工場内にはもう使われていない施設も。

大体30分でもとに戻る。気も済んだので急いで行きとは逆の順序で台鐵嘉義駅に戻る。

台湾一周の旅ー嘉義2

阿里山から戻る時に、時間もまだ早かったので嘉義駅ではなく1個手前の北門駅で下りた。近くに監獄博物館があるのだ。だが行って分かったが一般公開しておらず、外見を見るだけで終わってしまった。

それでトボトボ歩いていると目の前に日本家屋群がどーんと現れた。まさに街のように。台湾で古い日本家屋に遭遇するのは珍しい事ではないが、このほどの数が集まっているのにはお目にかかったことがない。

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阿里山鐡道は阿里山にあるタイワンヒノキを麓に運ぶために日本人が開発した。かつてその麓にあった日本人村を修復再現して公園とお店にリノベーションしたのだ。

お店の中は様々。カフェ、ラーメン屋、雑貨屋、お土産屋など。

あるお店の中には台湾映画「KANO(KANO 1931海の向こうの甲子園)」の監督の部屋が今でもそのまま飾ってあった。

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「甲子園」の文字が!

残念ながら閉店まじかで中に入ることは出来なかった。お店は大体夕方6時で閉店してしまうのだ。

確かにそのまま撮影出来るよなあというぐらいしっかりした造りだ。

そのまま公園の敷地内を回っていると外れに歴史資料館のような建物があり、そこで2人のおじいさんと話し込んでしまった。

檜村と呼ばれたこの場所は戦後廃れてしまい、どの家もボロボロだったそうだ。その後嘉義の歴史を見直す気運が起こり、修復に至ったそうだ。材料は全てタイワンヒノキ。確かに家の中は檜の香りがする。

日本国内でも昭和初期の古い家をこれほどきちんと保存したところはほぼ無いのではないか。阿里山鐡道は日本でも有名だけど(実際列車の中には多くの日本人がいた)、檜村のことを知る人はとても少ないと思う。